貴重な
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「もう少し、顔をこちらに向けて!」
白いパラソルを持って、鍔広の帽子を被って、笑顔を作るミニョにカメラマンの指示が飛ぶ。
「テギョンssi!もう少し帽子から頭を逸らして!」
帽子越しにテギョンを見上げるミニョの影でテギョンの顔が隠れていた。
「この辺!?」
半歩横にずれたテギョンは、ミニョの肩越しにカメラを睨み、けれど、フと下げられた視線と口元が緩く穏やかに柔らかくなった。
再びシャッターの音が激しく鳴り響き始めた。
時折、ミニョから逸れる視線とミニョに向かう視線とテギョンのあがる口角が、普段なら決して見えない姿をそこに映し出していた。
「貴重だな・・・」
カメラマンの呟きと溜息が漏れ、シャッターを切るスピードも上がっていく。
カシャカシャという音にストロボをたく音も響混じる。
遠巻きに立つ女性スタッフ達は、少し渋みの増したテギョンの滅多に見れない微笑みを間近に頬を染め、仕事も手に付いておらず、男性スタッフに怒鳴られている一幕もあった。
「凄いだろう!ヒョン!」
ミナムも感心しながらリンを抱えてその光景を見せていた。
「うん」
ミニョの周りを動き回りながら演出されている事を崩さない様に自分のスタンスも崩さない様にテギョンは綺麗に動いている。
次々変わる表情も瞬時に変化してとてもアイドル歌手というだけには見えない。
「ほーんと、何やらせてもサマになるというか、良い男だよなぁ皇帝」
ジェルミが言った。
「完璧・・・とは言えない奴だけど完璧主義者だからな・・・」
含み交じりのシヌの感想は、ミナムとジェルミを笑わせた。
「ヒョン悪すぎー」
おどけたミナムが言った。
「でもな、あれだけの表情が撮れるのは、凄い事だぞ!いつもの険がまるで無い」
「うーん・・・やっぱり、相手役をミニョにして正解だよね」
ミナムの言葉に前を見ていたリンが不思議顔で、振り返った。
「ミナムがオンマにお仕事させたの!?」
首を傾げるリンの頭をミナムが撫でた。
「ああ、そうだぜ」
「オンマ、やりたくないってアッパに言ってたよー」
「うん!?ああ、でもな、あいつ、こういうの本当は、好きだぞ」
リンの腕の隙間からミニョを見るミナムは、その嬉しそうな顔がしっかり見えている。
「どういうの!?」
「綺麗な服を着たり、踊ったり、歌うのは勿論、やっぱり、ああいう姿でヒョンの横に並んで・・・見て貰う事だなぁ」
「そうなの!?」
「ああ、ミニョ綺麗だろう!?」
「うん・・・」
しかし、リンは、イマイチ顔を顰めている。
「どうした!?リン!?」
心配そうなシヌがリンの顔を覗き、シヌを見たリンが力なく首を振った。
「こういうオンマは嫌いか!?」
「ううん、嫌いじゃないけど・・・」
前を見たリンは、どこか異国風のふたりだけの世界に何ものも享けつけ無い様な空間を見つめている。
「あそこに僕の居場所ってないもん・・・」
「「「はぁ!?」」」
大人びた口調で、ミナムに抱き付いたリンに大人たちが驚いて目を見開き、顔を見合わせた。
「だって、オンマとアッパじゃないもん!」
ひとり取り残された様な寂しい事を言うリンにジェルミが、心配そうに顔を覗き、シヌは、表情こそ崩さなかったが、目を細めた。
「ばかな事を言うなよ」
怒り口調のミナムが、リンの頭をあげさせ笑っていた。
「バカだなお前、あそこにお前の居場所が無い訳ないだろう!」
「だって・・・」
仕事中の邪魔をしてはいけないという理解がまだ無いリンに胸を締め付けられる大人達は、どうすると顔を見合わせた。
「あー、もう!解った!ちょっと来い!」
ミナムがリンを抱いたまま女性スタッフに近づき、何か話し込んで、スタジオを出て行った。
「ミナム・・・何をするつもりだろう!?」
「リンには、まだ、難しいよな」
聞き分けは良くてもいつもミニョと一緒のリンは、少し離れただけでも寂しいのだろう。
撮影セットを見たシヌは、相変わらず微笑んでいるテギョンと床に腰を下ろして背中を向けているミニョを見た。
「前は、あんな光景見るのも嫌だったけど、いつの間にか痛みもなくなったな・・・」
「そうだね・・・一緒に仕事出来る嬉しさの方が段々強くなっていった!俺も暫く辛かったなぁ」
シヌの見ている方向へジェルミの視線も向かった。
かつて、仲間として生活を共にし恋をした女性は、一生懸命な姿が可愛くて面白いとか何かしてあげたいとか思っているうち恋に落ちて、恋だと自覚したときには、彼女の視線の先にいたのは、今目の前にいる奴で、自覚させたくないと画策してみたり、その矛先を変えたくて色々な事をしたけれど結局は、その存在に勝てなかった。
「応援してたけど、振られた身としては、傍にいるのもきつかったからなぁ」
「ヒョンも!?」
「ああ、ミニョが一緒に仕事をするようになって、暫くテギョンの顔を見るのも嫌だった」
セットの中で笑うテギョンの顔は、極上品だ。
「うん・・・俺は、アフリカから帰って来た後かな・・・空港でさ・・・大勢のファンに囲まれててもヒョンてば、平気な顔してミニョを抱きしめたよね!あの後、暫く一緒に生活しているのが辛かった」
あれから数年が経過してリンを授かった事で仕事も辞めたミニョ。
それが再びこうしてテギョンと撮影に臨んで、今、その胸の痛みを訴えているのはリンだった。
「ふたりの世界って感じがするのかな・・・」
「ああ、ミニョの母親としての姿しか見てないからな・・・余計にそう思うのかも・・・」
そんな会話をしているふたりの耳にカメラマンのチェックをするという声が聞こえてきた。
ミニョの肩を抱いたテギョンが、パラソルを受け取って、帽子を外したミニョとこちらにやってくる。
「あれ!?リンとオッパは!?」
すかさず、リンを捜すミニョは、きょろきょろ辺りを見回した。
「ああ、今、ちょっとね・・・」
視線を下げるジェルミの顔にテギョンが何かあったのかと聞いた。
「何かっていうか・・・ちょっとさ・・・」
ジェルミの助けを求める様な視線にシヌが答えた。
「何も無いよ!ただ、ちょっと、ミナムが気分転換に連れ出したんだ」
「もしかして、泣いたのですか!?」
「違うよ!大丈夫!」
ミニョの心配をジェルミが否定した。
「それにしても好い絵が撮れそうだな!」
「どういう意味だ!?」
含みのあるシヌにテギョンが、一瞬で不機嫌になった。
「○○周年のスペシャル特典としては、大変貴重な物になりそうだな!と」
「ほんとほんと!ヒョンのあんな顔!垂涎ものだよ!」
「さすが、ファン投票1位だよな!!」
後ろから聞こえた声に全員で振り返るとリンを抱いたミナムがそこにいた。
「スペシャル特典にする為にミニョを引っ張り出したんだから、それぐらいの顔をして貰わないとファンに申し訳ないからなぁ」
ミナムの言葉を聞くよりも腕の中のリンに釘付けのテギョンは、目を見開いたまま固まっている。
「お、いっ・・・」
小さな体に黒いスーツを着せられたリンは、髪も綺麗に整えられていた。
「わっ、凄い!ヒョンにそっくり!!」
驚嘆の声を出したジェルミをテギョンが睨み、ミニョもテギョンの腕を避けながら後ろを向いた。
「わっ、リン!ですか!?」
「オンマー!」
嬉しそうに笑ったリンが、ミニョに腕を伸ばした。
「わぁ、可愛いですねリン!」
「本当!?」
「ええ、アッパにそっくりです!」
「やったー!」
両手をあげて喜ぶリンを見たテギョンは、ヒクリと頬を引き攣らせてミナムを見た。
「おっ、前・・・何を、企んでる!?」
紙コップを掴んだミナムは、お茶を飲みながらその淵で目だけを動かしてテギョンを見上げた。
「何か考えがあってこんな恰好をさせたんだろう!」
「別に良いじゃん!ヒョン2世って可愛いだろう!ちょっとだけ撮影に協力してもらうけど」
「ちょっとだと!!」
怒鳴ろうとしたテギョンの耳にミニョがリンに話しかけているのが聞こえた。
「寂しかったのですか!?」
「うん!オンマと一緒が良いのー」
ギュッとミニョの首に腕を回すリンを見たテギョンは、チッと舌打ちをした。
「そう・・・」
嫌な予感に顔を顰めて横を向こうとしたテギョンは、ミニョの持ち上がったうるうるの目にしっかり囚われ、たじろいだ姿が、3人の笑いを誘った。
「うっ、リンに聞いてみろっ!!」
「・・・リン!?どうしたいですか!?あそこで、オンマとアッパと一緒にお写真を撮って貰いますか!?」
白い布が張られた空間をリンに見せるミニョは、首を傾げるリンに見つめられた。
「良いの!?」
「オッパ!使うつもり、無いですよね!」
「ああ、特典に使うのは、あくまでヒョンの顔だけだ!だから、お前も後ろ姿なんだし・・・」
ニヤニヤしているミナムは、まるでこうなる事が解っていた様な顔で、シヌが忍び笑いをしている。
「オッパ!良いですか!?」
「チッ!仕方が無いな・・・」
ミニョとテギョンがリンに良いぞというとカメラマンから声が掛かった。
「全員で入ってくれるか―」
その声を聞きながら、一番先に足を向けたテギョンは、カメラマンに近づいて耳打ちをし、頷いたカメラマンが声をだして笑っていた。
「あれ、リンの事を頼みに行ったんだぜ!」
「わっるい顔だなぁ、ミナム!」
「お前、最初からこうなる事を狙っていたんだろう!」
「オッパだから、在り得ます!わたしに頼んで来たのだって!」
三人三様にミナムを見るとミニョの腕からリンを抱き上げたミナムが、ぐるりと見回した。
「いっつも俺だけが悪者かよ!可哀想だなぁ俺って!!」
グスンと泣き真似をして見せるからリンが、ミナムの頭を撫でている。
「ミナムは、良い子ー」
「リン!お前だけだぞ!俺の味方は!!」
ギューッとリンを抱きしめて豪快に笑ったミナムは、さぁ、やるぞとセットに向かって行った。
ジェルミもミナムの後を追いかけて行くとシヌがミニョに手を差し出した。
「久しぶりの撮影で疲れないか!?」
「ええ、大丈夫です!終わったらシヌオッパのお茶が飲めるでしょう!?」
手を取りながらミニョはシヌに微笑み、シヌもクスッと笑っていた。
「そんなのは、お安い御用だな」
セットに足を踏み入れたシヌは、ミニョの手をテギョンに渡し、微笑むテギョンが、ミニョの頭に帽子を乗せ、パラソルを渡した。
再開された撮影は、セットの中で好き勝手に走り回るリンと相変わらず背中を向けたまま座り込むミニョとその周りで、微笑むA.N.Jellと中でもやはり、夫の顔と父の顔といつもと違うテギョンの微笑みが際立った風景だった。
そうして終わったアルバム用の特典撮影は、本当にスペシャルな物が出来上がり、貴重なテギョンの微笑みだけの筈が、小さなテギョンの後ろ姿が話題になり、予約分だけでもあっという間に完売された。
後日、社長にこっそり呼び出されたミナムは、感謝のご馳走をして貰ったのだが、それは、メンバーの誰一人知らないとある日の出来事だった。
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Table of contents
Favorite music excerpt 再生リストからchoiceコントロールから音量変更可 不可はページ再読込❦一部字幕ON&設定で日本語約可
loveYou're Beautiful❦Story it was based Korean drama "You're Beautiful" secondary creation.❧
Hope to see someday"You're Beautiful" of After that.
Aliasすずらん──長い長い「物語」を続けております。貴方の癒しになれる一作品でもある事を願って。イジられキャラテギョンssi多(笑)
交差点second掲載中❦フォローしてね(^▽^)
コメディ・ほのぼの路線を突っ走っています(*^▽^*)あまりシリアスは無いので、そちらがお好きな方は、『悪女』シリーズ等を気に入って頂けると嬉し。
『テギョンとミニョの子供・・・』という処からお話を始めオリキャラ満載でお届けしておりましたが、登場人物も交差し始め統一中。
長らくお付き合いいただいている方も初めましてな方もお好きな記事・作品等教えて頂けると嬉し(^v^)
ご意見ご要望はこちら★すずらん★メッセージを送ってください。BM仕様限定のごくごく一部解除しました。
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