1枚の名刺を貰って見たものを信じられなくて、眠れない夜を過ごし、でもギンギンに冴えた目と半信半疑な気持ちを抱えてA.N.entertainmentを訪ねて行った翌日。
居並ぶ女の子達になんだって目を向けられながら警備員にそれを見せるとどこかに電話して、出て来た女性に案内されるまま小さな部屋で待たされた。
暫くしてやって来た天使は、やっぱり天使だったけど、それは、見て呉れだけで、話し方は、まだまだマイナスポイントだったな。
『って、ヒョン!聞いてる!?』
『えっ!?あ、ああ、悪い・・・聞いてるよ』
じっとり俺を見上げる目は、聞いてなかったでしょうと言いたげで、ははっと零れた笑いに喉が引き攣っていた。
『ったく、ヒョンのデビューなんだよ!僕もプロデュースさせて貰えるなんて思って無かったから、頑張りたいのっ』
『あっ、ああ・・・けど・・・本当に良いのかなぁ・・・』
俺のソロデビューの話が決まったのは、本当にあっという間で、半信半疑な気持ちは、まだ引きずったままだ。
『良いのっ!大体、アッパが、お墨付きをくれたんだから間違いないのっ!』
ファン・リンという名前だと翌日教えてもらった。
ファン・テギョンとコ・ミニョのひとり息子は、今は、アメリカに音楽留学をしている。
クリスマス休暇を兼ねてお正月を過ごす為に帰国をし、その足であそこで待ち合わせをしていて、もみの木のあるあの場所は、オンマとアッパの昔のデートの待ち合わせ場所で、星が煌めくあそこは、毎年色んなイベントに使われ、季節ごとに違う星が輝くから好きな場所なんだと教えられた。
あれから半年。
俺は、そのイベント会場で、デビューをすることが決まっていた。
『あそこって、前の職場に近いんでしょう!?』
『ああ、知り合いも多く通(とお)っていたよ・・・』
意見が合わなくてバンドを首になり、弾くだけならどこでも良いと路上で弾き始めて1週間。
クサクサした気持ちは、音を奏でてる時には無くなって、やっぱり音楽は良いなぁと思いながら次の仕事をどうしようと考え、一時の感情に流されて莫迦をやったのかとか前を通り過ぎていく人達に俺ってどう見えてるんだろうとか、あっ、あいつ目も合わさず行ってしまったとか、色んな事を考えて人通りを見つめ、でも、何でも良いから音楽に携わる仕事をくださいとクリスマスに祈ってた。
祈りが届いたのか単に運が良かったのか、でも天使は間違いなく俺の前に舞い降りて来た。
『ヒョンってさぁ、結構な負けず嫌いだよね』
『えっ!?なっなんだよそれっ!リン君に言われたくないぞ』
負けず嫌いというなら、あのファン・テギョンに対抗心剥き出しのファン・リンの方が絶対上だと思う。
『僕のライバル心は、生まれる前からだもん・・・ファン・テギョンがアッパな時点で、僕の運命ってもう決められてるよねぇ』
あははと笑いながら、ギターを手にした彼は、讃美歌を奏でた。
それは、あのクリスマスに俺が弾いていた讃美歌だ。
『どういう意味だい!?』
ファン・テギョンとファン・リンの互いにそれぞれ音楽とはまた違う場所でライバル心があるのは、俺もここ半年で気が付いて知っていた。
親であったり、年長者でもあるファン・テギョンにリンが持つそれは、なんというか、コ・ミニョssiを間に立たせた恋にも似ているが、それ以上になんていうかリンは、ファン・テギョンという人をとても尊敬しているんだと思わせ、そして、それを楽しんでいる。
『クラシックを諦めたアッパは、僕に英才教育をしていたんだ・・・でも、これってアッパはなーんにも気付いていない・・・それが当たり前で、アッパにとって気持ちが良い事だから当然なんだけどね』
『えっ!?ますます解らないよ・・・どういうこと!?』
中学生の彼の言葉は哲学的で、考える頭がこんがらがっていた。
『ふふ、アッパが何で僕にプロデュースをさせてくれるかって話なんだどさ・・・』
リンがそう言いかけた時、扉が開いて、ファン・テギョンが、声を掛けてきた。
『おいっリン!今日は、七夕だぞ!空が泣いたら困るから、さっさと切り上げろっ』
『えっ!?泣きそうなの!?予報じゃ降らないって・・・』
『ああ、けど、曇ってきたからな・・・空じゃぁふたりは会えたんじゃないか・・・』
『えっ、じゃぁ、オンマ待ってるよね!リクエスト失敗だったかなぁ!?』
『それは、大丈夫だな!あいつも楽しみにしていたから・・・』
それだけ言って、扉を閉めたファン・テギョンは、高笑いをしながら廊下に消えて行った。
『ヒョン!ごめん、今日は、ここまでにしよう!オンマとデートの約束なんだ』
『えっ、ああ構わないけど・・・』
バタバタと急いで片づけを始めるリンをみつめながらそうか今日は七夕かぁと考えていた。
天空の遥か上空で1年に1度だけ出会える男女は、その出会えた嬉しさから号泣して、だから、今日は、雨が降ったら良い日なのよと昔オンマが教えてくれた。
地上の俺達には、天の川が見える方が余程ロマンチックで、綺麗なのにと空を見上げ、何年か前に隣にいた奴と過ごした今日をなんとなく思い出し、俺も帰り支度をするかぁと立ち上がるとすっかり支度を終えたリンが、扉を開けながら俺を振り返っていた。
『何、忘れ物!?』
『ううん・・・ね、ヒョン!クリスマスにさ、天使が降りてきて祝福をくれたって言ってたでしょう・・・』
『うん!?ああ・・・』
その天使は目の前にいる君だけどねと思いながらリンを見れば、笑った顔の皮肉げな表情に戸惑っていた。
『天使って実は、悪魔に一番なりやすいって覚えておいた方が良いよ』
『はぇ!?』
『ふふ、無垢なものほど人を魅了出来るよねー』
手を振って、高笑いと共に帰って行ったリンにやっぱり天使の考えてる事ってわかりずらいな、なんて感想を持ち、外に出ると曇り空がポツリポツリと地面の色を変えていた。
鞄に仕舞った傘を取り出し、丁度出て来た車に乗ったリンとすれ違い、その日最後の挨拶を交わした。
『七夕デートね・・・俺には今んとこお前がデートの相手だな』
背中に背負ったギターが、当面の俺のデート相手だ。
クリスマスに出会った天使は、七夕の今日も天使だった。
帰国したばかりのその足で、誰よりもオンマに会いたいだろうに家に帰らず、俺の為の時間を割いてくれたリンは、やっぱり天使だなぁとそんな事を考えていた七夕の夜だった。
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byアメーバピグ |
あんにょん(=⌒▽⌒=)
意外とリクが多いこの「名もなき青年」(笑)楽しんで頂いてありがとうございますm(__)m
七夕リクは、anotherにも頂きましたので、今年も「ミナムの舞男」の続きを書きました(-^□^-)
そちらも宜しくお願いします(=⌒▽⌒=)
では、最後まで読んで頂いてありがとうございました(^-^)
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