「見えますか!?」
膝に乗るリンのお腹に手を廻しているミニョは、その小さな頭の上で大きく左右に首を回らしながら空を見上げていた。
「うん!見える―」
空に向かって指を指すリンは、左手をミニョの手に重ね、小さな手の平からミニョの手へ熱が運ばれる。
「冷たいねー、オンマー」
「ふふ、リンは、温かいですね」
「うん!」
リンをぎゅっと抱きしめ、その熱を感じるミニョは、ふたりで包まる為に掛けているブランケットの合わせ目を掴んで更に深く包まり、寒さを凌ぎながらリンの柔らかい髪に軽く顎を乗せた。
ふふっと笑うリンが、重そうにでも嬉しそうに頭を動かし、肩越しにミニョの顔を見て、ふたりの目が合うとクスクス笑い出した。
「オンマは、星の国にいたの!?」
また空を見上げたリンが、満点の星空を指差して言った。
同じ様に空を眺めるミニョは、そうですねと言いながら、口角をあげている。
「聞きたいですか!?」
「うん!お話してー」
ミニョに体を預け、トンと後ろに寄りかかるリンにミニョも姿勢を直して笑顔で語り始めた。
「星の国は、とーっても輝いているところでしたよ・・・その国に住んでる人達もとっても輝いて・・・」
懐かしい日々を遠くを見つめて思い出すミニョは、空を見上げて言葉を選び、リンに話し聞かせる。
「中でもとっても輝いている星が、大好きでした」
「一番星ー!」
「そうです」
「でも、一番星は、意地悪なんだよねー」
リンの言葉にクスクス笑っている。
「優しい所も沢山ありますよ」
「知ってるー」
リンもクスクス笑って、白い歯を見せていた。
「星達は、大勢の人にたくさんの幸せを配っていました!」
「オンマも配った!?」
「ええ、オンマもそこで一緒に配る事になるとは思いもしませんでしたけど・・・少しは配れたと思っていますよ!」
「ミナムはー!?」
「オッパですか!?」
「うん!」
「オッパも沢山配っていますよ!」
今もと首を傾げたミニョは、優しい眼差しをリンに向けながら笑っている。
「ふふ、いーっぱい配ってるのー!僕も配りたーい」
「リンも!?」
「うん!アッパみたいになるのー」
「そ・・・れは、オンマも嬉しいですけど・・・」
口籠るミニョは、何かを思い出した様に遠くを見つめ、黙り込んでしまった。
「オンマ!?」
ミニョを振り返るリンは、不思議顔だ。
「ああ、何でもありません」
「僕のせい!?」
「違いますよ!星の事を思い出したのです!」
「一番星!?」
「ええ、近くに居ると星は輝いて色んな光を放ってくれます!色んな顔を見せてくれます!」
期待と不安が渦巻いて心の中がグチャグチャになった頃の思い出を噛み締めるミニョは、そんな時代を乗り越えて今こうしてリンを抱きしめているんだとギュッと力の入った腕に苦しがりながらも笑うリンを抱きしめ続けている。
「リンをくれたのも一番星ですからねー」
一際嬉しそうなミニョを振り返ったリンがブランケットの中で向きを変え、ミニョの体に腕を廻しながらうんと嬉しそうに頷いてその瞳を見つめている。
暗い庭で、見つめ合って笑うふたりの上に声が降ったのはそんな時だ。
「お前達、こんなに寒いのに何をしているんだ!?」
リビングのガラス窓を開けたテギョンが、寒そうに体を抱きながら顔を出した。
「アッパーお帰りー」
ミニョの肩越しにブランケットを捲ったリンが顔を出した。
「お帰りなさい」
ずれるブランケットを直しながらミニョが言った。
「何をしていたんだ!?」
ふたりの居る庭のベンチシートを見ながら首を竦め、両腕を摩るテギョンは、身震いしながら返事を待っている。
「星を・・・」
「一番星を見てたのー」
空を見渡すミニョの言葉をリンが継ぎ、空を指差して弱い光を放つ星を指差した。
「一番初めの星!?」
「ええ、一番輝く星は、特別な場所にいますから」
ミニョとリンが顔を見合わせてクスクス笑った。
「眩しくって見えないんだよー」
「眩しくても見えるさ」
テギョンも空を見上げた。
「一番星は、幾つも要らないだろう」
下ろした視線をミニョに真っ直ぐ向け、浮かべる笑みに頷いたミニョが、リンを抱いて立ち上がった。
「ええ、ひとつで十分です!眩しすぎますからね!」
「大分、落ち着いたと思うんだが・・・」
自分を見ているテギョンにミニョとリンがまた顔を見合わせた。
「どう思います!?」
「わっかんなーい」
リビングへ向かったミニョは、テギョンに腕を伸ばすリンを渡した。
「そうでもないですよね・・・でも、輝いているのが素敵ですから!」
相変わらず笑っているミニョにテギョンの腕が伸びた。
「ふん・・・どちらにしても俺には、それ程見えないからな」
空を見回すテギョンは、ミニョの手を引いてリビングに迎えいれ、テギョンの手の温かさにミニョの冷たい手と心がホカホカしてそれが自然と笑みを零れさせた。
「なんだ!?」
「いいえ・・・」
はにかむミニョの後ろで窓を閉めたテギョンは、ブランケットに包まるふたりを見つめ冷えただろうと
聞いた。
「リンが暖かいのでそうでもなかったですよ」
ミニョの頬を暖める様にテギョンの腕の中から手を伸ばすリンが、頬もくっつけると、触れる髪がくすぐったいと顔を歪めたミニョが笑っている。
少し羨ましそうにそれを見ていたテギョンが、ふっと笑いながらミニョの手を引っ張った。
「こうしたらもっと暖かいかもな!」
ミニョとリンを包み込むように抱き込んだテギョンは、背中に手を廻しながらやっぱり冷えてるぞ!と言って、ミニョの額にキスをした。
「暖ったかーい!」
ミニョとテギョンを交互に見ながらリンがはしゃいでいる。
「星は良く見えたのか!?」
「ええ、空気も澄んでてとても良く見えました」
リンと顔を見合わせたミニョは、ねーと首を傾けあった。
「そうか」
「今度はオッパも一緒に見ませんか!?」
ミニョがテギョンを見上げて言うと、唇を尖らせたテギョンは瞳を上にあげた。
「もう、大分見えるでしょう!?まだダメですか!?」
首を傾げてテギョンを見るミニョは、何かを期待したような目をしている。
「そうだな・・・星を見に行くか!?」
思い出の地へと言ったテギョンにミニョは嬉しそうに微笑むとその腕の中で不思議な顔をするリンは、どここにと聞いている。
「アッパとオンマの大切な場所です!リンも一緒に行きましょうね!」
「ああ、お前は、まだ行ったことがないからな!ここよりもっと星が綺麗に見えるぞ!」
テギョンがリンの髪を撫でると行くーと言ったリンは、望遠鏡もと言った。
その言葉にミニョと顔を見合わせるテギョンは、そんなモノもあったなと懐かしい事を思い出させてくれたことに声を出して笑っていたとある日の出来事だった。