指にタオルを撒いたテギョンが、リビングに入ってくると、ダイニングにいるミニョに声を掛けた。
「救急箱!?」
珍しいものを欲しがるテギョンに何気なく振り返ったミニョは、指先に巻かれた白い布に大きな瞳を更に大きくして、持っていた鍋を投げるように放置するとバタバタと傍に駆け寄った。
「どっ、どっ、どうされたのですか!?」
慌ててテギョンの腕を掴んで上に持ち上げ、その行動にきょとんとして目を細め、怪訝な顔をしたテギョンは、掴まれた腕のまま、何やってるんだと聞いた。
「なっ・・・心臓より上です!」
頷いて一人納得した顔をしているミニョの言葉にテギョンは、唇を尖らせると左右に動かし、天井を見上げてからミニョを見ている。
ミニョは、テギョンの腕を見つめて心配そうな顔をして、きょろきょろと何かを捜すような仕種をした。
「あっ、オッパこちらです!!」
テギョンの腕を持ち上げたままリビングのピアノの向こう側に連れて行った。
「えっと、ここにあった筈です」
リンが、いつも使っている飾り棚の扉を開けて、背伸びをして中を覗き込んでいる。
テギョンは、ジッと黙ってミニョのするがままになっていた。
「えっと」
棚に手を入れて救急箱を引っ張りだそうとしているが、片手が塞がっていて思うようにいかないミニョが、手を動かしているとぬっと伸びたテギョンの腕がそれを引っ張りだしている。
「あっ、オッパ、ありがとうございます」
ミニョが、礼を言ったが、テギョンは何も言わずに黙ったままだ。
「オッパ!?」
不思議な顔をしてテギョンを見たミニョが、テギョンの手にある箱を見て、取り出した理由を思い出したのか、慌ててタオルの巻かれた手を掴み直すと、高く上げたままソファに引っ張っていった。
「座ってください」
促されたソファに黙って座ったテギョンは、自身の上に上げられた手に視線を向け、その腕を掴んだまま箱の中から消毒液を探しているミニョの背中を見つめてニヤッと笑っている。
「あっ、ありました!!」
くるっと消毒液を持ち上げて後ろを振り返ったミニョは、掴まれた右手を上げたまま、左手で唇に触れているテギョンと目を合わせ、固まった様に動かなくなった。
ふたりの間に沈黙の時が流れ、ジーッと目を併せたまま、動かず、言葉も発せず、見つめ合っている。
ゴクッと喉を鳴らしたのはミニョで、それを合図の様にテギョンの視線がミニョの持っている消毒液に注がれた。
緩やかーに口角を上げている。
「何をしてくれるんだ!?」
意地悪そうにあがる唇からそんな言葉が漏れてきて、上目遣いでミニョを見上げるテギョンは、ニヤニヤ笑っている。
「なっ、何って怪我を・・・」
「怪我!?誰が!?」
「だっ、誰ってオッパです!!」
ほらと掴んだ右手に巻かれた白いタオルを捲り始めたミニョは、出てきた手を両手で掴み、アレッとひっくり返している。
「け、が・・・してませんね・・・」
胸の前にテギョンの腕を下ろすと何度もひっくり返して確認をした。
「えっと、何で救急箱!?」
テギョンの顔をジッと見ながら首を傾げている。
「怪我はしてるぞ」
テギョンが、ミニョを見つめながら人差し指を前に出した。
「何処ですか!?」
差し出された右手の人差し指にテギョンの左の指が当てられ、ほらここと指で指し示している。
そこには、紙で切った様な細い線が入っていて、僅かに赤い色が滲んでいた。
「なっ、怪我じゃないじゃないですか!!」
ミニョが怒った様に頬を膨らませるとテギョンはニヤッと笑っている。
「俺は何も言ってないぞ」
タオルを持ち上げて、僅かに滲む血液を拭き取ったテギョンは、痛いなと片目を閉じて顔を歪めている。
ストンと床に座り込んだミニョは、手を出してくださいと言うと、その指にいきなり喰らい付いた。
「・・・・・・」
テギョンの目が大きく見開かれ、指先に触れる舌の感触にぶるっと背中を揺らすと肩を竦めた。
「うーん・・・舐めとけば直りますよ!」
唇から指を出したミニョは、頷いてテギョンに微笑んでいた。
「何処で切られたのですか!?」
巻かれていたタオルを膝に乗せて、小さくたたみながら聞いたが、指先を見つめて固まっているテギョンは、ゆっくりと首を傾けた。
返事の無いテギョンに首を傾げたミニョが、オッパと呼んだ。
「どうしたのですか!?」
下から覗き込み、床に手をついてテギョンを見ているが、視線だけを動かしたテギョンは、まるで睨む様にミニョを見た。
「怖い顔をされて、どうかされました!?」
表情を崩さず真顔で、瞳だけを動かしているテギョンは、指先に視線を戻すとはぁーと大きな溜息を付いて、ソファに沈み込んだ。
「オッパ!?」
立ち上がったミニョが、テギョンを上から覗きこみ、額に手を当てて首を振って目を閉じたテギョンは、また、溜息を付いた。
「オッパ」
ミニョが、不思議な顔をしてテギョンを見ているが、額に乗せた手の隙間からミニョを見上げるテギョンは、左手を伸ばすとミニョの腕を強く引いた。
「えっ!?あっ・・・」
よろめいたミニョの体が、ソファに倒れこみ尻餅をつくと、入れ替わりに立ち上がったテギョンが、ギッとそこに膝を付いて、ソファの背もたれに両腕を乗せ、ミニョを囲って、その顔を覗き込んだ。
「オッパ」
「コ・ミニョ」
ふたりで同時に声を発している。
「なんですか!?」
「お前、わざとか!?」
ミニョを覗き込みながら、僅かに開いた唇に触れているテギョンは、その指で自身の唇にも触れた。
「わざとって何がですか!?」
相変わらず恍けた発言をするミニョは、考えるように首を曲げているが、答えに行き着く前に、テギョンの顔が近づいてミニョの目の前が暗くなっていく。
「勘違いしたのは、お前だからな」
テギョンの影で暗くなる視界に首を傾げるミニョは、視線を上に上げると、次の瞬間、大きく目を見開いた。
「んッ・・・んん」
ミニョの上に覆い被さったテギョンは、二の腕を掴んで、ソファに押し付けながらミニョを倒し、その唇を塞いでいる。
動かない腕で、手のひらをバタバタさせ抵抗をするミニョは、テギョンの体が離れると同時にぷはぁと息を大きく吐き出した。
「なっ、なっ、なっ、何をするのですか!!」
頬を赤く染めながら、息を何度も吐き出し、呼吸を整えている。
ミニョの前で腕を組んでニヤニヤ笑いながら立つテギョンは、先程の切り傷を見せた指を唇に当て僅かに舌を出して、そこを舐めた。
「何って、お礼だろ」
「おっ、お礼!?」
「ああ、手当てしてもらったから、お礼をしなくちゃな」
ダメだろと笑うテギョンの唇に当てられている指と僅かに開く唇から覗く白い歯とその隙間に見え隠れする赤い舌に意味を悟るミニョは、バッとソファに両足を乗せ、くるっと後ろを向いてしまった。
正座して、背もたれに摑まって蹲り、腕の間から覗く頬は、これ以上ない程に赤く染まっている。
ククッと笑いを零したテギョンは、顎をあげると再び片足をソファに乗せた。
ミニョをその腕でまた囲いこんでいる。
「理解したか!?」
染まる頬に満足そうな笑みを零して、ミニョの顔を覗き込み、コクコクと顔を上げる事無く頷くミニョは、ギュッと目を閉じた。
「そうか」
フフッと更に笑みを零したテギョンが、ミニョの頬に手をかけ、その顔を上げようとしたその時、テギョンを呼ぶ大きな声がした。
「アッパー!!まだなのー!!」
リンが、ギターを抱えてリビングに入ってくると、ソファに乗っているミニョとその後ろにいるテギョンを見て首を傾げ、更に反対に倒すとあーーーっと大きな声を出した。
「アッパ!!僕の事忘れてたでしょー!!!」
トタトタと物凄い勢いで走ってソファに近づくとテギョンに指を向けてミニョとの間に割り込んで前に立った。
「消毒してくるって出て行ったくせにー!!」
不満顔でテギョンを見上げたリンは、ギターをテギョンに押し付け早くと言った。
背中で会話をするリンをチラッと横目で見たミニョは、テギョンの足が乗っている方と反対側の肩を回すとリンに何と聞いた。
床に足を降ろしてソファに座り直したミニョは、リンに腕を伸ばすとその体を抱き上げて膝に抱えている。
「アッパがね、ギターの弦で、指を切ったの!消毒してくるってスタジオ出て行ったんだよ!なのに、戻って来ないからー」
ミニョの首に腕を廻したリンは、テギョンを振り返ってフンと唇を尖らせている。
「僕、ずーっと待ってたのー」
ミニョの胸に顔を埋め不満を漏らした。
「ふーん・・・それは・・・アッパが、悪いですね」
片足をミニョの体の横に乗せたままのテギョンを見上げたミニョは、赤くなった頬を押さえながらテギョンを見上げ、何処かほっとした顔で微笑んでいて、ギターを押し付けられたテギョンは、チッと舌打ちするとソファから足を降ろした。
ギターを小脇に抱え直してミニョに引っ付いているリンの腰に腕を伸ばし、その体を抱えて、リンと顔を突き合わせている。
「今、戻る所だったんだよ!」
そう言うと、唇を尖らせて、不満そうにリンと見つめ合った。
「本当!?」
疑わしそうにこちらも更に唇を尖らせたリンが、テギョンの首に腕を巻きつけて聞いた。
「ああ」
フッと笑ったテギョンが答えた。
「ふーん・・・じゃぁ、早く取り替えてー」
「ああ、判ったよ」
抱えたリンの腕にギターを押し付け、微笑んだテギョンは、何事もなかった様にリビングのドアに向かいながら、唇に触れると、扉のところでくるっと振り返った。
「ミニョ!続きは夜だ!覚悟をしとけよ!」
そう言って、廊下に消えて行き、ソファの上で赤味の消えてきた頬に手を当てほっとしていたミニョは、テギョンの言葉に更に頬を染め、固まって動けなくなっているとある日の出来事だった。
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スコーシだけ・・・甘くなった💛かな!?(-^□^-)
最後まで読んで頂いて、ありがとうございました(^_-)-☆
最後まで読んで頂いて、ありがとうございました(^_-)-☆