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「『キム・ヒジュンも復活、更なるシークレット、最高にスペクタクルな夏』だそうです」
淡々と雑誌の記事を読み上げるヒジュンに机に突っ伏した顔が唸っている。
「ファン・テギョンssiを虐めてきた報いだと思えば・・・軽くて良かったですね」
記事と写真が掲載されたページが丁寧に拡げられてユンギの顔前に置かれた。
「かっ、誰が虐めたんだよっ!」
ガバッと勢いよく顔をあげたユンギは、雑誌を持ち上げてヒジュンを睨んでいる。
「・・・・・・・・・」
無言で背中を向けたヒジュンは、軽い溜息を吐いて、扉へ歩み、壁際に設置されたコーヒーメーカーにカップを置いた。
「そんなに堂々と顔が載ってしまっては、今更、違いますと言えないでしょう」
「ふ・・・ん・・・お前は、それで、良いのかよ・・・」
「ええ、社長のスケジュールは、既に調整済です」
ニヤリと笑うヒジュンは、カップをもう一つ取り出し、小さなトレイを出している。
「はぇ!?聞いていないっ」
「ええ、今初めてお伝えしました・・・というより、興味もないでしょう」
「・・・・・・・・・いやな奴」
カップを二つトレイに乗せたヒジュンは、砂糖とミルクを手にして振り返った。
「先代にもそれはそれは切実にお願いされましたからね」
トレイにスプーンを乗せ、ユンギの机の前に立っている。
「ふ・・・ん・・・ヌナを呼び出して、お前まで呼び出して、俺の知らない処で、スペードの行く末まで決めて・・・あー、もう!アボジのばかやろー!死んでも俺を縛るのかよー!」
立ち上がったユンギは拳を握り、来客用のソファテーブルにヒジュンを促した。
「縛っていらっしゃらないでしょう・・・良い方でしたよ・・・息子の事を一番考えてた・・・」
ユンギの座ったソファの前にカップを置いたヒジュンは、もう一つを置いて腰を下ろし、口を尖らせて睨むユンギに微笑んでいる。
「会社の事をだろう・・・俺の夢を邪魔して・・・」
熱いコーヒーを口にしたユンギは、小さく舌を出し、カップを持ち上げたヒジュンは、両手で包んで液体を見つめた。
「ヌナは・・・・・・自分の病気の事を・・・知っていたんですよ」
「ん!?」
口を付けた液体の熱さに唇を拭ったユンギの前で、ヒジュンは、カップに息を吹きかけた。
「・・・・・・・・・あなたには・・・黙っていましたけどね・・・・・・俺の前で、二度、倒れたことがありました・・・」
ゆっくりと液体を口に入れ、溜飲するヒジュンの前でユンギは、眉を寄せている。
「ヌナと俺が、イ・ソンジンssiに呼び出された・・・というのは・・・ちょっと違うんですよねー」
「ち・・・がう!?って!?」
溜息交じりに笑ったヒジュンにテーブルにカップを置いたユンギは首を傾げ、蟀谷(こめかみ)に指を当てた。
「ミナは、子供でしたから、詳しい事情を知りません・・・これを知っているのは、もう、俺と奥様だけです・・・・・・奥様から話してくれ・・・と頼まれました」
「!?な・・・にを!?」
「ヒジュンソンベとファン・ギョンセssiが、あなたを巻き込んで、A.N.Jellのコンサートに出られる様にしたのは、偶然でも何でもないという事をですよ」
「意味が解らない」
淡々と微笑みを浮かべて一点を見つめて話すヒジュンをじっと見ているユンギは、溜息を吐いてソファに背中を預けた。
「奥様はね、あなたに見合いを進めてもなかなか色好い返事が聞けないのを心配されてます・・・
・・・あなたに聞いてもはぐらかしているでしょう・・・いずれは、結婚してくれるだろうとおっしゃってましたが・・・・・・ヌナとの経緯があるから、恋に臆病になっているのではとも仰ってました」
天を仰いで目元を腕で隠したユンギに笑みを深くしたヒジュンは、体の向きを変えている。
「俺は、ずっとあなたを見ていますからね、もう過去だと思っていますが・・・本当の処・・・・・・どうなのです!?」
「本当ってっ何・・・だよ・・・・・・!?」
三人掛けのソファの真ん中に座っていたヒジュンは、一人掛けに座るユンギに更に近づき、目元に当てた腕の隙間からヒジュンを見たユンギは目を丸くした。
「あの歌・・・完全なピリオドじゃないのかなぁ・・・って思ってるんですけど」
「あ、の歌!?」
「ええ、ミニョssiに贈った『さよならの色』です」
「ふ、は、はははははははははは・・・・・・」
ひとしきり、大きな声で笑ったユンギは、ゆったり身を起こして、ヒジュンの瞳を覗き込んでいる。
「どうしてそう思うんだ」
「あなた、バーで良く歌っていたでしょう!?ヌナの居なくなった隙間を埋めるみたいにヌナとふたりで作った歌を・・・良く歌ってた・・・・・・」
ユンギの瞳を間近で見つめ返したヒジュンは、微動だにせずニヤリと笑った。
「ミナがやって来て、スペードを再開させて、バーにあまり行かなくなりましたね・・・音楽は片手間だなんて言いながら、A.N.entertainmentに入り浸って、アメリカでジュンシンを上手く乗せ、ギター教えながら、テギョンssiとステージに立ちたいリンssiに子供バンドをけしかけて・・・・・・ソンベに話をもちかけたのも、リンssiが誰をどんな子供を選ぶかを予想が出来ていたし、spglobeの教室に通っている子供達にそこまでの実力が無いのも判っていましたよね」
ヒジュンと見つめあうユンギは、口を尖らせて視線と体を逸らしている。
「違いますか!?」
不満顔のユンギを横目に立ち上がったヒジュンは、カップをゴミ箱に入れた。
「ソンベと奥様は、ずっと長い間、先代の残された気持ちをあなたに伝えられるのかと思っていらっしゃったんです・・・・・・あなたに会社を継がせたけれど、でも、音楽を辞めてしまうのは、先代の本意では無かったんですよ・・・ヌナと俺は、先代に呼び出されたんじゃなくて、ヌナが・・・・・・先代の病室を訪ねたんです・・・・・・」
ソファに座るユンギを見下ろしたヒジュンは、ポケットから手帳を取り出している。
「書いただけで終わるのは・・・俺も淋しいと思っていたんですよ・・・チャンスが転がって来たんだから掴んだら良い・・・あんな大きなステージで、自分の書いた曲を演奏出来るなら俺は演るべきだと思います!あなたがいつも仰ってる事ですよ」
手帳の間から取り出した一枚の写真をテーブルに置いたヒジュンは、ユンギの前に押し出した。
「ヌナに充てたラブレターでしょう・・・俺は、そう聴きました」
遠目で覗いたユンギは、腕を伸ばし、手元に引き寄せている。
「ヌナが聞いたら、きっと泣くでしょうね・・・ミニョssiやテギョンssiには前向きな詩に聞こえるかもしれないですが・・・俺は、貴方とヌナの時間を間近に見て、知っていますから・・・ミナもデモで泣いていましたし・・・」
「・・・・・・ピ、リオド・・・ね」
裏返した写真の裏の文字に指を這わせ、見つめたユンギは口元を綻ばせた。
「ヒョンは、ソンベ達を巻き込むつもりが巻き込まれたんですよ!ご老人方は、この状況を楽しんでいらっしゃいます!もちろん!奥様も」
「ソンベ達は、アボジと演りたかった曲があったらしいなぁ」
写真を見ているユンギの横を通り抜けたヒジュンは、書棚から封筒を取り出している。
「ええ、その譜面・・・預かっていますよ」
「・・・何でお前が持っているんだよ」
振り返って机脇の書棚を見たユンギは、封筒を手にしたヒジュンを睨みつけた。
「ジュンシンに渡してくれと頼まれました!ファン・リンには、ギョンセssiから渡っている筈だから・・・と」
「何で・・・ジュンシン!?」
受け取った封筒を開いたユンギは、数枚の譜面をテーブルに拡げている。
「さぁ・・・そこまでは、伺いませんでした」
「・・・まぁ、良いや・・・・・・腹を括りに行ってくるかなぁ・・・」
ざっと目を通した譜面を束ねたユンギは、封筒に戻し、ヒジュンを見上げた。
「ああ、冷蔵庫のお菓子も持って行ってくださいね」
お腹に手を当てて腰を折ったヒジュンの前で立ち上がったユンギは、ポールハンガーからジャケットを外している。
「社長が留守をするぞって言ってるのに・・・用意が良いことだなっ!」
袖を通しながら扉に向かうユンギの後ろを歩くヒジュンは、手帳を拡げた。
「ええ、練習日はスケジュールに入れておきました、秘書ですし」
パタンと閉じた手帳の音に扉を開けたユンギは、微笑み、背中を向けたまま手を振っている。
「行ってくる」
「お気をつけて」
秘書らしく深々と頭を下げたヒジュンは、閉まった扉を暫く見つめ、踵を返した。
「泣いていましたよね、ヌナ・・・ヒョンも一杯一杯泣いていました・・・泣いて、泣いて、親父さんの遺体に殴りかかって、あの時、奥様から口止めをされました・・・ユンギは、大丈夫だからと言ったあなたの言葉を俺はずっと信じて・・・・・・あなたも信じていたから、遠くに行けたんですよね・・・・・・・・・」
ユンギの机の上で哂う写真に語りかけているヒジュンだった。
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さて、ここから先は、上のお話に関する過去のお話。
読んでも読まなくても、次の話は繋がる予定でおりますので、どちらでも(^^)/
ヒジュンとユンギの恋人だったヌナとのちょっとした会話です。
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立ちくらみを覚えた体は、思うようにいう事を聞いてくれなかった。
「ヌ・・・ナ・・・」
「ご、めんね・・・ヒジュン・・・」
支えてくれる顔は強張り、驚いているのは、声からも強く腕に食い込む指先からも伝わっていた。
「ば、れちゃった・・・ね」
椅子まで支えてくれて座らせてくれた腕が解けた事にどことなくホッとして、でも、顔を上げられなかった。
「い、つから!?」
「いつって、始まりは、知らないわ・・・ずっとよ・・・」
「ずっとって・・・」
戸惑い、狼狽し、辺りを見回してユンギを捜しに動いたヒジュンを咄嗟に止めていた。
「ユンギには、黙っていて!」
「なっ!?」
「お願い!黙っていて!お父様の事もあるし!」
父親が入院したと聞いたユンギは、家に帰りたくない自分と闘っている。
「入院されているでしょう・・・それに・・・もう長くないって聞かされたらしいわ」
「だからっ!?尚更だろう!ヌナまで病気なんてヒョンが可哀想だ!」
「もっと、酷い事をしようとしてるわ・・・」
「本気じゃないだろう」
「本気よ・・・ごめんねヒジュン・・・あなたに一番辛い思いをさせるんだわ」
「ヌナっ!」
「ごめんね・・・ユンギを愛してる・・・ユンギの愛もとっても嬉しいの・・・」
「だったら何でだよっ!このままで、念願のデビューも出来るんだよっ!」
子持ちの小さなクラブ歌手が、ユンギと出会った事で大きな夢を見せて貰えた。
「何でっ、俺には解らないっ!でも、ヒョンが可哀想だって事は判るよっ!」
「泣くでしょうね・・・ミナみたいに・・・でもねヒジュン・・・私にはミナがいるの」
不可思議な顔をしているヒジュンにどう説明すれば良いかと言葉を噛み締めていた。
「ミナが、わたしの愛なの・・・ユンギの愛は嬉しいけれど・・・わたしは、私の愛をユンギに全部はあげられないの・・・」
「ユンギがヌナを好きなんだから!!それで良いじゃない」
「愛だけでは生きていけないのよっ!」
大人ぶっても私もまだ年若く、子供を連れている事を蔑んで見られていた。
「デビューも決まってるんだからここで頑張れば良いじゃないか」
堂々巡りの会話に少し疲れ、零れた溜息にヒジュンがくれた水を一気に呑んだ。
「イ家に連絡してちょうだい・・・ユンギには、内緒で、ご両親にお会いしたいの」
「・・・・・・それで・・・ヒョンを泣かせて・・・デビューも辞めるんだね・・・」
「ごめん・・・ごめんねヒジュン・・・ごめん・・・」
頭を下げる以外の事は何も思いつかなかった。
ユンギが音楽をやっているのは、自分の夢だと知っていた。
けれど、スペードをここまで大きくしてしまった一因が私なら、私が消える。
消えてもユンギの評価は変わらない。
この時は、それがベストだと思っていた。
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このお話は、ユンギとヌナ(名前は決まってないのだ(笑))の恋のお話なので、
読みたいって方がそれなりにそれなりにもしもしーもいてくれたら、UPします(^^)/
のんびりのらくらやってますので、いつかだったりするかもだけど(^▽^;)
はは、気長にお付きあいくださいませ。いつも、最後までお読み戴いてありがとうございます(^^♪
では、本当に今日は、ここまで!
暑いので、水分沢山塩分適度にとって、熱中症には気を付けてくださいねー(^^)/
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