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「酔ってるいのですかぁ!?」
皆が去って暫くたったホールでは、後片付けの為に燕尾服を脱いで、腕まくりをした男性スタッフが、掃除用具を持ってエプロンを付けた女性や男性に指示を出し始め、扉の後ろ側の控え用のソファに座っていたミニョとテギョンを見止めて会釈をしていた。
「仕事の邪魔だな・・・そろそろ行くか」
ミニョの鞄から携帯を出して、メールを確認して、電話をかけたテギョンは、脇に置いていたジャケットを無造作に持ち上げている。
「ねぇ、オッパ」
ミニョの肩を抱いたテギョンは、涼しい顔で質問には答えず、ロビーに向かった。
「鍵を」
ミニョに向かって手の平を出したテギョンに慌ててハンドバッグを探ったミニョは、カードキーを渡している。
「一時間ほど外出してくる・・・」
ミニョの肩から手を離し、フロントスタッフにキーを渡したテギョンは、備えられたペンでメモを走り書き、頷いたスタッフに笑顔で礼を言った。
「では、よろしく」
「行ってらっしゃいませ」
手をあげたテギョンの隣でスタッフのお辞儀を見ているミニョは、首を傾げ、振り向き様にミニョの手を握ったテギョンの顔を見上げている。
「行くぞ」
ツカツカとロビーを歩き始めたテギョンに不思議顔のミニョは、手を引かれるまま遊歩道に出た。
「オッパ!?どこかに行くのですか!?」
「ああ、少し散歩しよう」
「へっ!?さ・・・・・・」
きょろきょろ周りを見ているテギョンの後ろで、俯いたミニョは、首を傾げ、瞳を回し、何気なくあげた顔を通りすがりの女の子に見つめられている。
「ね、コ・ミニョじゃない!?」
「えっ!?嘘っ!?暗くて判んな・・・」
「そうよ!隣にいるのファン・テギョンよ」
遠くからでもはっきり聞こえる自分達の名前に素早く右、左と見回したミニョは、テギョンの顔を見て、細くなった目元に驚いた表情で空を見た。
「オッパ!もしかして、見えていないですか!?」
「あ!?何!?」
「もしかして、本当に酔っているのですかっ」
さぁっーと少しだけ顔色を変えたミニョは、手を振っているテギョンに目を見張っている。
「・・・どうしよう・・・オッパ・・・だけど・・・オッパじゃないのかも・・・」
近づいて来るファンに手を振るテギョンにカクンと首を前に曲げたミニョは、拳を握って勢いよく顔をあげた。
「だっ、だめですっ!わたしがしっかりしないと!オッパを守らなくては・・・」
テギョンの腕に手を回したミニョは、近づいてくるファンに笑顔を向けている。
「オ、オッパ!い、行きましょう!」
「あ、お前何を言ってるんだ!?ファンは大切にしないとダメだろう」
あっという間に周りを囲まれたミニョとテギョンは、サインや握手を求められ、にこやかに応じているテギョンを横目で見ているミニョの目は、大きくなっていた。
「オットケー(どうしよう)シヌオッパの言ってた通りです・・・」
テギョンと背中合わせでサインと握手に応えているミニョは、後ろのテギョンをちらちら見ているが、紳士的な態度で応えているテギョンは、笑い声まで漏れている。
「・・・コマウォ・・・オンニー」
「カムサハムニダー」
礼を言いながら去っていくファンに手を振っているミニョは、ペンを走らせながら目の前で止まったワゴン車に視線を移した。
「お嬢さん達その辺で良いかな」
「すまないが仕事があるんだ」
「応援してくれてありがとう」
車の後方からマ・室長が顔を出し、その後ろを歩いてきた背の高いスーツ姿の男性が、人だかりを除けながらミニョとテギョンとファンの間に壁を作っている。
「さぁ、さぁ、皆さんごめんなさいねー、応援ならコンサートに来てねー」
軽い調子で捲し立てるマ・室長は、両手と踵をあげて手も大きく振りながら、後ろを振り向き、その間にスーツ姿の男性がミニョとテギョンの肩を押しやった。
「さぁ、終わりだよー、また、応援してくれー」
止められたワゴン車に乗り込んだテギョンと、ミニョは、続けて乗り込んで来た男性にきょとんとした顔を向けている。
「マ・室長!早く!行きましょう!」
口に手を当てて叫んだ男性の少し高い声に首を傾げるミニョは、締まるドアの隙間からファンに手を振り、運転席に座った途端車を急発進させたマ・室長の運転に前のめり、シートに頭をぶつけた。
「いったぁーい」
「え、あ、ああ、シスター大丈夫ですか」
バックミラー越しに笑ったマ・室長は、一瞬で頬を引き攣らせ、ミニョに腕を伸ばしたテギョンは、眉間に皺を寄せて前を睨み、もう片側でミニョの腕を引いた男性は、ミニョに見つめられている。
「大丈夫ですかっ!?」
「もっと優しい運転をしろっ!」
「あ、は、はい・・・大丈・・・ジョンアssiです・・・か!?」
前のめりに体勢を崩したままのミニョは、下から顔を覗きこんだ男性を見つめ、舌打ちをして腕を引いたテギョンの胸に傾いた。
「あ!?ジョンアなのか!?」
ミニョの腕を引いて胸に抱き込んでいるテギョンは、帽子を外したスーツ姿を訝しそうに眺めている。
「はい!お久しぶりです」
「わぁ、本当にお久しぶりです!いつお帰りに!?」
「昨日です!ミナムssiと空港でお会いしましたよ」
ハラリと落ちた髪にミニョが嬉しそうな顔を向けた。
「わっ、そうなのですね!買い付けも成功ですか」
「ええ、勿論です!コンサート用の衣装も・・・・・・」
ミニョだけを見て話をしているジョンアは、ふと上げた視線の先の鋭い眼差しに苦笑いを浮かべている。
「あ、ああ、えっと、どこかに行かれるところだったのでは!?」
慌ててギョンに訊ねたジョンアにマ・室長も聞いている。
「そうだ、テギョン、どこかに行く処だったんだろう!俺は、シヌに呼び出されたんだ」
「あ!?シヌ!?」
「そうですオッパ!どこに行くのですか」
首に回された腕を持ち上げたミニョは、くるんと振り返ってテギョンを見た。
「やっぱり、酔っているって本当な気がします」
「酔ってない!俺が!あれくらいで酔うかっ!」
「んー、でも、いつもとちょっと・・・かなり違います」
「そうそう、ペンにあの態度は、ファン・テギョンらしくない」
茶々を入れたマ・室長は、またテギョンに睨みつけられ黙っている。
「ふ・・・ん・・・シヌの奴・・・どこかで見ていたのか」
独り言とも取れるテギョンの呟きにどこに行くのかともう一度聞いたミニョは、答えをそのままマ・室長に伝え、ジョンアに向き直ると暫く事務所で会わなかった事をあれこれ訊ね始め、テギョンに睨まれているジョンアも頬を引き攣らせながら、ミニョの質問に楽しそうに応えていたのだった。
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