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「こいつを見ててくれ」
社長室のドアを開けたテギョンは、ぶすくれて歩いていく背中を見送って、眼鏡越しに瞳だけあげたアン社長の返事も聞かずドアを閉めた。
「えっ!?お・・・おいテギョ・・・」
ドアのある僅かな通路の方を見ていたアン社長は、机の方を見て立ち止まったリンと顔を見合わせ首を傾げたが、くるんと背中を向けたリンに腕を伸ばしている。
「や、リ、リンssi、テ、テギョンは、どこに行ったんだ!?」
肩から鞄を外してソファとテーブルに荷物を拡げ始めたリンに立ち上がったアン社長は、ドアを見ながら、内線電話を掛け、眼鏡を外した。
「知らなーい、今日のアッパはねー、忙しいから、昼まで近くに来るなって言ってたのー」
「く、来るなって・・・ここは、遊び場・・・いっ、いつも練習室にいるだろう」
「うん!でもねー、今日は、アッパだけだから、集中したいんだってー」
「!?テギョンだけ・・・って、オー、いつもじゃないかぁ!?」
歓待と戸惑いを繰り返しながら頭を抱え、開いたドアから入ってきたスタッフの手からコーヒーを受け取って顎をしゃくったアン社長は、テーブルに広げた譜面を束ね、ジュースの入ったカップを受け取ったリンに指を向けている。
「それ・・・もしかしてギョンセssiの譜面かい!?」
「うん!アッパがくれたよー」
ジュースを受け取って頭を下げ、クスリと微笑まれたリンは、恥かしそうに笑って、アン社長が、覗いている譜面を一枚持ち上げた。
「ふーん・・・テギョンは、反対しなかったのか・・・」
「何を反対するのー!?」
「うーん、何というか、コンサートの構成に注文をつけてたからなぁ」
出て行ったスタッフの後姿を目で追いながら、机に戻って引き出しを開けたアン社長は、封筒を取り出している。
「何でー!?」
「いつもの事だよ、妥協をしないから、より良いものが出来るんだ」
「ふーん・・・でも、これはー、使うかは、解らないって言ってたよー」
リンはテーブルに向かって音符を指で数えながら鼻歌を歌い始めた。
「ああ、ギョンセssiとヒジュンソンベとお揃いで、何かをしてくれるみたいだね・・・オー、まだ、話してくれないからなぁ」
「しゃとーも知らないのー!?」
封筒の中からCDを取り出してパソコンにセットしたアン社長を振り返ったリンは、トコトコ近づいて、机の前からパソコンを覗いた。
「しゃ・ちょう・ね・・・ああ、聞いてもまだな!って、笑って誤魔化されたよ」
リンの覗くパソコンに向きを変えようとしたアン社長は、指を動かしてリンを促している。
「ふーん・・・ねー、オンマのお歌、ユンギヒョンの作ったやつになったんでしょう」
「ん・・・ああ、ミニョssiのアルバムだね」
促されるままにアン社長の椅子の横に立ったリンは、片膝に乗せられ、画面をクリックした社長を肩越しに見上げた。
「ねー、しゃちょー、オンマの写真もあるー!?新しいやつー!?」
「ん!?何だ、見せてもらってないのかい!?」
「うん、オンマにね、忙しいから後でねーって言われたのー」
「そうか、そうか、じゃぁ、まだ加工前のやつだけど!見せてあげよう」
流れ始めた音楽に耳を傾けながら、コ・ミニョと名前の入ったファイルをクリックしたアン社長とウキウキしながら両手を挙げたリンであった。
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社長室にリンを置き去り、練習室のドアを開けたテギョンは、奥の棚から埃を被ったプラスチックケースを数枚取り出していた。
「チッ!ジェルミとミニョのデュエットにソロの録音・・・シヌは・・・放っておいても良いとして・・・ミ、ナムか・・・あいつ・・・練習しているのか!?」
指先で摘まみながら、反対の指を折り辺りを見回して近くにあった小さな箒で埃を落としている。
「け、ほっ・・・ち、ったく、何で俺がこんな事を・・・」
ブツブツ文句を言いながら、それを紙袋に入れて部屋を後にしたのだった。
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「だからぁ、ジェルミとラジオをやったんだってば」
何度目の説明なのか、ぶすくれた顔で、耳たぶに触れ、瞳を閉じているミナムは、携帯をテーブルに置いて長い溜息を零しながら話をしていた。
(それは、さっきも聞きました!だーかーら!どうして!出演するのですか!)
抑えた声で反論をしているミニョは、顔も姿も見せないが、声には怒りが篭っている。
「だーからー!公言しちゃったんだよー」
(そんなのオッパの勝手です!)
見えなくてもそっぽを向いた様子のミニョにテーブルに肘を置いたミナムは、組んだ両手に顎を乗せた。
「俺じゃないぞー、ジェルミが言ったんだー、なぁ、よく考えろよー、このままじゃジェルミが嘘つきだって責められるんだぞー、そんなのさー、お前だって、嫌だろー」
棒読みの台詞を連ねるミナムは、床からギターを持ち上げ膝に乗せている。
(・・・・・・そ・・・れは・・・)
「だからさー、ヒョンには俺から話すしー、お前が頼めないのは解ってる!」
爪弾く音につられミニョの声もミナムの表情も穏やかになった。
(・・・アルバムの発売前ですよー・・・出演は極力しないって・・・言ってました)
「しないんじゃなくて・・・させたくないんだよなぁ・・・昔からだろう」
(もっ、もう!と・に・か・く!オッパを困らせるのは嫌です!)
ザザザという音と共にエプロンを着けたミニョが、箸を片手に画面に現れ、首を傾げたミナムは、口元を抑えている。
「こっ、困、る事かよ・・・む、むしろ社長は喜ぶし、俺達にとっても有意義だぞ」
(・・・・・・どうなっても知りません・・・よ)
どもりながら口元を抑えたミナムは、画面で脹れているミニョに体を震わせ、画面を手で隠して深呼吸をした。
「いっ、良いじゃん!ちょっと出て、歌ってくれれば良いんだ!ジェルミもそのつもりだし!お前の練習の邪魔はしない!ヒョンなら任せろ!お前より扱いが上手いのは実証されてる」
(そんなこと言って!オッパもギターを弾くのでしょう!オッパ!暗いですよー、練習は、してるのですか!)
「ああ、それ!ユンギssiにお願いしちゃった!」
(は!?え!?何を!?)
「あ、しまった!!これ、まだ、内緒だっ・・・ぁ」
ぷくくと笑いを堪え、お腹を押さえたミナムは、回転椅子を半分回して、入口に向いている。
(お願いって何ですかぁ!?)
のんびりしたミニョの声をスピーカーで聞きながら、入口を向いたミナムはヒクリと頬を引き攣らせ、紙袋を持って震える手を見つめた。
「い、やー、そ、リップシンクも有、り、なら、ギターも・・・エアーでーも・・・良、い、か、なぁ・・・・・・と」
ギロリと動かされたテギョンの瞳から視線を逸らし、ミナムは、ゆっくり椅子を引いている。
「コ・ミナム!?お前・・・俺を莫迦にしているのか!?」
「そーんな訳ないじゃん!尊敬してるよー!ヒョンが居なかったら俺、ここに居ないもーん」
「なーにが!もん!だ!ふざけるなー!お前っ!自分で言い出した・・・っ!!!」
テギョンの前に携帯を突きつけたミナムは、その画面に固まって両手で受け取った隙に横を通り抜け、携帯に向かって首を傾げたテギョンは、画面の向こうのミニョに口を開けた。
「お・・・い・・・コ・ミニョ・・・」
(あれ!オッパ!どうしたのですかぁ!?)
「・・・・・・お前・・・そ・・・れで・・・ミナムと電話してたのか!?」
(へ!?それ!?)
それって何ですかとミニョが聞いた途端怒鳴り声を挙げたテギョンの声は、事務所中に響いたのではないかというくらい大きな声で、廊下に出ていたミナムは一人ほくそ笑み、スキップをしながらホールに向かったのだった。
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本日もご訪問いただき、最後まで読んで頂いてありがとうございました(*^_^*)
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