リビングでミニョを挟んだテギョンとリンが、対峙していた。
「ちがうのー！」
小さな拳を握って、地団太踏んでミニョに訴える。
「何が違うんだ！？」
唇を尖らせた不機嫌なテギョンが、リンを見下ろした。
「アッパじゃ嫌だ！」
「何故ですか！？」
リンと同じ目線で座り込んでいるミニョは、抱きつくリンを抱き返しながら聞いた。
「どっちでも変わらないだろう！」
「変わる！アッパが来たら絶対ダメ！！」
テギョンを指差しリンは、キッときつい眼差しでテギョンを見上げ、睨みつけた。
「どうしてですか！？」
「だって、女の人が一杯来るもん！！」
「えっ！？」
ミニョの首に腕を巻きつけたリンは、そのまま膝に収まった。
「そうとも限らないだろう！」
テギョンが歩けば、少なからずファンに囲まれる可能性が高いのも事実だ。
「絶対ヤダ！！」
「ファンを足蹴には出来ないんだよ！」
「アッパはどっちが大事なの！」
「どっちという議論じゃないだろう！大体なぁ、ミニョだって、ひとりにしたら男が寄ってくるんだぞ！」
「僕がいるから大丈夫だもん！僕が守るもん！！」
「なっ・・・生意気な事を・・・」
「オンマが良いのー」
振り返ってテギョンを睨んでいた顔が一瞬で泣きそうな不安顔に変わってミニョを見上げた。
「そうは、言ってもな・・・・・・」
ミニョは、リンを抱きしめながら困り顔で聞いている。
「でも、リンは、行きたいのでしょう！？」
「行きたいっ！！」
現金に答えるリンを腕組したテギョンが呆れ顔で睨みつけた。
「アッパが行っても良いわよね！？」
「う・・・オンマは・・・アッパが良いの！？」
リンも困った顔でミニョを見た。
「うーん、それは、アッパの方が心強いですからね・・・」
「ああー、もう良い！時間も遅いし！俺がひとりで行ってくる！」
「ダメーアッパ、間違えるもん！」
「同じ物を持っていけば、間違えようが無いだろう」
「ああ・・・そうですね」
今気づいたと納得顔でミニョがリンを降ろしている。
「ったく、最初からそうすれば、良かったじゃないか・・・」
ジャケットを攫う様に腕に抱えたテギョンは、緩めていたネクタイも結び直した。
「じゃぁ、アッパ！お願いします！」
「ふん、たかが、これくらいで、無駄な時間だ！」
くだらないと吐き捨てたテギョンは、さっさと玄関に向かって行った。
ミニョは、ピアノの下に潜り込んで、ブツブツ言いながら探し物を始めた。
「・・・ぅん・・・この時間、綺麗な人も多そうですけどね・・・ファンに囲まれたら無碍には出来ないんだから・・・」
ミニョの後ろでしゃがみ込んでいるリンは、目をパチクリさせながら聞いている。
「おっ！ありましたよ！」
ノートと鉛筆を取り出したミニョがピアノの下から顔を出すと待ち構えていたリンが、両手を出した。
「オンマ！やっぱり、アッパと行ってくる！」
「えっ！？った」
ゴツンとピアノに頭をぶつけたミニョの手からノートを鉛筆を奪ったリンは、玄関へ走り出した。
「アッパー、一緒に行くー」
「あ！？」
駆けるリンをテギョンが怪訝な顔で受け止めた。
「アッパひとりじゃ心配なの！一緒に行く！！」
テギョンに抱えられたリンは、にっこり笑った。
「どうしたんだ！？急に・・・」
「オンマを守る―」
「は！？どういうことだ！？」
「良いの！アッパひとりじゃ心配だから一緒に行くの！」
鉛筆とノートを見せるリンは、それをテギョンに渡した。
「ちゃんと買ってくるぞ」
「何で急に変わったのですか・・・」
頭を抑えながらミニョが玄関にやってきた。
「良いの！オンマは待ってって！アッパとすぐ帰って来るから！」
「ふふ、解ったわ、いってらっしゃい」
リンの頭を撫でたミニョは、テギョンにお願いしますと言った。
「ああ、鉛筆とノート・・・同じものを買って来れば良いんだろう」
「ええ」
「じゃぁ、行くぞリン！」
「はーい」
リンを抱えたテギョンは、闇の中を車に向かい、玄関から暫く歩いてテギョンがリンに聞いた。
「オンマは、何を言ったんだ！？」
首を傾げるリンにテギョンは、瞳を細めた。
「知らなーい」
「ふん！どうせ何か言ったから急に変わったんだろう！」
「えへへへー」
ニンマリ笑っているリンにテギョンもふっと笑った。
「まぁ、良い！行くぞ！」
リンを車に乗せたテギョンは、深夜のスーパーに向かったとある日の出来事だった。