「へ・・・変じゃないかな・・・」
いつもと変わらない仕事用のスーツに身を包んでいるだけなのに妙にネクタイやシャツやスラックスとあちこちを触りながら風体を気にするヒジュンにギターのケースを携えて門の前に立つユンギは、呆れて何度も首を振った。
「何回、確認するのかな!?仕事だと思えばいいんじゃないの!」
「なっ・・・何言ってるんだよ!コ・・・コ・ミニョssiだぞ!俺の天使に会えるのに・・・」
完全に仕事モードからは抜け出しているヒジュンは、ユンギの秘書というではなく、バンド仲間という立場に戻っている。
はぁーと首を斜めに傾けて、溜息をついたユンギは、行くぞと鉄格子の門を潜った。
階段状の少し緩やかな坂を登って行く高台にテギョンの家の玄関はある。
キュッと結びなおした唇で、夜空を見上げて息を吐き出したユンギは、拳を握ると呼び鈴を押した。
★★★★★☆☆☆★★★★★
ガチャという音と共に開かれた扉の向こうには、昼間出会った天使が同じ笑顔で迎えてくれた。
「いらっしゃいませ」
可愛らしい顔で、ちょこんと頭を下げている。
「お言葉に甘えました!」
ユンギが、頭をかきながらミニョに言った。
その後ろで、惚けた様にミニョに見惚れているヒジュンは、腹となく、ネクタイとなく手を動かしてオタオタと動揺していた。
その様子にミニョの首が曲がっていく。
真っ直ぐ見とめられたことにヒジュンが、手を横に当てて直立になった。
「大丈夫・・・ですか!?」
ふたりを交互に見ながら聞いている。
ユンギは、後ろのヒジュンをチラっと見ると、笑顔を浮かべた。
「昼間、話をした僕の秘書です!・・・スペードのドラムを・・・」
ユンギが、ヒジュンの行動に少し恥ずかしそうにミニョに伝えると、それと、と言葉を切った。
「すみません!こいつ、ミニョssiの大ファンなので・・・」
えっと驚きながらも笑顔を向けるミニョにヒジュンは、ドギマギして、蕩けるような顔をしてへへと笑っている。
「ありがとうございます!とっても嬉しいです!」
そう言ってニコッと笑ったミニョは、どうぞと玄関の扉を広めに開けてふたりを迎え入れた。
「「お邪魔します」」
ふたりとも、そう言って玄関へ足を踏み入れた。
ヒジュンは、一歩そこに入った途端に顔つきを変えるとスーツの襟を正して、息を吐き出し背筋を伸ばしていた。
ミニョが、扉を閉めながら、きょとんとして小さくクスッっと笑う。
「どうぞ」
先に立って廊下を歩いていくミニョが、リビングの扉を開けるとテギョンとシヌが笑顔で立っていた。
「ユンギ!!」
「シヌ!テギョン!!」
懐かしい友との再会にシヌが手を差し出すと、肩を抱きテギョンは、久しぶりだなと握手を求めた。
「あれ、ヒジュン、だっけ・・・」
シヌが、ユンギの後ろに立つ青年に視線を送ると、ヒジュンは、頭を軽く下げた。
「ああ、覚えてた!?今は、一緒に仕事をしてる」
ヒジュンに視線を送ったユンギは、にっこり笑うと少し涙目になっていた。
「ははっ、ごめん、また会えて・・・嬉しくなっちゃった」
僅かに俯いて目元を擦りあげるユンギにシヌもテギョンも小さく頷き、ミニョが、飲み物を持ってやってきた。
「いつまでも立っていらっしゃらないで・・・」
「ああ」
テギョンが、短く答えてソファへと促し、4人が一斉に座ると、ユンギは、リビングから見えるダイニングに見慣れたふたりがいることに気付いてあれっと首を傾げた。
「えっ!?あれって・・・」
マジマジとそちらを見ながら、口を開けている。
「えっ・・・エ・・・嘘・・・」
シヌとテギョンが、顔を見合わせるとそちらを見たテギョンが言った。
「あまり、気にするな!あいつらは、おまけだ!」
「A-N.Jell-!!!」
シヌが小さく笑った。
「なっ・・・なんで、皆、揃ってんの・・・」
「だから、おまけだって・・・」
テギョンが、嫌そうに答えるとミナムが、ダイニングからスプーンを咥えて少し大きな声を出した。
「ヒョンさぁ、そういう言い方は無いんじゃないのー!妹の家に兄がいたって別にいいじゃん!!」
「うるさい!お前ら勝手についてきただけだろう!!」
「だって、ミニョが、ご馳走作ってるって聞いたら、それは、食べたいでしょー」
ニヤニヤしているミナムに、ジェルミは黙って聞いている。
「そうだよなー!リン」
「うん!!」
膝に乗ったリンに同意を求めるミナムは、口元に笑みを浮かべると、くるっと椅子を廻した。
「ったく・・・」
テギョンが、イライラしたように呟くと、シヌが笑ってユンギに言う。
「本当に気にしないでくれる!あいつらも、一応内のメンバーとしては、スペードって存在が気になるんだよ・・・」
シヌが、そう切り出した事で、ユンギとヒジュンが顔を見合わせた。
「やっぱり、気になってるんだ・・・」
「・・・聞いても・・・いいんだよな・・・」
シヌが、少し遠慮がちにユンギに確認した。
「うん!そのために来たんだ!ふたりにも会いたかったけど、今回の事もこれからのことも聞いてもらおうと思ってる」
ユンギが屈託の無い笑顔を向ける。
「復活するつもりは無かったんだけどさ・・・」
そう話し始めたユンギとそれを聞き入るA.N.Jellと長い夜が始まっていた。