「大きな会社なのね・・・」
役員室へ通された女性は、案内してくれたヒジュンの前を窓に近づくように歩いていくと遥か下に地上を見下す高層ビルの窓辺から、青い空を見ていた。
「社長がいらっしゃるまでお待ち下さい!」
ヒジュンは、秘書らしく客人に告げるように挨拶をして部屋から出て行こうとしたが、女性に呼び止められた。
「あなたにも・・・聞いて欲しいんだけど・・・・・・」
ユンギに会いに来たこの女性が、誰であるか報告を受けていないヒジュンは、秘書の顔を崩さずに振り返った。
「どういうことでしょう!?」
「スペードの事!!」
「・・・!?」
スペードという単語にヒジュンが過剰な反応を見せた事を女性は、嬉しそうに笑って近づいてきた。
「わたしの事・・・覚えてる!?」
首を傾げて下から覗き込むようにヒジュンの顔を確認する女性は、にっこり笑っている。
「どちらかでお会いしましたか・・・」
戸惑って、口元に手を握る様に当てたヒジュンは、頭の中の記憶を手繰り寄せながら女性を観察していた。
「会いましたよ!何度も!」
ヒジュンの眉根が徐々によって、眉間に皺が刻まれていく。
「ひっどいなー!忘れちゃったんだ!いつも遊んでくれたのに!」
女性が、残念そうに、不満そうに唇を前に突き出してみせると、その表情にヒジュンの口元があっと刻んだ。
「ミ・・・ナ・・・か・・・!?」
「YEーS!!!思い出した!?」
ヒジュンの呆けたような表情にミナは、小さく笑うとオッパと言って両手を広げた。
「ほ・・・んとにミナ!?あの小さかった・・・」
「そうよ!あのミナよ!」
ヒジュンは、抱きついてくるミナを両手で受け止め、軽く腕を廻して離れたミナと両腕を掴んで対峙した。
「なんで!?・・・えっ!?ユンギに・・会いに・・・」
目の前で笑っているミナに目を瞬かせるヒジュンは、先程のスペードという言葉を思い出して、ゴクッと喉を鳴らした。
「お前・・・もしかして・・・」
その顔に昨夜のユンギに見せたのと同じように哀しそうな顔を見せたミナは、短く答えた。
「そうか・・・」
「ねぇ、それより、ユンギssiと一緒に働いてるのね!まだドラム続けてるの!?」
ミナが、嬉しそうに笑って聞いたが、ヒジュンは目を逸らすといやと短く言った。
「・・・も・・・う、やってな・・・いの!?」
「ああ」
「でも!ユンギssiは、ギター続けてたよっ!」
ミナは、昨夜のユンギのギターに遜色のない何かを感じ取っている様だ。
「俺は・・・もうやってないんだ・・・」
ヒジュンは、そう言ったが、ミナは目を細めて首を傾げると、バッとヒジュンの手を掴んで手のひらを広げた。
何の変哲もないように見える手のひらを指先で確かめるように触れると口角をあげてヒジュンの顔をみた。
「嘘ばっかり!昔、教えてくれたもの!ここ!皮が剥けてる!!」
そう言って、手のひらの真ん中を指差した。
するとヒジュンが慌てた様に腕を引いている。
「何のことだか判らないな・・・」
戸惑っているのを悟られないように極力冷静な声を発した。
「それじゃぁ・・・・」
ミナが、更にヒジュンを責めるように言葉を発しようとした時、その部屋のドアが開いて、ユンギが、ネクタイに手を掛けながら入ってきた。
「あれ、ヒジュン!?どうしたの!?」
ユンギが、いつもと変わらない調子で社長室に入ってきたが、ヒジュンは、目を見開いてユンギを見ると、いきなり、おいっと声を掛けた。
その言葉に秘書としての顔が剥がれている事を驚いたユンギは、目を見開いて首を傾けている。
「な・・に・・・」
「どういうことか説明しろ!」
椅子に座ったユンギは、ヒジュンの後ろにいるミナを見ると、ああと答えてからもう一度立ち上がった。
「それを、僕も聞きたいと思って、来てもらったんだ!」
にっこり笑うミナを前に戸惑うヒジュンとニヤリと笑っているユンギだった。