「♪だーかーらー零れ落ちーたー涙の数だけ・・・溢れる想いをー♪・・・・・・こば!?こば・・・ことば!?」
地下のスタジオで、ピアノに向かって、ミニョの為の新曲をこっそり弾いているリンは、几帳面な文字で書かれた譜面上の歌詞に悪戦苦闘していて、読めない文字を見つけると適当に鼻歌に変えて流している。
「むー、アッパの字じゃーわっかんなーい!!」
鼻歌も飽きてきたのか、音符は、追いかけるものの歌詞を全く変えて歌っているリンは、テギョンの作った歌に全く違う歌詞をつけて歌い始めた。
「♪トッキトッキテジトッキ オンマのお鼻ートッキトッキ─────♪ヘヘー、ふんふんふっふふふ、あははー」
鍵盤を叩く音が、徐々にテンポを速め、前に置かれている譜面とは全く違う音を奏で始めると肩を揺すってリズムをとるリンは、足も揺らしている。
「ふふ、こっちにしよー」
天井を見上げてにっこり笑顔で独り言を発して、指先は動かしたままきょろっと左右を見回すと
お目当ての物を見つけて、鍵盤から手を離して、床に飛び降りた。
「あれー!?新しい・・・の!?」
テーブルに置かれた数冊のノートの隙間に差し込まれる様に置かれた真新しい数枚の譜面の束を手に取ったリンは、それを持ち上げて首を傾げている。
「いいやー、使っちゃおー」
自分の五線紙のノートを拡げてそこに挟まれた鉛筆を手に取ったリンは、トトトトとピアノの前に戻り、細長くて重い椅子を引きずりながら動かして、ピアノに近づけ、よいしょと椅子に膝を乗せるとその上に立ち上がって、譜面台に真新しい譜面を一枚置いた。
「へへ、アッパみたーい」
両手を上げて喜んだリンは、スタジオに飾られたテギョンのレコーディング風景の写真を振り返っている。
「うーん・・・僕もアッパみたいになれるかなぁ・・・」
小さく首を傾げテギョンに問いかける様に呟いたリンは、暫く写真を見つめていたが、また振り返って鍵盤に指を乗せた。
「ふふ!なれるもんね!アッパも僕も同じー」
ね、と首を傾げたリンは、ピアノの正面に飾られたミニョの写真を見つめて微笑み、軽快に音を奏で始めると、頭を揺らして、瞳を閉じ、数小節を奏でると鉛筆を持って立ち上がっている。
「ふ、ふん・・・ふふふ・・・ん・・・ふふ」
鼻歌交じりに譜面に音符を書き込み、座ったり立ったりを繰り返すリンは時間が経つのも忘れていた。
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「ん・・・オッパ・・・も、離してくださっ・・・い」
「ぅーん、嫌だ・・・」
「嫌じゃないです!リンみたいな事を・・・朝食の準備をし・・・ないとぉ・・・」
「ん・・・じゃぁ、キスをもう一度・・・」
「えっ、ぁん、オッパ!!」
リンの時間は、ふたりの時間を実践しているテギョンは、起き上がろうとするミニョを何度もベッドに引き戻し、これが最後と上半身だけを不自然にテギョンに向けて、振り返っているミニョの首に腕を回して顔を引き寄せ、掠める唇をきちんと重ねようと、ベッドに肘をついて半分だけ起き上がった。
「もっ、オッパも起きてください」
離れていく顔にサランヘと満面の笑顔で呟いたテギョンに相変わらず一瞬で頬を赤らめたミニョは、逃げる様にベッドを降りて、急ぎ足で扉に向かったが、ノブに手を掛けて立ち止まり、深呼吸をして振り返っている。
「わたし・・・もです・・・」
消え入りそうな小さな声がテギョンに届けられ、照れ笑いを浮かべてパタンと閉まった扉に、ベッドに横になったままのテギョンは、忍び笑いを零して唇に触れた。
「ふ、直接言っていけよ!コ・ミニョ」
廊下までは届かない声を発して、右手を上げたテギョンは、枕元のテジトッキを見つめて微笑んでいる。
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「リーン!ごはんですよ」
ミニョの起きる時間になってもちっとも戻って来ないリンに時計を見たミニョは、首を傾げて地下へ降りると丁度、ピアノを片付けているリンがミニョを見つけて微笑んでいた。
「オンマーおはよう」
「おはよう!楽しかったですか」
一枚の譜面を片手にもう片方には自分のノートを持って、ミニョに駈け寄るリンは、ミニョに譜面を差し出している。
「オンマのお唄作ったよー!後で唄ってねー」
「良いですよ、アッパがお出かけしたらね」
「うん」
ミニョに譜面を渡して空いた手をミニョと繋ぎ、鍵を取り出したリンから鍵を受け取ってそこを閉めたミニョは、けれど、譜面を見ると不思議な顔をした。
「ね、リン、この紙は!?」
ミニョの手を引いて階段を昇ろうとしていたリンだが、きょとんとして振り返るとタタとスタジオのガラスに駈け寄り中を指差している。
「あそこのノートの間にあったよー、飛び出てた」
中を指差したリンの指した方向をみたミニョは、綺麗に整頓されているノートの山を見た。
「あそこから取ったの!?」
「うん!あのね、いつもは、アッパの譜面の下とかにあるから見つけるの!でもね、今日は、すぐあったんだよ」
「ふーん」
リンを見下ろしながら、手を繋いで階段を昇って行くミニョは、丁度リビングに入ったテギョンの背中を目の端で捉え、リンに向かってしゃがみ込むと、その顔を見つめた。
「なぁーにぃー」
「ふふ、今日もアッパに感謝しましょうね」
嬉しそうに微笑んでリンに諭したミニョに一瞬きょとんと表情を固めたリンだが、大きく頷いている。
「するよー!アッパが書いてくれるから僕も書けるもーん」
「ふふ、そうでしたね」
また、立ち上がったミニョはリンと共にリビングに向かい、テギョンを見つけたリンがおはようとテギョンの胸に飛び込み、おはようございますとテギョンと挨拶を交わしたミニョが、小さくありがとうございますと囁いて、上がった手の中の顔を掠めた譜面に微笑んだテギョンは何の事だと片頬をあげ
恍けた表情を浮かべているとある日の朝だった。