テギョンとリンが、出掛けていくのを見送ったミニョは、車が見えなくなるのを確認すると、玄関を閉めて、大きく伸びをしながら、リビングへと続く長い廊下を見つめた。
静寂が、辺りを包んでいる。
「リンが居ないとこんなに静かだったのでしょうか!?」
頬に手を当て、肘を支える様に腕を組むと首を傾げている。
時間に不規則なテギョンが居ない時、リンと二人きりで、過ごしていることが多いミニョだが、そのリンも時間に関係なくピアノを弾いているものだから、この家の中には、いつでも音楽が流れていて、自然の音だけの静寂を味わうのも久しぶりだった。
「たまにはこういうのも良いですね!」
ミニョは嬉しそうに口角をあげると、リビングへ向かって行った。
テギョンが、食べた朝食の残りを片付け終えると、冷蔵庫の中を確認して、明日の食事の為の準備を始めた。
保存食を次々とタッパーに詰め、冷蔵庫へ並べ、一通り作業を終えたミニョは、時計を見た。
「11時ですか・・・」
テギョン達との約束の時間には、夕方に出掛ければ十分間に合う。
「そうだ!この隙に・・・」
ミニョは、何かを思い付き、廊下を抜けるとウォークインクローゼットの奥にある部屋へ向かった。
そこは、以前の合宿所にあったようなプレゼント部屋になっていて、所狭しとぬいぐるみや、玩具が置かれ、まだ開いてもいない箱がたくさん積まれていた。
「ファンの皆さんのお気持ちが入ったものですけど、このままでは、かわいそうですからね」
テギョンへの贈り物は勿論、リンが、生まれてからは、リンへ、そして、なぜかシヌや、ジェルミ、ミナムへのプレゼントもここに収められていた。
その為、この部屋は、物が溢れ、中々掃除が出来てない状態だった。
「聖堂に持っていけば、使い道もありますから」
ミニョは、施設の子供達のことを思い出している。
アフリカから、戻ってからも、ボランテイアの活動をずっと続けているミニョは、時折、テギョン達に頼んで、プレゼント部屋に片付けられた物を貰っては、あちこちに送ったりしていた。
「ふー。結構、増えてますね」
リンが、欲しがらないような物を優先的に外へ出していく。
ふと、ぬいぐるみの山の中に白いうさぎを見つけたミニョは、それを取り出して、まじまじ見つめた。
テギョンとミニョの寝室に置いてあるテジトッキ。
ふたりの思い出のぬいぐるみは、今でも寝室のベッドの上に飾ってあって、テギョンがくれたあのピンを付けて、チョコンと座っている。
いつか、リンが、あれを貸してくれと駄々をこねた事があったが、テギョンが、睨みつけることで、黙らせた。
子供相手にとミニョが、テギョンに注意したが、あれだけはとテギョンも頑として譲らなかった。
その思いがどこか、嬉しくもありほっとしたのだ。
それでもリンは、時々、あれを欲しそうにジトーっと見つめていることがある。
「うさぎと豚があれば、オッパが作れるじゃないですか!?」
ミニョは、いつかのテギョンの様にぬいぐるみを投げながら、豚のぬいぐるみを捜し始めた。
大分、奥の方まで捜したミニョの手に同じくらいの大きさのピンクの豚が微笑んでいた。
「ふふ。リンも喜んでくれますかね」
二つのぬいぐるみをリビングへ持ち込んで、埃を落とすと、ソファに座らせて再び物置に戻った。
片づけを再開したミニョは、物置を奥へ入っていく、と見慣れないものをそこに見つけて、瞬きを繰り返した。
明らかに楽器のケースと判るものが置かれている。
「なんでしょうか!?」
プレゼントにしては、高価なものだ。
「ギターのケース!?」
それを引っ張り出したミニョは、床に置くと不思議な顔で見つめた。
「オッパの・・・では、ないですよ・・・ね!?」
首を傾げている。
テギョンの仕事用のギターは、全て、地下の防音ルームに置いてある為、こんな場所に置かれていることはない。
楽器にとって、湿度や温度の管理も大切なことの一つであり、リンが使っているピアノは、子供の安全を考えた結果、良く見えるリビングに置いてあるだけだ。
それに、今、目の前にあるギターは、テギョンが普段使っているものからすると大分小さい感じがした。
「ハッ!まさか!リンの!?」
ミニョは、テギョンが、まだ小さいリンにギターはダメだと言っていたのを思い出した。
楽器のことがよくわからないミニョにとっては、テギョンの言うことは、間違いがないのでただ、黙って従っている。
「あんなこと言って、結局、やらせるつもりなんですね!?」
ミニョは、テギョンが内緒にしていることに腹を立て始めた。
「もー、オッパのほうが、絶対リンに甘いですから!」
ひとしきり、ぷーっと膨れて片づけをしていたミニョは、ケースも元に戻し、時計を見ると、夕方近くになっている。
「大変・・・急がないと遅れてしまう・・・」
慌てて、シャワーを浴びて、着替えを済ませると薄くお化粧をした顔を鏡に写して、ミニョは、嬉しそうに微笑んだ。
「久しぶりに外食ですからリンも喜んでましたし、あのケースのことは暫く忘れることにします」
そう呟くと楽しい夕食メニューを考えながら玄関へ向かって行ったのであった。
にほんブログ村