『炎が見えたのですか!?』
散々説教をされて、夕食の支度を命ぜられたミニョは、セロムと薪を拾い集めていた。
辺境の小高い丘の上からは、中央に聳える城が見える。
距離にして20日。
早馬でも一週間は掛かる。
しかし、今その辺りの土地は荒れ果て城も崩れ誰一人住んでいる者はいない。
『う・・・ん・・・煙がね・・・』
そちらを見たまま歯切れの悪い返事をするミニョから薪を奪い去ったセロムは、籠に放り込んだ。
『靄(もや)を見間違えたんじゃないんですかぁ』
『だったら良いけど・・・あそこには・・・』
『戦火は南に移ったと聞いていますよ・・・婆様もその辺の情報はずっと集めておいでですし、流れ者でも辿りつける場所でも無いですから』
『ええ、そうね』
『姫様が城を出ると決めた時に付いて来た者達も皆無事に戻って来ています!心配することはありませんよ』
明るく笑うセロムに苦笑いをしたミニョは、城を振り返っていた。
嘗て年老いた父母と愛する人と住んでいた。
そこを出ることになったのは、戦争もあったけれどそれ以上に愛した人の決断に従ったからだ。
『王は・・・あ・・・すみません』
『良いのよ・・・あの人も・・・あそこで安らかに眠ってる』
愛した人は、自分の身を犠牲にした。
犠牲になる代わりに一国の民の全てを北へ逃がし、年老いた父母に膝を折って一緒に死んでくれと頭を垂れた。
★★★★★☆☆☆★★★★★
「頭を挙げなさい・・・其方(そち)が為すべき事では無い」
「ええ、ええ、あなたが居たからミニョひとりでも助ける事が叶う」
「娘をミニョを其方に嫁がせて善かった」
「運命だと言ったのはミニョでしたわ」
「ああ、婚姻させぬなら城を出るとまで言い放ちおった」
「お転婆な娘でしたけどあなたと一緒になって善かったのです」
泣き叫ぶミニョの前で3人は笑っていた。
泣き叫ぶミニョを抱いて最後の一夜を明け方まで過ごしてその人は消えた。
★★★★★☆☆☆★★★★★
『姫様!?まだ気になりますか!?』
遠くへ馳せた想いをセロムの怪訝な顔が遮った。
城を見つめながら首を振るミニョは、籠を背負ったセロムの後ろに立って背中を支えた。
『気にしてもどうにもならない!それより、早く帰ろう!ばぁやに怒られちゃう』
後ろを気にしながらも家に戻っていったミニョであった。