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あれは、いつだっただろう。
朝陽に光る海のその前を、風を受け、白くなだらかに揺れ動く粒の一つ一つが、確認出来るほどの砂浜を耳に届けられるさざ波と自分の踏みしめる音を聞きながらその背中に近づいていた。
左右に揺れる頭が、時折、片側に倒れて止まり身体に回した手をだらりと下げては、砂を掴む。
その手を上に持ち上げて、手の甲を下から覗き見て開いた指先から零れて行く砂を見て笑ってた。
ほんの僅かな距離を置いてその後方に立ち、右手と左手とそんな事を繰り返している姿を見てた。
早朝の海は、誰もいなくて、まるでプライベートビーチだった。
「ふふ、オッパのミュージック」
呟かれた声に吹き抜けた横風に靡く髪が、顔を覆い搔き揚げた腕の隙間から俺を見つけていた。
「オッパ!」
「ああ・・・捜したぞ」
イヤフォンを外す、そんな仕種さえもいつもと違って見える。
「良く眠れましたか!?」
立ち上がろうとした体を手で制し、隣に腰を下ろした。
「ああ・・・・・・お前は!?」
微笑んで、コテンと俺に凭れてくるから、自然と腕が伸びた。
「とっても!」
お前の腕も俺に回され、顔を摺り寄せて、子供みたいに抱き付いていた。
「綺麗ですね」
海を見てそう言ったのかと返事をしようとした俺と目が合ったんだ。
「あ・・・・・・す、みません・・・・・・」
「綺麗って・・・俺か!?」
「えっ!?ああ、えっと・・・いや、あの、そ・・・」
塞いだ口から伝わってくるその味が、酷く甘かった。
「・・・・・・っ、オッパ」
「ふ、抗議なら受け付けない!お前は、俺を選んだんだ!」
「・・・・・・だって、会いたかったです」
我儘は、幾らでも言って欲しいとそう思っていた。
「俺も会いたかったさ!日本まで追いかけようと思ったくらいだ!」
「えー、それは、ダメですぅー!オッパを待ってる方が沢山いるのですから!!」
ふくれっ面で俺に抗議するから、つい、苛めてやりたくなったんだ。
「・・・・・・お前は、大勢の中の一人で満足なのか!?」
「えっ!?あ、え、えっと・・・そ、れは・・・」
口籠り、慌てて俺の服にしがみつき、そんなことはないと瞳が教えてくれた。
「そういえば、お前!俺のペンだったな!会員番号テジトッキ!!」
俺と恋人になっても消えないお前の会員番号。
それにやきもきして、離れるなと思いながら、お前を連れ出す口実に使ったりもした。
「う・・・だって・・・オッパがペンでも良いって・・・許可・・・」
「許可したんじゃなくて!お前が勝手に入ったんだろう!それに!!特別会員だと教えてやっただろう!!」
もう、そんな事は止めにしよう。
特別な人。
大事な人。
俺に誰より愛をくれる人。
俺が誰より愛しい人。
「特別会員は、何か違うのですかぁ」
「ふ、俺とこういう旅が出来る」
二度目は、頬を掠める軽いキスをした。
「・・・・・・あっ、あの!!ほっ、他の方・・・」
「っ!!!居るわけないだろうっ!!!俺は忙しいんだ!!お前を繋ぎ止めるだけで精一杯だ!!」
白い砂浜にお前を倒して、昨夜の仄暗いランプの下のお前を思い出していた。
「あっ・・・」
「短い休みだったな・・・帰国すれば、また、離れ離れか・・・」
俺を見返す瞳に映る俺自身を見ながら、いつまでも見てろと思ってた。
「はい・・・でも、お仕事で、また、会えま・・・すから」
柔らかい唇に何度キスを落としてもお前を求めずにはいられない。
「ああ・・・でも、お前に触れられないのは嫌だな」
「そ・・・れは・・・仕方ないですぅ」
「堂々とお前と手を繋いで歩きたいなぁ」
「オ・・・」
「もう少しだけ・・・このままでいさせろ」
トクントクンと高鳴る胸の音が昨夜も聞いていた早鐘の音が、とてもとても心地良くて、何度も、もう何度もこうして聞いている音なのにこの胸の柔らかさが心地良くて、ミニョの匂いに包まれながら、きっと恋の名前は、やすらぎなんだと思っていた。
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