小さな冒険者さん
「あいさつはー、きっほーん!」
A.N.entertainmentの事務所の廊下をトコトコ歩くリンは、片手に鉛筆、片手にノートを持って、キョロキョロ周りを見回し、時々すれ違う練習生や事務所のスタッフに小さな頭を下げては、こんにちはと言っていた。
小さなリンが、ファン・テギョンの息子だと熟知している面々は、手を振ってくれたり、頭を撫でてくれたりとすれ違う度、声を掛けてくれるので、ひとりで事務所を歩いていてもどこかで誰かが見ていてくれるとテギョンも安心して野放しにしていた。
今日のリンには、目当てが在る様で、ひとつひとつ扉の前に立ち止まっては、違うと言いながら進んでいた。
「うーんと、今、3階だから・・・」
階数表示の書かれたプレートを見上げ、階段の手すりから吹き抜けのロビーを見下ろすと2階の廊下をテギョンが、難しい顔で腕を組みながら歩いていくのが見えた。
「アッパだ!」
慌てて柱の影に隠れるとチラッと後ろを見て、テギョンが見えなくなった事を確認した。
「行っちゃった・・・」
笑顔を作ってまた上を見上げて歩き始めた。
「えっと、あとひとつかなぁ・・・」
階段を両手を使ってゆっくり昇り始める。
4階に辿り着くとスクエアーに連なる長い廊下を見回して、反対側へ向かった。
「あそこー!!」
一際豪華な扉を見つけて一目散にそこへ駆け寄った。
「へへへー」
前に立ったリンは、革張りの防音扉を見つめ、そのノブにゆっくり手を掛けた。
いつもテギョン達が練習しているスタジオよりも格段に広いその部屋は、小さなホールといった雰囲気で、ぐるりと囲む周りの壁一面にA.N.Jellのポートレートが何枚も貼りつけられ、一際目立つ位置にファン・テギョンの写真が飾られ、その横にミニョの写真が何枚も飾ってあった。
「わー、すごーい!オンマがいーっぱい!!」
今よりももっと若い感じのミニョを見たリンは、可愛いと言いながらトコトコ近づいていった。
「ミナムの言ったとおりだ―!いーっぱいあるー」
ぐるっと一回り、歩き回って写真を一枚一枚見ていたリンは、金縁の額に入れられた大きな写真の前で立ち止まった。
「これだー!」
指を指してそれに近づくと下から見上げた。
「うーん・・・良く見えない」
額縁が邪魔で、下から見上げるとそれが目に入り、リンの背丈では見えない様だ。
キョロキョロ周りを見回したリンは、少しづつ後退り首を伸ばし、仕種を変えながら見えたと言った。
そこに写るのは、淡いピンクのロングドレスを着てマイクを持つミニョとタキシードを着てピアノを弾いているテギョンの姿で、見つめ合い、微笑みあっている写真だ。
「わー、きれー、かっこいいー」
タキシード姿でピアノを弾くテギョンは、キリッとした表情で、けれどミニョに向けられるその口角が、目一杯あがって、口元に皺を作り、ミニョもまた片手でお腹に触れながら斜めに向けられる眦が下がって、慈しむ様な笑顔を浮かべている。
「ここにいるのかなぁ!?」
ミニョの手元を見るリンは、うーんと唸りながら首を捻っている。
小さな頭を左右に動かしながら写真に魅入っていた。
「こんなところで、何をしているんだ!?」
突然、低いが良く通る声がホールに響いた。
ビクリと身を震わせたリンは、にぱっと笑うと耳慣れた声に振り返った。
「アッパ!」
見つかったとノートで顔を隠している。
「ったく、ひとりでこんな所まで、良く来れたな!」
皮肉交じりにリンに近づいたテギョンが腕を伸ばした。
迷うことなくその腕に掴まるリンは、抱き上げられて目線が同じになった写真にこれと指を指した。
「僕も一緒だってミナムが言ってたのー」
テギョンを見つめて聞いた。
「僕も・・・いるの!?」
その写真を見るテギョンは、ああと目を細めて頷いた。
「確かにお前も一緒に写っているな」
「どこー!?」
「ここだ!」
伸ばされた指先は、やはりミニョの抑えられたお腹を指し、リンは満足そうだ。
「ふーん」
「ふ、この写真は、ミニョの妊娠が判った後に撮ったものだからな!最後のテレビ出演の後だ」
懐かしむ様にテギョンは、微笑みながらリンに説明をしている。
「ジェルミがパーティーをすると言って、その時に撮ったんだ」
「オンマ凄く綺麗だよねー」
嬉しそうにテギョンにくっつくリンは、写真の中のミニョを見ている。
「ああ、この時は、本当に嬉しかったんだ」
「アッパもー!?」
「お前がいるって判ったんだぞ!嬉しく無い訳ないだろう!」
不思議顔のリンの額を小突いたテギョンは、軽く睨んでいる。
「エヘヘヘヘー」
額を抑えたリンは、照れくさそうに笑った。
「オンマがいつも言ってるだろう!?生まれてきてくれてありがとう!リンは宝物ですってな!」
もう一度その写真を眺め、暫くするとテギョンがフッと笑った。
「なーにー!?」
小首を傾げたリンが、テギョンを見ている。
「いや、この写真を撮る前の衣装が凄かったんだよ」
テギョンの思いだし笑いをきょとんと観ていたリンが大きな声をあげた。
「あー、知ってるー!ミナムが見せてくれたー!そっくりだったやつー」
「!?・・・あれを見たのか!?」
「オンマとミナムと同じ服着てるやつでしょう!?」
「ああ・・・ああ、そうか・・・見たのか」
テギョンの歪む顔に不思議顔のリンは、舌打ちを聞いて増々きょとんとしたが、微笑んだテギョンの写真を見る目にそちらを向いた。
「お前のオンマは、俺が選んだ最高の女だからな」
「アッパもかっこいいよねー」
珍しいリンのストレートな褒め言葉に一瞬テギョンが固まった。
しかし、コホンと咳払いをすると笑っている。
「お前のアッパだからな!」
ふふふんと誇らしげなテギョンにリンも頷いて頬をくっつけて笑った。
「それにしても何でこんな場所にミニョの写真がこんなに飾ってあるんだ!?」
ぐるりとホールを見回すテギョンは、見慣れたポートレートの数々に首を傾げている。
A.N.Jellの写真が貼ってあるのは、周知の事実だが、コ・ミニョは、所属アーティストではない。
何だと首を傾げて歩き始めたテギョンにリンが、社長がと言った。
「アンしゃちょーの趣味だってミナムが言ってたよー」
「社長の!?」
「うん!」
「チッ!社長と話合う必要がありそうだな・・・」
まだまだ周りを見回して面白くなさそうなテギョンは、それでもリンに満足したのかを聞いた。
「うん!オンマの写真見れたからまんぞくー!」
「そうか、じゃぁ、お前の冒険もここまでだな!何か食いたいものはあるか!?」
昼時にリンが近くに居ない事で捜しに来たテギョンだったが、思いがけずミニョの昔の写真を見れた事で心なしかウキウキしていて、リンに掛ける声も弾んでいる。
「何でも良いの!?」
いつもの様にリクエストを聞いてくれるのかと訊ね返すリンは、ああと言ったテギョンに微笑んで考え始めた。
リンを抱えたまま、その部屋を後にしたテギョンは、廊下を歩きながら、リンの顔を見つめ、幸せそうな笑みを浮かべていたそんなとある日の出来事だった。
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Favorite music excerpt 再生リストからchoiceコントロールから音量変更可 不可はページ再読込❦一部字幕ON&設定で日本語約可
loveYou're Beautiful❦Story it was based Korean drama "You're Beautiful" secondary creation.❧
Hope to see someday"You're Beautiful" of After that.
Aliasすずらん──長い長い「物語」を続けております。貴方の癒しになれる一作品でもある事を願って。イジられキャラテギョンssi多(笑)
交差点second掲載中❦フォローしてね(^▽^)
コメディ・ほのぼの路線を突っ走っています(*^▽^*)あまりシリアスは無いので、そちらがお好きな方は、『悪女』シリーズ等を気に入って頂けると嬉し。
『テギョンとミニョの子供・・・』という処からお話を始めオリキャラ満載でお届けしておりましたが、登場人物も交差し始め統一中。
長らくお付き合いいただいている方も初めましてな方もお好きな記事・作品等教えて頂けると嬉し(^v^)
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