『ファン・テギョン様。お久しぶりでございます』
『ご無沙汰してます。会長は、いらっしゃいますか』
『はい、お約束を伺っております』
テギョンに連れまわされ、すっかり見た目を変えられたミナムは、ヒールが埋まるほどの絨毯の上で、足をとられながら大口開けていた。
『すっ・・・』
すっげーという言葉を慌てて両手で押さえた口から零すことなくテギョンを見たミナムは、睨まれて更に黙りこんだ。
『どうぞ。こちらへ』
促され、テギョンの後を着いて行きながら、口を開けきょろきょろしているミナムは、高い天井とその装飾と飾られた調度品の数々に目を奪われては、また口を開けていた。
『お入りください』
『失礼します』
優に数平米は在りそうな広大な部屋に通され、中には、大きなソファセットが中央に一組置かれ、その向こうには、2メートル大の黒机、後ろに部屋の横幅一杯の書棚が並んでいるが、大きさの割にシンプルな部屋だ。
『来たか』
奥で、書籍を拡げていた老人が、こちらを振り返った。
『お久しぶりです』
立てかけてあった杖をつきながら老人がこちらへ歩いて来た。
テギョンは、それをまつこと無く、ソファへ向かいミナムも慌てて後を着いて行った。
『そちらは!?』
『すみません。ミニョが、思いがけぬ仕事で海外へ出てしまいまして・・・』
散々文句を言って、見た目まで変えたのに同じ口でコ・ミナムだと紹介するテギョンにきょとんとするミナムは、首を傾げた。
『ああ、兄の方か・・・ふ、そんな格好も似合うな』
褒められたのか貶されたのか不思議顔のミナムは、テギョンに促されて座った。
『つまり、彼を連れてきたという事は、受けるのだな』
『はい。そちらの提案を受け入れようと思います。ただ、こい・・・いえ、コ・ミナムにも話を通しませんと俺の一存で、決められる事ではありませんので・・・』
礼儀正しく、淡々と話すテギョンにミナムは、話が見えず戸惑っている。
『そうか・・・こちらとしては、お前に提示している半分くらいと考えているが、これは、あくまで、今の
段階での見積もりだ。それにお前の方も何か要求があるのだろう』
いつの間にか部屋に入って来ていた先程の執事然とした男性が、ミナムの前にお茶を差し出した。
受け取るミナムは、頭を下げながら、老人とテギョンの視線に気づいた。
『あ・・・何!?』
『コ・ミナム!これから、俺が話す事を良く聞け。コ・ミニョの将来に関わる事だ。それを聞いた上で、お前が、どういう判断をするのかを聞きたい』
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