扉の前で同じ顔して同じ仕種で耳をあてたミナムとミニョは、同時に息を呑んでいた。
『なっ・・・なんだと・・・思う!?』
『なっ・・・って子供と男の人・・・!?』
カツンカツンと石畳を踏みしめる音が向こう側から聞こえていた。
歌っていた子供の声は、ボツリポツリとした話し声になっている。
『きっ、聞こえたよな・・・空耳じゃ・・・』
『開けてみます!?』
『えっ!?』
大きく目を見開くミナムに恍けた表情のミニョは、扉から離れて頷いていた。
『開けましょう』
『なっ、えっ、ちょ、マジかよミニョ・・・』
『はい!だって、ここまで来たのですから』
『いや、だって、ここっはさ・・・』
ミナムの気概は、ここがお墓で誰もいない筈だという事だったが、ミニョは、怖いと思ってやって来た奥の間が、綺麗に整備され、外とあまり変わらない事にすかっりそれを失くしていた。
『大丈夫ですよー、開けたら、閉めないっ!閉めなければ恐くないっ!』
どんな理屈だという顔をしたミナムだが、ミニョの明るい顔と声にゆっくり頷いた。
『わっ、解った!俺も男だっ!開けっ・・・えっ』
開けてやると手を伸ばしたミナムの前で既にミニョが扉を押していた。
『なっ』
『っわー・・・』
そこは、手前の空間よりも更に明るい。
ぐるりを囲う天窓は、四方八方から光を取り込み中央に聳える太い柱に向かって陽を注いでいる。
『わー、わー、わー、綺っ麗ー、広っーい』
はしゃぐミニョは、一歩二歩と歩みを進め、触れている扉から手を離そうとし、かろうじて指先が残ったその手をミナムが慌てて扉と一緒に掴んだ。
『えっ、わっ、ちょ、オッパ』
出そうとした足を縺れさせ、ミナムの胸に倒れるミニョは、瞬きを繰り返し見上げている。
『もう急に引っ張らないでくださいっ!』
『誰もいない・・・のか・・・』
ぐるりと辺りを見回して呟くミナムに立ち直したミニョも辺りを見回した。
『空耳だったからですよー』
進もうとするミニョをミナムは、まだ引っ張っている。
『そっ、そんなことないだろうっ!お前だって聞こえるって言ったじゃないかっ話声しただろっ』
キョロキョロ周りを見渡すミナムは、腰が引けオドオドしながらミニョを引っ張り続け、ゆっくり振り返ったミニョは、視線を前に向けて首を傾げている。
『オッパって、すっごい恐がりなんですね・・・』
呆れた声がミナムの頭に落ちた。
『こんなに明るいのにお化けでもいるって思っているんですかぁ!?お化けは、暗い所にいるものですよぉ』
ケラケラ笑って、ミナムを見ているミニョに見返したミナムの眉が寄って延びた背筋が胸を強調させた。
『なっ、おっ、お前なぁ!お前だって怖い恐いって俺にくっついて来ただろう!急に明るくなったからって何も無いとか決めつけてんなよっ!』
『でも、何も無いし、いないですよぉ・・・確かにわたしも入る前は怖かったですけど・・・』
憂えていた感情は、すっかりミニョの中からは消えていて、そんなミニョを見るミナムも徐々にその気持ちを抑えつつあった。
『ふ、ん・・・まぁ、俺も今、すっごいびっくりしてるからな・・・外からは想像出来ない雰囲気だよな・・・ここ・・・』
『そうですよね・・・こんな部屋があるなんて誰も教えてくれなかったですよね・・・』
祭事は、毎年行われていた。
この城は、この場所を主事核に建てられたのだと一族の歴史で教えられていた。
だから、最初の王がここを眠りの場所と定め、代々の王が眠る墓地になり、それから何年も何百年もここは、神聖な場所として守られている。
けれど、開け放たれた空間であっても城の北側に位置するここは、暗く長いトンネルが、鬱蒼としたなんとも言えな空気を漂わせて、大人と一緒なら軽減される気持ちも子供だけでは、なんとなく避けたい場所であって、敢えてふたりも近づいては来なかった。
『わー、お墓って怖いだけと思ってましたけど、知らなかったなんて勿体ない事をしてましたねー』
ミナムの手からミニョの手が離れて行った。
扉を抑えつけて立つミナムは、進んでいくミニョを溜息ひとつ零して呆れ顔で見つめ、天窓を見あげた。
『ふぅん・・・入った事無かったから解らなかったけど・・・尖塔からも見えるんだなここ』
天窓のひとつから主塔の窓が見え、こちらから見えるということは、反対側からも見えるという事だ。
『あそこってアボジの部屋だな・・・ということは・・・』
周りを見回したミナムは、天窓のひとつひとつから差し込む光を見て構造をぶつぶつ解説した。
聞かせるつもりのミニョは、聞く気も無く、あちこち覗き込んでは、感嘆の声をあげ、ミナムを振り返ってクスクス笑いそのうち柱の向こう側に行ってしまった。
『だからー、おいっ!ミニョ!どこ行った!?』
ミニョの姿が見えなくなったミナムが大きな声を出すと中央の柱からひょっこり顔を出したミニョが、手招いている。
『ね、ね、オッパ!すっごいもの見つけちゃいました・・・・・・・・・』
『あ!?なんだよ・・・』
驚いた顔にすっかり失くなった憂いを笑みに変え、扉から離れるミナムは、呼ばれるまま柱に向かった。
その後ろで、抑えていた扉が音をゆっくり立てて閉まり、振り返ったミナムは、歩みを進める中、またあの子供の声と男の声を聞き、ミニョの悲鳴を聞いて、慌てて柱の前に駆け寄って行ったのだった。