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それは、10月も押し詰まったある日。
リビングのテレビ前に陣取り、手元のパソコンを操作しているリンは、ダイニングを振り返ってニンマリ笑い、ふと気配に気づいたミニョに微笑んで会話を続けた。
『そっちが良い!』
途端に相手の会話のボリュームが大きくなっている。
(解った、じゃぁ、もう一つだ!ライムは無かったから、緑だぞ!でも、ハロウィン色だからこれで良いんだろう!?)
『うん!ピーターパンみたいだからそれで良い!』
(了解!じゃぁ、ミニョにもちゃんと話をしておけよ)
『アラッソー』
『シヌオッパですかぁ!?』
ポンとボタンを押して画面を消したリンの背中でお玉を咥えたミニョがパソコンを覗き込んだ。
『うん!ハロウィンの仮装をお願いしたのー』
『ふーん・・・ミナムオッパじゃなくてシヌオッパにですかぁ!?』
細めた目でリンの顔を見つめている。
『そうだよー!ね、オンマ!ユンギヒョンのイベントに行くでしょう!?』
にっこり笑顔のリンは、ミニョの腰に抱き付いた。
『え、あー、ユンギssiというよりハルモニのお手伝いに行きます・・・けど・・・』
『ふっふっふー、シヌヒョンも来るんだってー、楽しみだねー』
『はぁ・・・』
お玉を顎に添えて考え込んでいたミニョだった。
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月末早朝、とても良く晴れた空を見渡したミニョは、リンに急いでと促され、家の前に止められた高級車に向かっていた。
『おはようございます!ミニョssi!』
『おはようございます!あっれ、ユンギssiは、一緒ではないのですか!?』
外で待っていたヒジュンと挨拶を交わすと車の中から手を振るミンジを押し退けたジュンシンが、中からドアを開けている。
『アジュンマーおっはよう!俺も来たぜー』
『ほほ、帰ったばかりなのにまた来たのよ!賑やかでごめんなさいね』
ミンジの謙遜にリンの手を掴んだジュンシンが膨れた。
『ハルモニー!俺が居なくて淋しいとか思わなかったのかよーいっちばんかわいい孫だろー』
『ふふ、ジュノが居なくてもリン君が遊びに来てくれますからね、遠くの孫より可愛いわ』
『チッ!何だよそれっ!ハルモニの孫は俺だぞっ!』
小さな対抗心に忍び笑いを零したミニョも車に乗り込んでいる。
『今日は、誘って頂いて感謝します!今年は、中山聖堂まで行けなかったので・・・』
『ええ、リン君に聞いていたので、私のお手伝いをして貰おうと思ったのよ!奉仕は気持ちですからね、時間も場所も関係ありませんよ』
残念そうなミニョを慰めるミンジの横で笑ったジュノが、ヒジュンの頭に手を伸ばした。
『痛っ、何するんだっジュノッ』
『へへッ、ヒョン!奉仕は気持ちなんだってー、嫌々ランタン作ってたんだろー!?』
『っなっ、なんでお前が知ってるんだっ』
『ユンギが言ってたぜー、かぼちゃくり抜き乍らミナに会いたいって泣いてたってー』
べーと舌を出したジュノを小突く真似で威嚇したヒジュンは、運転席に座り直している。
『ふふ、ユンギもユジンが来れないんだからおあいこなのにね』
『ふふ、向こうは、丁度音楽祭のシーズンですしね・・・』
『ええ、本場の音楽祭には敵わないけどユンギのイベントもそれなりですからね』
ハロウィンにボランティアに賑やかな会話が繰り広げられる車は、明洞へ向かっていた。
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『ハロウィンね・・・』
テーブルに置かれたカボチャの置物を眺め、リンの作った人形を突ついて、忍び笑いを零し、また作業に戻ろうとしたテギョンは、廊下の声に耳を澄ましていた。
『だーからーさー、イベントっていうか、ボランティアに来てるんだって!イベントはイベントらしいけどっ!夜っ!ね、夕方がメインなんだってー、ね、行こうーよー!どうせ暇でしょう!』
『暇っ、暇っってなぁ、暇人扱いするなよなー!これでも俺、一家の主夫なんだぜー!家族サービスってもんをしなくちゃっならないのー』
『家族サービスでも良いよっ!ね、ヘイssiも呼んでさぁ!ウォンとスヨンなら俺が見てやるからっ!』
『あん!?あー、ああ、そ、れなら・・・』
騒ぐジェルミに了承をしたミナムの声が徐々に遠ざかり、首を傾げていたテギョンは、立ち上がるとふたりを呼び止めている。
『おいっ!お前等ちょっと待て!』
曲がり角で振り返ったジェルミが、テギョンを見た。
『あっれ、ヒョン、来てたの!?仕事!?』
練習室の前を素通りしたふたりは、立ち止まってテギョンを見返している。
『ああ、打ち合わせが入ってる・・・っ、それより今の話・・・』
『今!?』
顔を見合わせたジェルミとミナムにテギョンが舌打ちをした。
『あ、あー、ヒョン!』
ニヤリと笑って指を出したミナムにテギョンの顔が剥れている。
『あっはははは、盗み聞きは感心しないぜぇ』
『何が盗み聞きだっ!聞こえる様な会話をしてただろうがっ!』
合点をして大笑いを始めたミナムは、きょとんとするジェルミの肩をバシバシ叩いた。
『あっは、ミニョじゃないぜー、ヒジュソンベがボランティアに来てるんだってさー』
『え、あ、ああー・・・そういうことか・・・』
ジェルミも納得顔で笑っている。
『あは、ヒョンってば、勘違いしたんだー』
『うるさいっ!関係ないならもう良いっ!さっさと仕事に行けっ』
尖らせた唇を動かしながら手を振ったテギョンは、背を向けた。
『ミニョがいるならヒョンも行くんでしょう!?向こうで会おうねー』
『さっさと仕事に行けっ!』
手を振るジェルミを引っ張って去っていくミナムの大笑いを聞きながらまた舌打ちをしたテギョンだった。