「ぅるっさい、久しぶりの揃っての朝食なのに我儘聞かせないでよ」
「言うっ!言うぞっ、今日も言ってやるっ!リポーターって何だっ!聞いてないっ」
「当然でしょう、今、初めて話しているんだもの」
双子を両脇に座らせて、食事をさせているヘイは、向かいに座っているミナムをちらと見た。
「いや、お前の仕事だから、別に何を受けても構わない、けど、何で、お前が、リポーターだよ」
「コ・ミナムの妻だからでしょう」
知れっと呆れ顔のヘイに黙々と食事をしているヘイの両親ときょとんと見上げている双子と食卓を見回したミナムは、浮かせていた腰を下ろし、恥かしそうに咳払いをしている。
「社長に言われたわ、ミナムの奥さんだから話も聞きやすいだろうって、だから依頼があったんだって」
「・・・なんか意図があんだろ!?」
箸を持って、手近な皿を引き寄せたミナムは、指を咥え見上げたままのスヨンに首を傾げた。
「そうね、長年沈黙してた伝説の復活、ファン家の家族共演、ああ、あと、何だっけミステリーもあるらしいわね」
「ミステリー!?」
口に運ばれたスプーンが止まり、首を傾げているウォンがヘイの袖を引っ張っている。
「なんでも国内で活躍はしていないけど外国では凄い人気のある人が、いるんでしょう」
「あ!?ユンギssiの事か!?」
テーブルを見回したミナムは、スプーンを手に立ち上がり、スヨンの口に少量のご飯を入れた。
「実業家だっていうじゃない・・・おまけに・・・物凄っいお坊ちゃまなんでしょう」
「・・・そ、うなのか!?それは、知らな・・・い」
「目的は、どっちかっていうとそっちみたい、けどさ、そんな人とお友達なの!?コ・ミナム!?」
ぱっくりスプーンを咥えた顔を肩越しに見下ろしたヘイは、笑ったスヨンに微笑み返そうとして、ウォンの口から抜けないスプーンに慌てて逆を見ている。
「俺じゃなくて、ヒョン達の古い友人だ・・・もしかして、インタビュー取れないから、ヘイを利用しようって事か・・・・・・」
「それも説明されたわ、経済誌に出るくらいなら、音楽雑誌もテレビ出演もしてくれても良いだろうって・・・・わたしに言われてもそんなの本人次第よね」
ヘイの両脇を見たミナムは、小さく舌打ちをするとテーブルを周ってスヨンを抱き上げた。
「ああ、バンドを組んでるんだけど、そっちは配信しかしてないからな」
「そんな人が、何でA.N.Jellのコンサートに出る事になったのよ!?」
ほっとした顔のヘイは、小さなテーブルを叩くウォンの前にお茶碗を置いている。
「ヒョンの意趣返しだよ、ミニョの新曲書いた人だし、復帰も一枚噛んでるぞ・・・お前が紹介してきたジョンアssiの弟もユンギssiと旧知だ」
「え!?そうなの!?」
スヨンを膝に抱え、着席したミナムも向かいから茶碗を引っ張った。
「ああ」
「えー、やだー、世間って狭いのねぇ」
ウォンとスヨンそれぞれに食事の催促を始め、お皿に手を伸ばしたヘイは、黙ってしまったミナムを見ている。
「なに!?」
「い、や、今の言い方が、おばさんだなぁっと思っただけ」
スヨンをあやしながら食事をしているミナムは、俯いたまま笑った。
「は!?ちょっ、コ・ミナム!まだ妖精って言われるのっ!何言ってんのよっ」
「いやー、妖精も年は、取るんだぞ、この前の格好はいただけなかった・・・」
スヨンの顎を持ち上げたミナムは、ホッペにくっついたご飯を唇で掬い上げている。
「あっれは、この子たちが、あれが良いって言ったからじゃない」
「喋れないのにどうやって言うんだよ」
「喋れなくても意思表示はあるのよ!ちゃんと自分達で決めたんだからっ」
ウォンにスプーンを差し向けたヘイは、ムッとしながらぱっくり開いた口にご飯を入れた。
「「「・・・お・・・親やばかかか・・・あー・・・」」」
箸を持ち上げたまま俯いているパパとおかずを取ろうと腕を伸ばしたママとあんぐり口を開けたミナムとスヨンの声が重なっている。
「ちょっ、パパ、ママ、ミナムの肩持つのっ、スヨンまでなにっ」
にっぱり笑っているスヨンに目を細めたヘイは、パパとママを見回した。
「いーえ、ヘイちゃんが、ちゃんとママしている事が、嬉しいだけです」
「お前も大人になったんだなぁ」
「パパっ!嘘くさいから止めて・・・っとに、ミナムに感化されちゃって・・・もっ」
パシンとテーブルにスプーンを置いたヘイは、ウォンに袖を引っ張られ苦笑いを浮かべた。
「アボニム今夜もいきますか」
スヨンを抱えなおしているミナムは、パパに向かって指を形造り傾けた。
「ああ、待ってる、つまみも用意しておくから」
「朝から、飲む話をしないでよ」
ウォンを抱きかかえたヘイは、腕を伸ばしているスヨンを見つめ、立ち上がったママに頷いている。
「じゃぁさ、ヘイ、今日は、一緒に行くのか!?」
ママにスヨンを預けたミナムは、頭を下げ、箸を手に食事を始めた。
「ええ、打ち合わせもリハーサル会場でやりたいんだって、だ・か・ら・つ・い・で・に送ってあげるわ」
「たまには、一緒の出勤もいいな」
カリコリ音を鳴らしながらヘイを見たミナムは、楽しそうに口の端をあげて笑っている。
「デレっとしないで!わたしの旦那だという自覚を持って頂戴!!!」
「A.N.Jellのコ・ミナムで良いだろうー」
「それが、軟派すぎて困るって言ってんのよっ」
「だぁー」
「おー、まー」
「「ふぇー」」
食事をしようと箸を持ったヘイは、両手を挙げたウォンに僅かに仰け反り、目を丸くした。
「えっ!?」
「何だよっ!?」
ミナムをじっと見つめたヘイに顔をあげたミナムも見つめ返している。
「い、今、ママって言わなかった!?」
「は!?」
「言った!聞いた!?聞いたわよね、パパ、ママ」
ウォンの向きを変え、向かい合ったヘイは、ぎゅっと抱きしめ、スヨンにも腕を伸ばし、髪を撫でた。
「言ったのよー、ミナムよりも先に呼ばれたわ、あー、もう、あんた達可愛いわぁ」
ウォンを抱え上げ、何度も抱きしめてキスをしているヘイに溜息が漏れている。
「やっぱり・・・」
「「「親ばか」」」
「だなぁ・・・」
「よね」
「ですよね」
頬杖をついたミナムは、ママに見つめられ、首を傾げた。
「何です!?」
「ミナム君もヘイの事いえないからね」
「オ、オモニー・・・」
「良いのよ、親ばかで、この人もヘイには、かなり親ばかなのに自覚がないんだから」
「おっ、おいっ」
★★★★★☆☆☆★★★★★★★★★★☆☆☆★★★★★★★★★★☆☆☆★★★★★
「ヒョンニーム、おはようございます」
宿舎のバルコニーを歩いていたシヌは、下から掛けられた声に道路を見下ろしていた。
「ああ、おはよう、今からか!?」
「はい!今日のリハーサルもお邪魔しまーす」
大きく手を振った淡い金メッシュの髪の青年に返事をしながら手を振り返している。
「ああ、そうか、ダンサーは、お前達か」
「はい!リンくんも来るんですよねー」
大きな声で、口元に手を当てて叫ぶ青年は、両手を大きく振り続け、シヌは、苦笑いをした。
「ああ、メインだからな」
「じゃぁ、俺達は、先に出ますっ、後でー」
ワゴン車から顔を出した運転手に慌てて返事をした青年は、頭を下げて車に乗り込んでいる。
「気を付けて行けよー」
走り出した車に声をかけたシヌは、手にしていた水を煽りながら、階段を降り、中庭からリビングに入った。
「ヒョーン・・・俺にフレッシュジュースちょうだーい」
ダイニングテーブルに頬をくっつけてぼーっと庭を眺めていたジェルミは、シヌに声をかけ、椅子に大袈裟に仰け反っている。
「おい、おい、お前そんなんでリハーサル大丈夫なのか!?」
ジェルミの後ろを通り、反った顔に目を合わせキッチンに立ったシヌは、冷蔵庫を開けた。
「悪夢を見たんだよー!もう、俺、ダメかもしれなーいっ」
「どんな悪夢だよ」
パッタリテーブルに倒れたジェルミは、また頬をつけて庭を眺めている。
「テギョンヒョンがさぁ、俺は出なくて良いっていうんだよー、ユソンに叩かせてたー」
「お前も妙なプレッシャーか」
ポットからカップにお湯を注いだシヌは、ジェルミの前にジュースを置いた。
「ありえないでしょう・・・巧過ぎるんだよーガキの癖にー」
バッと体を起こしジュースを一気飲みしたジェルミは、シヌが取り出したおかずをつまみ、フライパンを温めている手元を見て立ち上がっている。
「伝説の孫じゃ、致し方ない」
「くっそー、ソンベの孫じゃなかったらなー」
「何かするのか」
手際よく卵を焼いているシヌは、皿を手に隣に立ったジェルミと皿を交互に見つめた。
「何も出来ないから悔しいんだよー、自分で頑張るしかないもん、俺のプライドズタズタだー」
照れ笑いを浮かべ、皿で顔を隠したジェルミは、もう一度差し出している。
「ふ、お前は歌も歌えるじゃないか」
「そうそう、ユソンって、歌は下手だったね」
シヌが作ったスクランブルエッグを手に座りなおしたジェルミは、トースターにパンをセットした。
「人それぞれ取柄も違うさ」
空になったフライパンを見つめて笑ったシヌは、冷蔵庫からまた卵を取り出し、海苔も取り出して、一緒に焼いていた朝だった。
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