『んっふぁ・・・ひっっすぐっ』
『ったく・・・ガキの次も・・・ガキか・・・だが、さっきよりは、楽しめそうだ・・・』
『えっふ・・・ぁや・・・』
ヒュンと耳に届いた空を切り裂く音に咄嗟に退いた男は、けれど振り上げられた拳を握って、進もうとする拳を潰す様に包みこんでいた。
『クク、俺に勝とうなんてお前は、やっぱりコ・ミニョだな』
さらりと揺れた長髪がミニョの肌に落ち、額を露わに掻き揚げた髪の下からは、先程まで眺めていた顔がそこにあった。
『えっ、あ、あれ、あな・・・』
『ふぅん・・・ガキの方がもっと流暢に喋っていたな』
骨ばった細い指で顎を一撫でして頬を吊り上げる男にミニョの目が釘付けになっている。
『まぁ、良い・・・やることは同じだ』
『えっ!?あっ・・・なにっ・・・』
降りて来る頭を咄嗟に押し返そうとしたミニョだが、男の唇が一足早くミニョの肌に吸い付いた。
『えっ!?あっふぁあ・・・あああああ』
しばし、音を立てて離れていく唇に眦を零れた涙が頬を滑り、再び降りて来た唇に吸い込まれた。
『ふ、コ・ミニョだろう!?お前は!?』
訊ねられることには答えず、痛みに熱を持つ胸を抑えたミニョは、そっと手のひらを剥がして覗き込んだ。
『こ・・・これ・・・』
浮き上がる痣に噛みつかれた痕ではない痣にミニョの目が見開かれている。
『ふ・・・お前も同じだ・・・』
左胸、鎖骨の下に斜めに切り裂かれた大きな痣が浮かんでいる。
そこを見つめて首を傾げようとしたミニョは、頭を抑えて蹲った。
『あ・・・あ・・・あ・・・あ・・・っ・・・やっ・・・いやっーーーー』
脳内を激しく動き回る記憶の渦が、ミニョの目の奥に映像を映し出し、消し、浮かんでは消えを繰り返し、嫌がり暴れる身体を男の両手が支え、腕に包み、背中から抱きしめた。
ひとしきり、頭を抑えて、暴れ続けるミニョの涙を流す顔に頬を寄せた男は、じっと目を閉じ、時を過ごしていた。
『っあ・・・ふぁ・・・あ・・・あ・・・あ・・・あ・・・なた・・・・・・ギョン・・・』
『思い出したか!?』
ゆっくり開いた目で、ミニョの涙を溜めた瞳に唇を寄せた男は、ぎゅっと抱きしめた腕を解き、身を捩って頬に触れる指先を握りこんだ。
『・・・ファン・・・テギョン・・・』
『ああ・・・ああ、そうだ・・・コ・ミニョ・・・』
太腿にミニョを乗せ、見上げる顔を覗き込み、額から、目、鼻、唇、顎へと頬を包み込む手を掴み直したテギョンは、首を支え、傾け、唇を重ねた。
『ぁっん・・・』
『っ・・・』
離れては、吸い付いて、吸い付いては離れ、繰り返される口付けに息のあがるミニョは、喘ぎ、テギョンの肩にしなだれかかった。
沈黙の時がどれほど続いたのか。
ただ、ただ、ぬくもりに身を寄せ、いつの間にか倒れ込んだ腕の中で、抱き締められていたミニョは、耳を抑えて起き上っていた。
『えっ・・・あ・・・オッパ・・・』
ミナムがミニョを呼んでいる声が遠くで木霊している。
それを聞きながら、辺りを見回すミニョは、目を閉じたまま寝転がるテギョンを見つめた。
『えっ!?ええと・・・思い出した・・・!?』
コッテンと首を曲げ、考え込むミニョにテギョンの腕が伸び、また胸に引き寄せられた。
『全部は思い出せないさ・・・お前はまだ完全じゃない・・・』
ミニョの肩を抱き、目を閉じたまま頬をあげるテギョンに考えを止めてしまったミニョもまた目をとじていたのだった。
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