携帯の通話ボタンを同時に押した2人は、繋がった途端にミニョの携帯から聞こえたジェルミの声に驚いて同じように片耳を塞いだ。
(ちょっと!ミニョ!!聞いてる!!)
「えっ、ええ、聞こえてます!」
テレビ電話を受けたのは、間違いだったとミニョは内心思った様で向こう側に見えない様に横に逸らして、小さく溜息を付いた。
(で、ミナムは見つかったの!?)
液晶画面の向こうでジェルミが、叫んでいる。
「あー・・・」
ミニョが、そう言った隣でミナムは、携帯を耳に当てるとヒョンさぁと話していた。
「もしかして、ジェルミと一緒!?」
(ああ、テギョンが、お前を探しに行ったきり連絡ないって喚いてるぞ)
シヌの冷静だけどクスクス笑う声が聞こえている。
「ああ、昼、食いに行く約束してたっけ・・・」
ミナムが、シレッと答えた。
(はは、ミニョとリンも来てるんだろ)
「うん!だから、一緒にって言ってたんだけど・・・ヒョン撮影終ったの!?」
(ああ、戻って来たら運悪くジェルミに捕まった)
「だから!今、行きますからっ」
ミナムの横では、ミニョが、困ったように少し大きな声を出している。
(ちょっと、シヌヒョン!ミナム出たの!?)
(ああ)
電話の向こう側でジェルミが、シヌの電話を覗いているのが想像できる様な会話が聞こえてくる。
「オッパ!ジェルミを何とかしてください!」
ミニョが、携帯画面をミナムに向けると映し出されたジェルミが、ぷんぷんしながら不満そうにしている姿が映っているが、しかし、ミナムは、その携帯をチラッと見て、ミニョの手から取り上げると通話を切ってしまった。
「ほら!!」
ミニョに携帯を返すと、ポカンとしたミニョが、口を開けたままミナムを見つめている。
「シヌヒョン!今から行くからジェルミ宥めといてくれる!?」
シヌの携帯の後ろからジェルミの叫ぶ声が聞こえているが、それも無視されているようだ。
(ああ、テギョンは・・・あっ・・・テギョンは、先に降りてきたのか!?)
「えっ!?今何処なの!?」
ミナムが、ミニョの手を掴むと会話をしながら歩き始めた。
(スタジオの前だ!お前達もすぐに来るんだろう!)
「うん!すぐ行くから、ヒョンも一緒に行けるの!?」
(ああ、夕方から再開だから大丈夫だ!じゃぁ、待ってる)
シヌがそう言って電話が切れた。
ミニョは、ミナムに手を引かれながら頬を膨らませている。
「なんだよ!」
ミナムがミニョの顔を見た。
「オッパって、ジェルミに意地悪ですよね」
「はぁ!?」
何を突然と言いながらミナムは、少し舌を突き出している。
「あいつ、煩いだろ!」
「そうですけど・・・」
「そうですって・・・お前もそう思ってんじゃん!」
ミニョが黙ってしまった。
「約束は、リンの仕事が終ったらって言ったんだから、ほぼ予定通りだけどな」
ミナムが時計を確認した。
「とりあえず、飯、食いに行こうぜ!!」
そう言ってふたりは、漸くテギョン達の元へ向かった。
★★★★★☆☆☆★★★★★
「だーからー!ヒョンは、戻ってこないし、連絡もないしー!ミナムは、電話切っちゃうしー!!何なんだよ!!」
プリプリ怒るジェルミは、切られた携帯を見つめ、シヌの背中に一人怒った顔でミナムへの文句を連ねていた。
あまり聞いてもくれないシヌにも嫌気がさしたのか、もーっと言って振り返ると階段をリンを抱えて降りてきたテギョンを見定めて、アーっと指を向けている。
それを見ていたシヌは、じゃぁと電話を切った。
テギョンに軽く手を上げると口元に手を当ててクスクス笑い続けている。
ゆったり歩いてくるテギョンが、何だと不思議な顔をしていた。
「ヒョン!!なんで連絡くれないんだよ!!」
喚いているジェルミを綺麗に無視したテギョンが、シヌに聞いた。
「お前、撮影じゃなかったのか!?」
「ああ、トラブルがあって昼から夕方まで中断になったんだ!」
後で戻るとシヌもジェルミを無視してテギョンに返すと、リンの頭を撫でた。
「リン!久しぶりだな! お前の仕事だったって!?」
シヌがリンに聞くとにっこり微笑んだリンが、頭に手を乗せてエヘヘと照れている。
「お前の耳は、テギョンと一緒だからな!アン社長もそこに目をつけてるんだろ!」
シヌが、覗き込むようにリンの顔を見るとそのすぐ上でテギョンが嫌そうに片目を瞑っている。
「あんまり調子に乗せるな!」
「良いじゃないか!ギターも大分上手くなってるし!やっぱりお前の息子だよ!」
シヌが、テギョンと瞳を併せると意味深な笑みを浮かべた。
「了承したのを後悔してるって顔だな」
「ああ、色々あってな・・・」
テギョンが、僅かに顔つきを変えて、リンを見た。
「ったく、子供の癖に・・・」
「子供だもん!!」
リンがテギョンに反論しながら唇を尖らせている。
「子供がオーディションの審査をしている時点でおかしいだろう!」
「アンしゃちょうが良いって言ったもん!!」
「ったく!!話し合いが必要だからな!」
テギョンがそう言うと、リンがふんと横を向いてしまった。
リンが引き受けた理由は別な所にあるようだが、それとこれとは別な事らしい。
「ちょっとー!!無視しないでよー」
ジェルミが、相変わらず不満そうに声を出すといたのかとテギョンが言った。
「いたよ!!大体ヒョンが、連絡もくれないから練習終ってからずっと待ってたのに!」
「リンが終ったらってミナムが言ったんだろ!大体、ロビーで待ってるって言ったんじゃないのか!」
テギョンの言葉にジェルミが、グッと詰まってしまった。
「それは・・・」
「ふん!探して来たんだから文句を言われる覚えは無いぞ!!」
テギョンが、不機嫌に言い捨てると、ジェルミがシュンと小さくなってしまった。
「それより、ミナムとミニョは、どうしたんだ!?」
テギョンが、漸く気付いた顔で階段を見ると、丁度ふたりが二階に降りてきた。
「オンマー!!」
リンがミニョを見つけて嬉しそうに手を伸ばしている。
「やっと来たのか!?」
テギョンが、リンをミニョに渡しながら、ミナムを見たが、ニヤッとしたミナムは、ジェルミの横に立つと首に腕を廻している。
「なーんかジェルミが言いたいこと一杯あるみたいだけどさー、とりあえず飯に行こうぜ!!」
そう言って、先頭を切って階段を降りて行き、合流した面々は、それぞれに言葉を交わしながら、
これから始まる長い昼食に向けて足を運んでいたのだった。