ジェルミが、ジトっとテギョンの後ろから不満そうに唇を歪めてその背中を見ている。
振り返ったテギョンは、リンを抱え直してなんだと聞いた。
「サイン・・・」
「は!?」
「サイン貰いたいよー」
まるで、子供が駄々をこねる様に脚こそバタつかせなかったが、握り締めた台紙とサインペンを手に上下に振っているジェルミが、小声で言った。
「何だよ!自分で行けば良いじゃないか!」
その姿に呆れたようなテギョンは、溜息混じりにそう零している。
「紹介してよー!」
「はー・・・お前子供じゃないんだから・・・」
「そんな事言ったって、初対面だよっ!伝説!!!」
ジェルミにとっては、雲の上の様な存在で、緊張しているという事を暗に伝えて、ジーッとテギョンを恨めしそうに見ている。
「あー、わかったよ!」
テギョンが額に手を当てて、片目を閉じると、腕の中にいたリンがにっこり笑い後ろを振り返って先に声を発した。
「おじいちゃーん!ジェルミがお話があるってー」
その声にユンギと話をしていたヒジュンソンベが振り返ると、テギョン達に近づいてきた。
「なんだい!?」
リンに笑いかけるとテギョンとジェルミを見て首を傾げている。
「あっ、あの・・・ジェルミって言います!ソンベ大っっファンです!!あっ握手して貰えますか・・・」
ジェルミが緊張からか、どもったように手を差し出しながらそう言うとクスッと笑ったヒジュンは、ああと手を差し出した。
「構わないよ」
握り返された手に嬉しそうなジェルミは、緊張していたのも何処へやら、手を見つめると、いつもの明るく元気が良いジェルミが戻って来ている。
「わー、本物!嬉しー・・・さっ、サインも良いですか!?」
「ああ、良いよ」
差し出された色紙にサインをするヒジュンは、これでいいかいとジェルミに渡した。
「わぁ!ありがとうございます!!大事にします!!」
「嬉しいね、君たちのような若い人にもファンでいてもらえるのは」
ヒジュンは、そう言って、クスクス笑っている。
「そんな・・・ソンベの歌は本当に凄いです!!『愛の調べ』とか本当に大好きですっっ!!」
「ふふ、ありがとう、これから顔を合わせる事もあるだろうから宜しく頼むよ」
「はいっ!!宜しくお願いしますっ!!」
それじゃとテギョンにも手をあげてヒジュンが去って行くと、ユンギや、チュンナム夫妻も失礼しますとホールを出て行った。
残されたA.N.entertainmentのスタッフとアン社長、ジェルミにテギョン達家族は、終ったなと軽い溜息をついていた。
「一段落ですね・・・」
ミニョがテギョンからリンを受け取って抱きかかえると何か話をしながらピアノの横に歩いていった。
「お前、どう思った!?」
テギョンは、サイン色紙を蕩けそうな顔で見つめているジェルミにいきなり聞いた。
「えっ!?」
色紙から顔を上げたジェルミが、驚いた顔でテギョンを見ると、腕を組んだテギョンは、椅子に座り直してジェルミを見ている。
「いつものテンポで叩いていただろ!?」
「えっ、うん・・・」
ジェルミは、きょとんとテギョンを見ている。
「お前の感想を聞かせろ」
「えっと・・・俺が答えるの!?」
ジェルミは戸惑ってテギョンを見つめているが、テギョンはイラついた顔で唇が尖っている。
「お前以外に誰がいるんだ!?」
「だって、ヒョン俺にダメ出しするけど俺に意見なんて求めた事ないじゃん」
慌ててテギョンに反論したジェルミは、どうしたらいいのか困っている様だ。
「お前もA.N.Jellだろ!?」
溜息の後に聞こえた穏やかな低音にゴクッと喉を鳴らしたジェルミは、目を見張ったが、2、3度左右に視線を流すと意を決したように口を開いた。
「それは・・・うん・・・やっぱり凄いなと思ったよ・・・子供だからってちょっと侮ってたんだけど・・・シヌヒョンのパートとか・・・音外れたけど・・・リンが、言ってた様にちゃんと俺についてきてたし・・・歌も・・・子供だから高い声が出るのは当たり前だろうけど・・・」
「・・・・・・リンを・・・どう思った!?」
静かな、それでも何処かイラついているのがありありとわかる低音だった。
「えっ!?」
「俺の真似をしてるって思わなかったか!?」
ジェルミがまた喉を鳴らしている。
「えっ、えっと・・・それは・・・」
チラッとリンのいる方向を確認して俯いている。
「ふん・・・シヌとユンギが教えてるからな・・・ここまでじゃないだろうと思っていたんだが・・・」
テギョンにギターの事を聞いてくる事の無い、リンのスタイルが気に入らないらしい。
「別にコピーなんだからそれでも良いじゃん」
ジェルミは、テギョンの気になっている所を理解していて自身の言葉の重大性に腰が引けている。
「納得できないな!」
テギョンは、小さく舌打ちすると立ち上がってリンを呼んだ。
「なーにーアッパ!?」
トコトコとテギョンの前にやってきたリンは、にっこり笑ってテギョンを見上げ、首を左右に傾けて帽子を目深にした。
「お前、俺と比べられたくないなら、映像から学んだ事を全部忘れろ!」
腕を組んでリンを見下ろしたテギョンがリンに向かってそう言うと、リンは、一瞬目を見張ったが、たじろぐどころかニイィと緩く口角をあげていく。
「何だよ」
その顔に目を開いて、腰を引いたのはテギョンの方だ。
「アッパとそっくりって事!?」
逆に質問を返されてしまい、首を傾げたテギョンは、顎をあげた。
「そうだ!お前のスタイルは、完全に俺の映像のコピーだろ」
「そうだよー!僕のスタイルじゃないもん」
「判ってるのか!」
「判ってるよー」
「じゃぁ、どうして・・・」
テギョンが不思議な顔をしてリンを見ている。
「えっとね、オンマに”コピー”って何って聞いたら、物真似ですって教えてくれた」
にこにこ笑っているリンは、そうでしょとテギョンに確認する。
「ああ、そうだ・・・」
「コピーバンドだから、アッパの真似でしょ」
違うのーとリンは首を傾げるが、テギョンは、ハーッと長い溜息をついて視線を併せるように膝を折った。
「あのな!確かにコピーバンドだから真似でも良い!けどな・・・お前それで、俺の癖も取り入れるのは辞めろ!」
指を立て、リンの目をジッと見つめてテギョンがそう言うと見つめ返して口角だけあげるリンは、不敵に笑っている。
「何だよ・・・」
「あのね、アッパ格好良いよ」
面と向かって真顔で言われる言葉にテギョンが照れた様に言葉に詰まった。
「・・・なっ、何なんだ!いきなり」
ジーッとふたりで見つめあう時間が流れていくと壁際の写真を眺めていたミニョが戻ってきてのーんびり声を掛けた。
「どうしたのですか!?」
ジェルミの傍らに立ったミニョは、膝をつくテギョンとリンを見下ろすように膝に手を置いて腰を曲げた。
「あのね、アッパが真似はダメだって・・・」
「真似ですか!?」
ミニョが聞き返すと、テギョンが立ち上がってフンと唇を尖らせた。
「俺のステージパフォーマンスをそのままやったんだよ」
「ああ、さっきの・・・」
リンがミニョに腕を伸ばしたので抱き上げたミニョは、顔を見合わせてそうでしたねと言った。
「こいつの演奏は、俺の物真似でしかない!自分のスタイルがないんだ」
「別に子供だから良いではないですか!?」
「良い訳あるか!お前、俺と比べられたくないって言ったんだぞ!だったら、そこを貫けよ!」
テギョンの剣幕にその表情を覗き込んでいたミニョは、頷くと笑顔になった。
「アッパはね、リンの事を思っているみたいですね!」
テギョンを見つめながらそう言った。
「どういうことー!?」
リンもテギョンを見ていて、でもミニョに聞いている。
「わざわざ、帽子まで被ってオンマみたいにしてるのに何で演奏は、アッパの真似なのかって事みたいですね・・・」
リンとミニョが顔を見合わせると笑顔になったリンが片手を挙げた。
「格好良いからー」
「そうですね!ステージのアッパ格好良いですよね」
「うん!星だもん!」
ミニョの首に回した両腕で擦り寄っていく。
「シヌオッパが出かける時に言ってたんですけど」
ミニョが遠慮がちにテギョンに声をかけると脱力したように椅子に手を掛けていたテギョンがミニョを見た。
「なんだ!?」
「リンがどっちでやったか後で教えて!と」
その言葉にテギョンがギロッとリンを見た。
「おっ前ー・・・シヌと打ち合わせしてたのか」
「違うよーアッパはこうするよねってお話しただけだもん!!」
リンが、ギターを抱える真似をして唇に当てた手を大きく振りかぶってみせるとそうでしょとミニョに笑いかけている。
その姿にテギョンは更に脱力した様で、額に手を当てた。
「ああーもうわかった!お前、真似じゃないスタイルが出来るなら今夜そっちを見せろ!良いか!次に俺の真似をしたらこの話は潰すからな!そのつもりでいろ!」
怒りなのか、呆れなのか複雑な声音のテギョンは、リンに不満そうに言って腕を組んでいる。
「オッパそれはあんまり・・・」
「大人気ないよーヒョン!」
ミニョが憂え、ジェルミが庇うようにそう言ったが、ギロッと鋭い視線を飛ばしたテギョンは唇を尖らせてくるっと踵を返した。
「煩い!行くぞ!」
ツカツカと扉に向かって行くテギョンにミニョが慌てた様に声をかけた。
「えっと、仕事ですよね・・・リンとお買い物して帰りますから、どうぞ」
「買い物なら一緒に行ってやる!帰るぞ!」
扉に手を掛けたテギョンは、チッと舌打ちして早く来いと言った。
ミニョとリンは顔を見合わせるとまぁ、良いですかと何時もの事だと言う様に笑顔で頷きあい、ジェルミにじゃぁ、またと言って小走りで後を追って行った。
「ふん!早くしろ!」
扉を開けてふたりを待っているテギョンは、背中で扉を押さえながら、ミニョからリンを受け取り、アン社長に帰ると言い、ああと頷いたアン社長を確認して扉を閉め、残されたジェルミは、あーんぐり口を開けていたが、すぐに手の中にあるサインに目を移してほくそ笑むと、こちらも笑顔で社長にスタジオにいるねと言って扉を出て行った。
こうして、子供バンドの初演奏と保護者同士の顔合わせは幕を降ろしたのだった。
★★★★★☆☆☆★★★★★★★★★★☆☆☆★★★★★★★★★★☆☆☆★★★★★
なーんか何時もの如く・・・いつもの様に・・・グダグダだー(^_^;)でも終わり!
テギョンの態度ってなーんかミニョがトラックから落ちてきた後の
「こんなの俺じゃない!俺はあれだ!」って台詞が渦巻いちゃって(笑)
リンに振り回されてるのが可愛いv(^-^)v
次は・・・どうしようかなぁ・・・と思いつつ、沢山のお言葉ありがとうございました!感謝してます!
最後まで読んで頂いてありがとうございました(-^□^-)
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