花は盛りになったが、月は顔を隠している
『運命の輪』をテーマにしました。
そんな御伽噺。
楽しんで頂けると幸いですo(^▽^)/
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『行かれるのか・・・』
闇に染まる褥(しとね)を音を殺して立ち上がった男にそれは心の臓を跳ねあげるに十分だった。
『やはり・・・行かれるのです・・・ね』
サラサラとシルクに落ちる絹糸が、ただただ静寂に響き渡る悲痛を追い上げていた。
『何も言えまい・・・』
『・・・何を言えば良い』
揺れた闇の褥に嗚咽が漏れていた。
★★★★★☆☆☆★★★★★
『オッパーどーこー行くのー』
『付いてくるな』
鬱蒼とした茂みを掻き分ける少年は、ちょこちょこドレスの裾を引きずっては、重そうに転びそうな体を支えて付いてくる少女を振り返っていた。
『邪魔だ』
ギロンと一睨み、子供の目にしては、鋭い瞳が少女を威嚇する。
けれどそれをものともしない少女は、にっこり笑い返した。
『入っちゃいけないんですよー』
侍女の真似をして腰に手を当て、ぷんすか怒った顔をした。
『うるさいっ、俺はこの先に用があるんだ』
『オッパが行くならミニョも行くのっ』
膨らんだ顔が、少年の腕を引き、舌打ちと溜息に萎(しぼ)んだ顔が腕を伸ばした。
『チッ!解ったよ!お前には敵わない』
微笑んだ顔に笑顔を向けるミニョは、その手を取って一緒に茂みを掻き分け始めた。
『あそこ!?』
『ああ、使われてない墓地だ』
『墓地!?』
顔中あちこちに引っ掻き傷を作りながらミニョを庇って辿り着いた開けた庭に足を出す少年は、小枝にスカートを引っ掛けたミニョを腕を伸ばして引っ張り出した。
『怖い所!?』
『さぁな』
見上げる程に石造りのアーチが延びる先の廊下を見据える少年は、怯えるミニョを見た。
『ここで待ってっても良いぞ』
『いやっ!ひとりの方が怖いもん』
『そうか』
ニヤリと笑って手を出した少年の手を握って、ふたりは、闇に吸い込まれていった。
『オオッパ・・・どこまで行くの・・・』
壁に掛けられた古い肖像画を眺めながらきょろきょろ辺りと後ろを気にして歩くミニョは、少年の手を何度も握り直しオドオドと金糸に彩られた胴着(ベスト)にも皺を作っていた。
振り返りミニョを見る少年は、クスリと笑いながら正面に見える扉を指差した。
『もうそこだ!あの扉の先』
入り口から数百メートル。
重厚な扉の前に立った少年は、懐から棒を取り出した。
『鍵!?』
『ああ、やっと見つけたんだ』
それを差し込み、錠前の外れる音を聞き真上を見上げた。
『あそこを見ろ』
ミニョの首が曲がった。
『あれはな、この国の始祖が作ったと言われる象徴(シンボル)・・・・・・俺が・・・あれを作ったんだ』
ふふんと得意げに笑った少年は、扉に手を掛けて押していた。
軋む音と共に開かれる扉の先は、大きな広間で、中央に一本だけ柱が建ち、見上げたまま首を傾げているミニョは、耳を疑っていた。
『ふぇ!?オッパが作った!?』
もっと良く見ようと上向いた首は、引かれた手によってガクンと派手に項垂れた。
『痛たっ・・・』
少年に手を引かれるまま中央の柱を半周周り、陽を受ける正面に立ったミニョが、息を呑んだ。
『えっ!?こ・・・れ・・・』
『ふん・・・お前に見せるつもりは無かったんだけどな』
少年の顔はくしゃりと緩みどこか懐かしきを見る瞳が細められているのだった。