リンを抱いたまま廊下を歩きだしたテギョンは、その顔をジッと見ていた。
何気なく周りを見ながら抱かれていたリンは、視線に気付くとテギョンの首に腕を回して何と聞いている。
「お前、何処まで本気だ!?」
下から見上げる目線が、僅かに光りを放ち睨みつけていた。
「なにがー!?」
「・・・緊張・・・しないんだってな・・・」
んっと上目遣いで天井を見たリンが、ニィっと口角をあげるとばれたーと笑顔で返した。
「バレタじゃない!!お前っ嘘泣きだけじゃなく、それも演技か!」
「へへへー」
照れたように笑ったリンは、直に真顔になると違うもんと唇を尖らせている。
「アッパのファンは、僕とアッパを比べるからだもん!」
「それは、仕方の無いことだろう」
「オンマは、比べないもん!!」
「それは、母親だから、見方が違うだろ!」
唇を尖らせたままのリンは、考えるようにテギョンの腕の中でその小さな腕を組み、テギョンの怪訝な顔を見ている。
「オンマの前でも演技しているのか!?」
「してないよー!」
「俺の前だけか!?」
ニィっと上がっていくリンの口角は、悪戯な目の輝きも伴ってテギョンの唇を尖らせていく。
「ったく、何でそんな必要があるんだ!」
「オンマとアッパを守るのー!」
「何の事だ!!」
テギョンが益々怪訝な顔つきになっていく。
「オンマはねー!アッパのファンがしんぱーい!アッパはねー、オンマに触る人がきらーい!」
それは、どちらも正しくて、どちらも正しく無い様な答えだ。
「だからなんだ!?」
テギョンの眉間の皺が深くなっていく。
「僕が泣くとオンマに触ってる人は、どっかに行っちゃうのー!僕が、ギューてしてると、アッパのファンは、離れてくれるのー!」
テギョンの目が見開かれていく。
「だから、どっちもなのー!」
判った様な解らないような答えをするリンをテギョンは、時折二人が互いを思って零す言葉に理由があるのかも知れないと目を細めていた。
「お前、だから緊張もしていないのに抱きつくのか!」
「へへへー」
「ふん!オンマの前で泣くのは、由としてやろう!けどな・・・お前、緊張をしないんだったら、今日のオーディションは、なにが目的だ!」
「なにがー!?」
「ミナムが、帽子をくれたんだろ!」
テギョンが、リンの頭に手を乗せるとその上から自分の手を乗せたリンが、アレーと笑っている。
「俺に似ているって理由だけじゃないだろ!」
なにがあるんだとリンの額に擦り付けるほど顔を近づけたテギョンが聞いた。
「言ったら何くれるー」
ニィっと口角があがるリンは、テギョンに悪戯な視線を向けて上目遣いで見つめている。
唇の尖るテギョンは、チッと舌打ちをするとずうずうしいなと言った。
「ご褒美くれる!?」
リンが、ご褒美と言ったことで、テギョンは、何かに思い当たり、少し考えてから小さくいいぞと言った。
「先に聞いてからだな」
「じゃぁ言わない!」
今度は、リンが、唇を尖らせ、ギロっと視線だけで睨むテギョンは、何が欲しいんだと聞いた。
「バイキング!」
「この前の所か!」
「うん」
「良いぞ!じゃぁ話せ!」
テギョンがあっさり了承をしたので、リンは、あのねとテギョンの耳に手を当てた。
★★★★★☆☆☆★★★★★
ミナムとミニョは、テギョンに促されて一足遅く音響室を出たが、既にテギョンもリンも階段に差し掛かっていて、先に降りて行ってしまっていた。
「リンが、緊張しないってどういうことなのですか!?」
ミニョが、ドアを閉めているミナムに聞いている。
んっと振り返ったミナムは、ミニョの隣に立って歩き始める。
「あいつ、お前達を守る為に演技をしているんだろう」
頬に手を当てたミニョが、判りませんと首を傾げている。
「お前、この前、撮影の時、ベタベタ触られたんだってな!」
首を傾げるミニョは、覚えが無いような顔をしている。
「リンが、撮影所で泣いた時だよ!」
「ああ、プロデューサー!」
判ったという顔をしたミニョは、へへと照れ笑いをした。
「あれも、あいつの作戦だろ!緊張して泣いたように見せたんだよ!」
呆れたようにミニョを見ているミナムは、僅かに怒った口調で言った。
「そんなことが、出来るのですか!?」
「おまえ、あいつを甘く見すぎだぞ!子供だけど、俺たちの観察に掛けちゃホント物凄いとこまで見てるからな!」
ミナムは、ミニョを指差すとふーんと言っているミニョを呆れ顔で見ている。
「オッパは、どうして知っているのですか!?」
「それでも、子供だからな!判らない事は、人に聞けって思ってるみたいだ!ヒョンより俺の方が、聞きやすいんだろ!」
頭の後ろに手を組んで歩くミナムは、んーっと大きく伸びをして、それにと続けた。
「あいつ、お前が大好きだから、お前に近づく奴は許せないんだろ!」
そういうとこは、ヒョンと一緒だとミナムが言うと、僅かに赤くなった頬をミニョが抑えた。
「ったく、お前達っていつまでたっても、仲がよろしくて!!オッパ困っちゃうわー」
お道化て見せるミナムに一瞬きょとんとしたミニョが、すぐに頬を膨らませて手を振り上げた。
「オッパ~!!」
「はは、ほんとのことだろ!!」
背中をポカポカ叩かれるミナムは、痛いよと言いながらも笑いミニョも一緒に笑ってそんなふたりのポケットで、携帯が着信を告げた。
「あれっ!?」
「えっ!?」
ミナムもミニョも携帯を取り出す。
「お前も!?」
「ええ、ジェルミです」
「シヌヒョンだぜ!」
液晶を確認した二人は、揃って携帯電話の通話ボタンを押したのだった。