車に乗り込んだテギョンを追いかけたミナムは、森に囲まれる屋敷を振り返って、執事の男性が下げる頭に慌てて頭を下げていた。
二階の窓から見下ろす老人を一瞥し、胸に抱えた書類を握り締めて車に乗り込んだ。
『どこ行くの!?』
テギョンの隣で、書類を引っ張り出したミナムは、舌打ちをして窓を開けた。
頬を撫でる風が、爽やかに髪も揺らす。
テギョンが何を考え、何をしたいのかずっとそれを考えていたミナムは、ひとつの答えを突きつけられて戸惑っていた。
『お前の好きなところで良いぞ』
黙って外を眺めるミナムにテギョンの口も重い。
ミニョに芸能界の仕事をさせようとは、正直テギョンも考えていなかった。
むしろ、折角帰って来たばかりで、ボランティアは勿論だが、好きな事を選ばせてやれるだけの力は自分にあるとそう思っていて、もしも、神学を続けたいならそれでも良いと思っていた。
シスターへの道は、絶たれたと言っていたミニョ。
ミナムもそう言っていたので、そこへ戻るという事は、難しいのかもしれないと思ってはいたが、自分から離れなければ、何をしても応援してやろうとそう思っていた。
『ヒョンはさぁ・・・賛成なんだよね・・・』
風に当たったままミナムが言った。
横を見るテギョンは、ネクタイを緩めてミナムに答えた。
『破格の条件だからな。新人で、それだけの契約をしてくれとこちらが言ったら笑われるだけだ』
『新人ねぇ・・・』
『コ・ミナムを演じていたからな。一か月とはいえ、撮影もそれなりに熟してた。タレントじゃなくてモデルだから、それなりの写真が撮れれば良いそうだ。選ばれた理由は、顔。だ。』
本当は、そうではない。
しかしそれは、まだテギョンの胸の内だ。
老人もそれは、心得ている為、余計な事を一切ミナムに伝えなかった。
けれど、それが、どこまで通用するのか。
コ・ミナムという男は、侮れないとこの一年近くを一緒に過ごしたテギョンは、知っていた。
微細な思惑などもしかしたらもう気付いているのかもしれない。
にほんブログ村