見上げた空は、灰色の厚い雲に覆われ、茶色と黄色とあの撮影の日を思い出していた。
『あ・・・あっちの車で帰ります・・・ヒョンニム、どうぞ・・・行ってください』
ヘイがいたあの空間にお前の表情に気づけなくて、すれ違ったシヌの車にバックミラー越しに見えたふたりに苦い味を覚え、その痛みにも似たモノの理由なんて知らなくて、俺がお前に恋をしたのはいつからだろう。
『一番ですよ!かっこいいです!』
お前が出て行ったと聞いた時、俺は、凄く悔しくて、許せなくて、隣で明るく話すお前に感じた味も苦かったけど違ってた。
『ヒョンニムが呼んでくれたので来ました!』
可愛い顔で、微笑んで、コ・ミナムではなく、コ・ミニョとして俺の前に立ってたお前に恋をしたのだろうか。
安くないピンを渡して、お前の機嫌を取ろうとしたのは俺だったな。
「なーにを考えているのですかぁ!?」
「あん!?」
俺の顔を覗き込んで、今のお前は、あの時のカツラを被っていたお前と同じ顔をしていて、髪に光るピンは、あの時、俺の与えたピンだ。
「お前にピンを買ってやった時の事を考えていた」
「・・・これですかぁ!?」
俺の見つめる先で、髪に手を置いて、外そうとするから手を止めた。
「止めろ!お前がやると壊れるだろう!」
「む、そんなに不器用じゃありません!」
「そうか!?俺の前で壊したじゃないか」
「むむ、あれは、オッパがカツラに似合わないと言ったんじゃないですか」
「そうですねと言ったのはお前だろ」
「む、むむむむむ」
ぷくりと脹れた頬が、不満そうに揺れる瞳とけれど愛おしさしか湧いてこないのは、その頬を突きながら、笑顔を向ければ、たちまち真っ赤になって横を向いてしまうお前が俺をどれだけ好きかを知っているからだ。
「どうかしましたか!?コ・ミニョssi!?」
故意に敬意を込めて聞けば、首を振るだけのお前は、俯いたまま、俺の顔は絶対見ない。
「俺に惚れ直したか!?」
「ち・・・っ」
違うと否定されるのもお前、結構心臓が痛くなるんだぞ、と心で呟き、多分好きだろう俺の笑顔と引き換えにでかい目を見開いて固まったお前の唇を塞いだ。
「っ・・・ぁふ」
「・・・目を閉じることは覚えたんだな」
「っ・・・し・・・」
やっぱり後ろを向いてしまうお前の背中をコートで包み、きょときょとするお前を後ろから抱きしめれば、人肌の暖かさが心もポカポカさせてくれる。
「ちょぉ・・・オッパ・・・」
「はは、このまま歩くか」
お前を包んで歩く並木道で、俺がこんな事をしているなんて、ペンに見られたら、イメージダウンかもしれないと思いながらも離してやる気にならないのは、この時間が、俺のもっとも安心する時間だからだろう。
「オッパ!見られたら困ります」
「もう、見られてるさ!それに俺は別に困らない」
「そそそそ、そんなこといってもイメー・・・」
「ああー、もう、煩い!俺に逆らうのか!」
「さささ、逆らってません!オッパのペンの方が・・・」
あーだこーだと煩いお前を黙らせるのに何が良いかと考えながら、踏みしめた落ち葉に足を止め、お前の手を引いてしゃがみ込んでいた。
「何ですか!?」
「落ち葉の音だ・・・良い音だったな」
拾い上げた銀杏と楓の葉を翳してお前の方を見れば、何かを見つけたお前は笑ってた。
「何だ!?」
「綺麗な葉っぱです」
見目の良い葉を一枚持って、笑顔で俺を見たお前にああ、そうかと気づかされた。
「思い出は、塗り替えれば良いんだ」
「へ!?」
何でもないと言いながら、お前が拾った葉っぱをコートに入れていた手帳に挟み、握った手をポケットに入れながら、絡めた指先にまた赤くなったお前の頬にキスをして、あの日の想いは、思い出として、新たな曲を作る様に恋の名前は、積み重ねなんだと思っていた。
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