『ぁ・・・ま・・・だ・・・』
『まだ!?十分だろう!?それとも我を誘う口実か!?』
『なっぁ・・・ちがっっふ・・・』
『無理だこれ以上待てぬ・・・我が・・・』
『あ・・・ん・・・っ』
『くっ・・・』
ざらりとした空気は、吐息と共に軋む褥(しとね)を濡らし、ふわりと桟を撫でた風が、虫の声を届けて色を変えていった。
『あ・・・ギョン・・・様・・・』
『ああ・・・少し・・・このまま・・・』
緩やかに、張りつめた体を解し倒れ込むテギョンの背中に腕を回したミニョは、天井を見上げた。
『え、あ・・・』
震えた体のその下で、擦(す)れる肌に零れた蜜が乾いていく。
『クックク・・・湯浴みをせねばなるまい・・・』
喉奥で笑いくぐもる声は、腰を進めてまた笑っていた。
『ぁ・・・だめ・・・』
『主(ぬし)のだめは聞かぬ・・・我を変えるは主だ』
『違っ・・・ぁんっふぁ・・・あ・・・そ・・・』
嘘か真(まこと)か、肌を滑る手のぬくもりは真だ。
真実は、その頭の中にしか存在しない。
真実は、戻された記憶の片隅に小さな憂いを残しただけだ。
★★★★★☆☆☆★★★★★
『おいっ!おいっ!ミニョ!ミニョってば!ミニョッ!!!!しっかりしろーっ!ミーニョー!』
わんわんオイオイ泣いているのか焦っているかパチパチミニョの頬を叩くミナムは、一際強く両頬を叩いて、薄っすら目を開けたミニョを安堵して抱きしめていた。
『わー、ミーニョー良かったー・・・死んじゃったかと思ったー』
時間にして数秒。
倒れたミニョは、ミナムの頭の上にある肖像画を見上げた。
『えっ!?あっ!?あれ!?』
ピリリと頬に走る痛みを手を当てて抑え、抱きつくミナムの首根っこを掴んだミニョは、力一杯剥がしている。
『えっ!?あれ!?何!?ここ!?』
辺りを見回し、額や顔、後頭部とあちこち触れて状況を考えているミニョを離れたミナムが片膝ついて覗き込んだ。
『って、お前、大丈夫か!?何があったか覚えてる!?』
伸ばした手の平をミニョの額に当てた。
『えっ・・・ええ・・・あ!!!!ああそっ、そう!!!』
ミナムの胸倉を掴んだミニョは、引き寄せて顔を見た。
『ちょ、ミニョ何すんだよっ!痛っ、だっ、大丈夫なのかよっ!さっき、悲めっ』
『オオオオオオオッパ!そ、これっこれ見てっ!!!これ見てくださいよー!!!!』
ミナムの首をガンガン揺らすミニョは、肖像画を指差し、揺さぶられながら上を見るミナムは、間の抜けた顔をした。
『なっなんだよっ!ただの肖像画だろう』
ミニョの手を離し、立ちあがったミナムは、手を差し出して立つように促した。
『随分古いな・・・ここにあるって事は・・・』
見上げて考え込むミナムの横で絵に釘付けのミニョは、並び立つ人を見上げている。
『・・・・・・・・・顔・・・が・・・無い・・・・・・・・・』
ポソリと漏れたミニョの一言は、ミナムの視線もそこに促し、大きな目を見開いてじっと見上げていたミニョは、やがて、頭を抑えて蹲り、慌てたミナムがミニョを抱き上げて墓地を後にしたのだった。
にほんブログ村