ノックをする為に握った拳を振り上げたテギョンは、反対の手を握るリンを見下ろして大きな溜息を吐いてしゃがみ込んでいた。
「おい・・・良いか・・・さっきの話をアボジから上手く聞き出すんだぞ」
リンの鼻にくっ付きそうなほど顔を近づけ、立てた指を小刻みに動かしている。
「良いよぉ、でも、教えてくれなかったらぁ!?」
動く指にくぎ付けのリンは、真ん中に瞳を寄せ、首を傾け、テギョンの目と口は片側に寄った。
「良いか、良く覚えとけ、コンサートでサプライズなんてな、ペンには喜ばしいが、俺達にはアクシデントだ!ミニョが事故を起こす何百倍も無い方が良いんだ」
「オンマが事故を起こすのはアッパのせいだもん・・・」
「そうとは限らない、ミニョは、そそっかしい」
「・・・ハラボジは、アッパと楽しい仕事をしたいだけって言ったもん」
「・・・対処できない事を仕掛けて来ないとは思うが・・・あの人の考えは、時々理解に苦しむんだ・・・前もそれで散々やられたからな・・・」
「何されたのぉ!?」
額に手を当て渋面で立ち上がったテギョンを不思議顔のリンは、首を長くして見上げている。
「昔話だ・・・」
舌打ちをしたテギョンにそれ以上聞かないリンは、手を繋いでドアを見た。
「さっき、シヌヒョンが言ってたの、アッパの試験だって」
リンの言葉にまたノックをしようとした拳が下がっている。
「・・・・・・お前のだろ」
「僕を試したのはアッパでしょ、ハラボジが言ったもん」
視線だけでリンを見下ろすテギョンにリンも前を向いたまま答えた。
「許可してくれたのは、アッパの試験に合格したからだって」
「あ、ああ、まぁ、そうだな・・・最もお前、歌わないって言っていたのにどうして気が変わった!?」
「オンマと歌えるから!」
拳を突き上げて答えたリンのニンマリ向けられた顔にテギョンは、目を細めている。
「・・・軽い奴だな」
「オンマも一緒ならダンスしてくれるって言ったでしょう!」
扉との間に立ってテギョンの両手を握ったリンは、その手を動かした。
「あ!?」
「アッパもダンスしよー」
「はぁ!?」
「アッパのダンスが見たーいのー」
「・・・・・・・・・・・・お前・・・俺に何をさせたいんだ!?」
テギョンの溜息交じりの返答に唇に指を一本当てたリンは、頷いて両手を伸ばしている。
「・・・お仕事だよ」
「ステージは、お前の遊び場じゃない」
渋々と腕を伸ばしたテギョンはリンを抱き上げて、同じ高さで視線を交わした。
「遊び場だもん!」
口の両端に指を入れたリンは、引っ張ってテギョンを見ている。
「お前の教育を間違ったかもしれん・・・・・話し合いが必要だな」
ドアを睨んだテギョンにリンの頬が膨らみテギョンの肩に両手が乗せられた。
「いらないもん、間違ってないもん」
「お前が決めるな!俺とミニョの問題だ」
三度目の拳があがり、寸前で止まっている。
「僕のじんせいだもん!」
「ぁん!?」
両手を添えたリンの腕ごと拳が頬に充てられグリグリしているテギョンは、笑みを浮かべた。
「どの口が生意気な事を言ってる!」
片側の頬だけを膨らませたリンは、ノブの回る音に腕を伸ばしている。
「・・・オッパ・・・あの、そのくらいに・・・その・・・」
「オンマー!アッパがねー僕を苛めて楽しんでるのー」
リンの伸びた腕を取ったミニョが、きょろきょろ廊下を見回した。
「・・・ごめんねアッパには、オンマがきつく言っておきます」
「おい・・・俺の立場がなくなるだろう」
リンの体を重そうに抱き直したミニョは、溜息を吐いた処で、テギョンに睨まれ、ドアを支えていたギョンセが横から顔を出している。
「お前の立場なんて、結婚した時になくなっているだろう・・・嫁と息子に甘い癖に」
「どういう意味です」
ニヤっとしたギョンセにテギョンの顔が歪み、ミニョに腕を伸ばした。
「そのままだろ」
リンを背中から抱き上げたテギョンは、ギョンセの腕に押し付け、ミニョの腕を掴んで引き寄せ、指を立てている。
「リンっ!お前っ今日もアボジの処へ泊れ!帰って来なくて良い!」
「え、ちょ、オッパ!!」
言いながら背中を向けたテギョンは、慌てたミニョを引きずり、ズンズン廊下を歩き出した。
「良いよー、アッパなんて嫌いだもーん」
「チッ!帰るぞっ!コ・ミニョ!」
「えっ、あ、わ、リンっ」
テギョンの早足にちょこまか付いて歩くミニョは、後ろを振り返り、腕を伸ばしている。
「オンマー明日は一緒に寝ようねー」
「毎日一緒に寝たいですよぉー」
「お前は俺と寝るんだよっ!」
角を曲がる寸前で手を振るリンに手を振り返したミニョは、テギョンに引きずられたまま、エレベーターホールに消え、ギョンセに抱かれたリンは、振っていた手を首に回してクスクス笑っているのだった。
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