★★★★★☆☆☆★★★★★★★★★★☆☆☆★★★★★★★★★★☆☆☆★★★★★
「雨・・・ですね・・・」
差出し、握られた手の甲にポツンと落ちた雫の翳みに空を見上げたミニョは、右手で摘んでいたスカートの裾を踏みつけていた。
「えっ、あっ、わっわわわわ」
慌ててバランスを保とうと横を向いたミニョは、また裾を踏みつけ、バランスを保ちきれない身体が、背中からシヌの手の中に落ちている。
「大丈夫!?」
「わっ、ヒョ、あ、ああああオッパ!すっ、すみませんっ」
シヌに背中から支えられ、腰に回された腕に浮いた足が宙を舞い、トンと地面に降ろされたミニョは、くるりと振り返って、深々と頭を下げた。
「だっ、大丈夫です、オ、オッパこそ大丈夫ですか」
「ああ、俺は、問題ないよ!ミナムくらいなら担げるし」
ジャケットの腕を捲って見せる白いスーツ姿のシヌにぽやんとしたミニョは、惚けた顔で見上げている。
「ミニョ!?見つめてくれるのは、嬉しいけど、俺、睨まれてるみたいだ」
「えっ!?あっ!?すっ、すみませぇ、ん、んあっ、あれっ!?」
また頭を下げたミニョの上を大きな翳が横切るとククと笑ったシヌは、頭に手を翳し、雨を避けながら走り始めた。
「ほぇ、あっ!?あれ!?みっ、見えない・・・」
「見なくて良い!ったく、何をやっているんだ!」
「えっ!?あっ、ほぇれ、オッパ」
顔を覆う手のひらに両手で触れて外したミニョは、薄いピンクの布に目を奪われている。
「わぁぁ、綺麗ー」
「ったく、俺が目を離すとすぐに他の男に近づきやがって」
「近づいてないです!ヒョ・・・じゃなかった、オッパは、助けてくれただけです」
目の前に広がる花に目を奪われたまま膨れたミニョに傘を差しかけているテギョンは、傾けた傘の中でミニョの肩に前から腕を回した。
「気に入ったか!?」
「どうされたんですか!?」
「作った」
あっさり、何でもない事の様に語るテギョンにミニョの目は、くるりと一周している。
「ほ、作った!?・・・のですか」
「ああ、気に入ったか!!」
ぽかんと上を見上げ、テギョンの回した腕に手を添えて、僅かに身体から離し、くるりと腕の中で振り返ったミニョは、黙ったまま何度も何度も頷いた。
「ふ・・・・・・ん、本当か!?」
「勿論です!可愛くて素敵です!雨が楽しくなります!」
親指立てて、にっこり笑ったミニョに唇を突き出すテギョンは、ニンマリ口角を上げている。
「わっ・・・・・・」
「そうか、そうか、気に入ったか」
綺麗に上がった口角で、子供みたいな笑顔を零しているテギョンに俯いてしまったミニョは、背中をポンポンと叩かれ、また頷いた。
「きっ、綺麗な紫陽花です!この前見たのより綺麗!」
「ふん、紫陽花だけなら良いけどな!あそこには、こう、何ともいえないものが、うようよ居やがるからな!ったく、何であんな物をじっと見たがるんだ・・・・・・」
「蝸牛ですかぁ!?可愛いじゃないですかぁ・・・それに美容にも良いんですよぉ」
「おっ、お前!パボかっ!かっ、加工されたものと生ものは違うだろ!!それにあいつも貝だ!甲殻類と同じだろうがっ!」
「別に食べる訳じゃないですぅ、見てただけじゃないですかぁ」
こんもり、つんつん、頬が膨れるミニョにテギョンの瞳がギロリと動いたが、負けじとミニョもふくれっ面のままテギョンを見て、暫く見詰め合うとシャツを掴んでいた腕が、テギョンの背中にこっそり回されている。
「ふふ、オッパ!コマウォ(ありがとう)」
「わっ、なっ、何を・・・・・・」
「お外ですから、少しだけ・・・」
ミニョの行為に小声で慌てたテギョンは、キョロキョロ左右を見回し、キュッとテギョンをきつく抱きしめたミニョは、すぐに手を放して振り返った。
「可愛いですねー!あっ!!蝸牛もいるー」
指差す先に見つけたカタツムリに笑顔で喜ぶミニョに唇尖らせたテギョンは、コツンと後頭部に額をぶつけ、僅かに首を動かしたミニョの肩を引き寄せ耳に口を寄せている。
「礼なら、別なものを寄越せ!」
「へっ!?」
「撮影が終ったら、俺と帰るんだ!お前の仕事はこれだけだから、良いか!勝手に他の男に着いて行くなよ!」
「ほ!?はぇ・・・」
揺ら揺ら揺れる傘の中で、ミニョの肩を抱いたテギョンは、ぽやんとして、またテギョンの腕を掴んでいるミニョの耳にキスをすると握っていた傘の柄をミニョに握らせた。
「しっかり持ってろ」
「は、はぁ・・・」
ミニョが、傘を両手で握るのを確かめたテギョンは、ミニョの膝裏に腕を入れ抱き上げている。
「えっ!?あっ、オッパ!?」
「しっかり持ってろ!俺が濡れるだろうが!」
ミニョを抱き上げて走り始めたテギョンに驚くミニョは、傘を短く持った。
゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆
「あーあ、戻ってきちゃったよ・・・」
「そのまま、車に戻れば良いのにねー」
「それにしても素早い行動だったな」
「そう、そう、ヒョンが居るんだから、大丈夫なのにねー」
「ふ、一時でも離したくないんだろう」
三人三様の会話をしている横にテギョンが、ミニョを抱いて走り寄った。
「ふっわー、ビックリしましたぁ」
「チッ!結局、濡れたな」
ミニョを降ろして、肩についた水滴を払ったテギョンは、しゃがみ込んでいるミナムとジェルミと視線が合っている。
「何だよっ!」
「可愛いねミニョ、紫陽花!?」
咬みつきそうな勢いでミナムとジェルミを睨んでいるテギョンの横で、シヌは、ミニョがくるくる回している傘を覗き込んだ。
「はい!オッパが作ったそうです」
「へー、器用だな」
「へー、紫陽花の傘ねー」
「デートに行ったのに花も碌に見ずに帰って来たんだってさ、ミニョが怒ってた」
ニヤついてテギョンを見上げるミナムにシヌとジェルミがクスクス笑い、ミニョは、きょとんとしてミナムを見つめている。
「花じゃなくて、蝸牛を見せてくれなかったのです!」
「蝸牛!?」
「はい!だから、これ!」
傘の柄に付いた蝸牛を模した持ち手にシヌ、ジェルミ、ミナムの視線が集中し、にっこり笑うミニョの隣でテギョンは、顔を横に向けた。
「ふーん、ご機嫌取りは、成功したんだ」
「ヒョン・・・情けなっ・・・」
「蝸牛も貝だから、苦手なんだろう」
好き勝手な感想を漏らしながら撮影の合間の雨宿りを楽しむA.N.Jellの横でミニョの肩を苦苦しく抱いたテギョンのとある日の出来事だった。
★★★★★☆☆☆★★★★★★★★★★☆☆☆★★★★★★★★★★☆☆☆★★★★★
ちょみっと若い時代のふたりでしたねo(^▽^)o