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小さな袋と大きな鉢植えを抱えたテギョンが、車から降りるとそれを持って玄関へ向かていた。
鉢植えは、運んでいくテギョンのことを考えられた物か、すっぽり透明な袋に包まれていて余、匂いが外に漏れないよう包装されていた。
「ったく、何で、こんなもの寄越したんだ!?」
それは、今日の仕事が終った時、ソファに座るテギョンの前に立った3人が、少し待てと言って持ってきたものだった。
ミニョに持っていってくれというミナムに、何か特別な日だったかと聞いたが特別何もないと言われてしまった。
百合とか匂いのきついものをあまり好まないテギョンの為なのかどうかは判らないが、ひまわりを中心に植えられた大きな鉢植えで、ミニョが、花を育てているのも理由の一つかと納得したテギョンは、変に思いながらもそれを受け取り、ミナムからコレもと小さな袋を受け取って帰ってきた。
鍵を開けて、そっと玄関へ持ち込み、扉を閉めるとリビングからリンがトタトタと走ってきた。
「アッパー!!」
何だか少し、不安そうな顔をしているリンは、テギョンに飛びつくとその胸に顔を埋めた。
「どうしたんだ!?オンマは!?」
首を振るリンを抱えながらリビングへ向かったテギョンは、なんだと首を傾げるが、黙ったままで何も言わないリンを不思議そうに見つめながら歩いていく。
リビングの扉を開けて中を見回すが、そこは、シンと静まり返っていて、人の気配がなかった。
ダイニングを見てもミニョの姿は無く、キッチンのカウンターにリンが一人で夕飯を食べたような痕跡があった。
「オンマは・・・どうしたんだ!?」
怪訝な顔をしたテギョンが、リンの頭の上から声を掛けた。
顔を上げたリンは、不安そうに瞳を揺らしながら、あっちと寝室の方を指差した。
「寝てるのか!?」
「うん・・・気持ち悪いんだって・・・」
「いつからだ」
リンを床へ降ろしながら寝室の方を見たテギョンが、ツカツカとダイニングへ向かうと冷蔵庫から、氷や水を取り出して、次々と並べていく。
テギョンにくっつくように後ろをついていたリンは、カウンターの手前で首を傾げると頭を左右に振りながら、人差し指を口の横に当てた。
「うんっとね・・・お昼食べた後から・・・」
「それからずっとか・・・」
「うん・・・あっ、でも、ミナムに電話してたよ」
「!?電話」
「うん!僕にもごはんを作ってくれたのー!一人で、ごめんねって言ってた!」
氷をボールに入れたテギョンは、それをお盆に乗せるとリビングへ向かい、飾り棚から適当にタオルを取り出した。
「ちょっと、見てくるから待ってろ」
リンにそう言うと寝室へと向かった。
寝室の扉を開けると布団にくるまって丸くなっているミニョが、額に手を当てているのがテギョンの目に入った。
起きているのかと少しほっとしたテギョンは、胸をなでおろすと電気をつけてベッドサイドへ歩いていく。
「・・・うんっ・・・」
明るくなった室内に薄目を開けたミニョが、ベッドの脇に立つテギョンを捉えると欠伸をかみ殺しながら起き上がって来た。
「オッパ・・・お帰りなさい・・・」
いつもの明るさはないが、元気そうに答えたミニョに拍子抜けしたテギョンは、持っていたお盆をサイドテーブルに置くとベッドへ腰掛けた。
ミニョの体を引き寄せ額をぶつける。
「調子悪いんじゃないのか!?」
「ええ、ちょっと気持ち悪かったんですけど、大分良くなりました」
「熱とかは・・・」
ぶつかる額に僅かに熱さを感じたテギョンは、手のひらをそこに当て直した。
「熱は、ないから大丈夫です!」
そう言うミニョだが、前科があるからなと零すテギョンは、一応、念のため測れと体温計を取り出したが、ミニョが手で制した。
「本当に大丈夫です!」
ミニョは、少し頬を膨らませると、それよりと言った。
「リンに一人で、ご飯食べさせたので、寂しがってないですか!?」
「ああ、寂しそうだったけど、ちゃんと食べられたみたいだな・・・」
テギョンが、カウンターの様子をミニョに説明する。
「オッパも帰ってきたし、じゃぁ、後の事は、お願いしても良いですか!?」
「それは、大丈夫だ!心配するな!?それより、お前、病院行かなくて大丈夫か!?」
テギョンが、そう言うと、ミニョが、あっと口を開けた。
「オッパから、預かっていませんか!?」
「ミナム!?」
「そうです!ちょっと、買い物をお願いしたんです!」
テギョンが、上目遣いに怪訝な顔をすると、小さな袋を貰ったことを説明した。
「あ、それ、それ、下さい!」
何が入っているのか知らないテギョンは、リビングだとミニョに言うとにっこり笑ったミニョが、起きますねと言って立ち上がった。
しかし、フラフラしたように立ち上がったのでテギョンが、慌てて手を差し出した。
「まだ、具合悪いんだろう!」
怒った様にミニョに聞くが、はにかむミニョは、違いますと言った。
「何が、違うんだ!?」
「うーん、まだ、内緒です・・・」
ミニョが、悪戯な顔をしてテギョンに微笑みかけるとゆっくりとした足取りで寝室を出て行く。
その脇に立って支えるように歩くテギョンは、いつもとあまり変わらない歩き方にほっとしていた。
廊下を歩いているとリビングの扉にくっついて様子を窺っていたリンが、ミニョを見つけて、パッと顔を輝かせた。
「オンマー大丈夫なのー!?」
ミニョの具合が悪いことを察してかいつもの様に走って飛びつかないリンは、トタトタと歩いてくるとミニョの手を取った。
「オンマが、いないとダメなのー」
小さなリンを見下したミニョが、リンへ屈むと抱き上げ、同じ目線でにっこり笑った。
「オンマもリンがいないと寂しいです!」
そう言って、頬と頬をくっつけるものだから、隣にいるテギョンは、ギロッとミニョを睨み不満そうに唇を尖らせリンを奪うように抱きかかえた。
「袋は、あそこだ!」
リビングのソファの前のテーブルに置かれた袋をクイッと顎で示すと、何が入ってるんだと聞いた。
「ちょっと・・・・・・検査薬です」
そう言ったミニョは、袋を掴むとふたりを残して、バタバタと廊下を走って行った。
残されたテギョンは、眉根を寄せ、ゆっくり目を動かして、ミニョの消えた廊下を見た。
「・・・け・・んさ・やく・・・!?なに・・・・・・の!?」
「アッパ!?」
リンが、驚愕しているテギョンの顔を見つめながら、首を傾げている。
ゴクッっと音が聞こえるほど大きく何かを飲み込んだテギョンは、リンの顔をマジマジと見ている。
「アッパ!?大丈夫!?」
リンが、目を見開くテギョンの顔を見ると、そこに手を当てて、頬を引っ張った。
「・・・った・・」
「アッパ!?へん!!」
キャッキャと笑うリンは、珍しくテギョンがされるままになった事を喜んでいる。
そうこうしているうちにミニョが、頬に手を当てながら、戻って来た。
「・・・やっぱり・・・そうですね・・・」
まだ固まっっているテギョンの横を通り抜けると、ダイニングヘ向かいながらのんびり聞いた。
「アッパ、明日、お時間ありますか!?」
「・・・・・・・・・何故だ!?」
ミニョの口からまだ何も言われないテギョンは、確信はあるのに、それを口に出す事が憚られ、やっと搾り出すように聞いた。
「リンを見ていていただけると助かるのですが・・・」
冷蔵庫から水を出したミニョは、グラスに注いで、それを口にする。
「・・・おい・・・」
テギョンが、リンを下に降ろすと、もう一度ゴクッと喉を鳴らしてミニョに近づいていく。
カウンター越しにミニョの顔を見て、また搾り出した声で聞いた。
「そう、なのか!?」
うんとテギョンの顔を見たミニョは、口角をあげるとにっこり微笑んだ。
「ええ、多分、検査薬は、陽性でしたので・・・間違いないと思いますけど・・・」
テギョンの両側の口角が、ゆっくりとあがると満面の笑みを作っていく。
ツカツカミニョのいる方へ向かい腰へ腕を廻してミニョを持ち上げた。
くるくると廻しそうな勢いだ。
「そうか!!やったな!!」
「オッパ!!まだ判りません!!」
「いや、お前、具合悪かったのもそのせいだろう!?だったら、間違いない!」
トンとミニョの体を降ろしたテギョンは、その顔を見つめるとそうかと言いながら、もう一度ギュッと抱きしめその顔に覆いかぶさるように近づいていく。
ミニョは、慌てたようにテギョンの体を押しやったが、しっかりとその唇を塞がれてしまい、見開いた片目で、きょとんとしているリンの姿を捉えていた。
「あー!!!」
リンの声がリビングに響くと気付いたテギョンが、それでもゆっくり堪能したミニョの唇から離れていった。
「アッパ!何してんのー!!」
指を指して、走ってきたリンは、ギッとテギョンを下から睨みつけ、小さな腕を組んでいる。
「オンマを虐めちゃダメー」
ミニョの肩を組んで、リンを見下しているテギョンは、ふふんと笑うと唇に指を当てた。
「虐めやしないさ!むしろ嬉しい事があるから楽しみにしてろ!」
そう言ってミニョの頬にキスをしたテギョンは、リンを抱きかかえるとそういえばと言った。
「あいつらが、花をくれたんだが、コレか・・・」
納得したようにミニョに伝えると、首を傾げたミニョが、エッと驚いた。
「お前がミナムに頼んだから、また先走ったんだろ!3人からってくれたぞ!」
「ははっ、だって、アッパにお願いしようかと思ったんですけど、薬局で買ってる姿、想像したら・・・」
ミニョが、思い出したように笑い出した。
「ふん!コイツの時は買いに行ったぞ!」
クイッと顎を上げるとリンを見下している。
「そ、う、でしたね・・・」
ふたりの蚊帳の外にされたリンは、テギョンとミニョを交互に見て、首を傾げている。
「ふふ、取敢えず、病院に行って検査してもらうのが確実ですからね」
「そうだな!明日は、スタジオ練習だけだから、どうにでもなるから付き合うぞ」
「そうですか、では、宜しくお願いします」
そう言ってミニョは頭を下げた。
リンが、何と聞いているが、ふたりとも微笑んでリンの頭を撫でていた。
ふたりの元に舞い降りる天使がもう一人増えそうな、予感が一杯の夜だった。
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