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明洞の聖堂で顔馴染みのシスターと挨拶を交わしていたシヌは、箱を抱えて庭を横切るユンギを呼び止めていた。
『イ・ユンギッ!』
『おっ、カン・シヌっ!朝早くから悪いなっ!』
『いや、今日は、休みだったから構わないんだけど・・・おっ前、本当にやるのか!?』
『んん!?あー、やるよー!その為の準備もほらっ!』
蓋のされていない箱を見せたユンギは、シヌのヒクツイた頬に笑い、手持ちのギターと袋を指摘している。
『俺もリンに頼まれてたから、用意をして来たけど・・・どうするつもりなんだ!?』
『はは、簡単さっ、ジュノもユソンも来るんだ!子供達纏めてけしかけたら断れないだろう!』
並んで歩き始めたふたりは、中庭に準備されているガーデンパーティのテーブルに荷物を下ろした。
『そりゃぁ、ミニョの性格からしたら断わらないだろうけど・・・テギョンは、嫌がるだろうなぁ』
『来る前に乗せちゃえばこっちのものさ!あいつ夕方まで打ち合わせだもん』
『スケジュールまで把握済なのか!?人が悪いなぁ』
『はは、俺のせいだって散々言われたからなぁ、だったら、このくらいのプレゼントは受け取って貰わないとね!』
ウィンクをするユンギは、近づいて来たスタッフに書類を差し出された。
『どこがプレゼントだよ・・・これは立派な悪戯だぞ』
背を向けペンを走らせるユンギの後ろでシヌは、辺りを見回している。
『良いだろう!Trick or Treatさ!お菓子も用意してるし、食べる食べないはテギョン次第』
『いや、食べるのは目に見えてるんだけど・・・』
丸テーブルの椅子に座ったシヌは、ギターを取り出し、ユンギも腰を下ろした。
『なんだよ!何かあるのか!?』
『リンに頼まれたモノがなぁ・・・』
ギターケースとさほど変わらない大きな袋の中身を取り出すシヌにユンギが身を乗り出している。
『何を頼んだんだ!?』
『衣装・・・・・・と枕』
『枕ぁ!?なんで!?何に使うんだ!?』
緑の洋服と白く細長い枕を取り出したシヌにユンギの目が丸くなった。
『さぁ!?昼寝でもするつもりか・・・あいつかなり突拍子も無い事を思い立つ奴だからなぁ・・・』
『何するんだろ・・・ミナムssiの入れ知恵か!?』
『いや、どちらかというと事故を起こすミニョって感じがする』
『ふーん、テギョンに何か仕掛けるつもりかなぁ・・・ま、楽しみにしてようぜ!それより!』
ユンギが差し出した譜面を受け取ったシヌは、ギターの調整を始めた。
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『賑やかだ』
柔らかな午後の陽射しも傾き始めた頃、聖堂にやって来たヒジュンは、ミンジの座るベンチに腰を下ろしていた。
『ほほ、久しぶりに遠出をしたわ』
『ふ、ん、遠出というほどの距離かよ・・・その辺のホテルには、いつも顔を出してるんだろう』
近づいて来た給仕係からグラスを受け取ったヒジュンは、ミンジのグラスも取り替えている。
『会合と奉仕は、違うわよ・・・緊張感の無い、心の旅って感じかしら・・・』
『はははは、お前も年をとったんだなぁ』
『あなたもでしょう・・・夏に心を洗われて、情熱も戻ったでしょう』
『ふ、確かにな、楽しかった・・・』
『ユソンも学校へ行けるようになったそうね』
『ああ、少しづつだが友達も増えてる様だ・・・』
『でも、変わらずあなたといるのね』
『ふ、ガキと気が合わなかった奴だからな・・・子供ってのは残酷で親がいない事を責める』
『大人の責任でもあるわ・・・同情は、口を噤む事では無いと教えてあげるべきね』
『お前だって噤んでいただろう』
『ええ、ユンギの苦悩を知っていた・・・けど、あの子は、何も出来ない子供じゃなかったもの』
『助けられる子供は手の届く範囲が限界だ・・・けど、こういうイベントなら、もう少し向こうまで手が伸ばせるからな』
『来てくれて感謝してるわ・・・楽しませてね』
ヒジュンの妻が遠くからミンジに手を振っていた。
『奥様も相変わらずお若いわね』
『相手をしててくれ!お前に礼を言いたいと言っていたからな』
妻と入れ替わってその場を後にしたヒジュンだった。
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『リーン!ユソンにジュノもー、どこにいるのーかぼちゃ運び手伝ってねー』
『はーい』
午前中、教会にやって来る子供達にお菓子を配り、チャリティに参加する大人達の間をハロウィンの仮装で駆け回っていたリンとジュノは、午後からやって来たユソンも交えて三人で頭を突き合わせていた。
『何だ!?』
『枕ーとドレスー』
『何をするんですか!?』
シヌに貰った枕を抱えるリンは、抱き締めて顔を埋めている。
『オンマにあげるのー』
『なんだそれ!?新しい遊びか!?』
『ふっふふふ、アッパひとりだけお菓子をもらうなんてずるいんだもんねー、悪戯もしてやるんだー』
『菓子なら俺達も貰ったじゃん』
背負ったリュックを下ろして膝に抱えたジュノは、クッキーや飴をユソンに渡した。
『アッパのお菓子はオンマなのっ!TrickもTreatも俺のだってお菓子くれなかったんだもん』
『お菓子・・・というより、リンがソンセンニムから欲しい物って、新しい譜面じゃないのですか!?』
キャンディをひとつ口に入れたユソンは、かぼちゃを並べて火を灯しているミニョを見ている。
『そうだよー、アッパ、ユンギヒョンとクリスマスソング作ってるのに見せてくれないんだもんっスタジオも鍵かけちゃうしー』
『それって・・・』
ジュノがユソンと顔を見合わせた。
『リンが発表前にめちゃくちゃに弾くから・・・ですよね』
『良いのー!アッパの曲好きなんだもん』
剥れたリンは、横を向いている。
『それって、はいしん(背信)こういって言うんだよなっ』
『はい・・・何ですか!?』
『裏切られるって事らしいぜ!ユンギがよくヒジュンに言ってる』
『うっら・・・そんな大袈裟なものじゃないでしょう!?』
ぎょっとして泣き出しそうなリンの頭をユソンが撫で、慌てたジュノは、伸ばした手を掴まれた。
『こらっ、ガキ共っ!難しい話を足りない頭でしてるんじゃないっ!』
両手を掴まれて持ち上げられたジュノは、宙で足をバタつかせている。
『何するんだー離せよっユンギっ!』
『うるさいっ!俺のヒジュンを叩いてリンを苛めてる罰だっ!利かん坊めっ』
『なんだよー、ミナssiもユジンssiも忙しいからって俺を口実に使う癖にー!バラしてやるぞー』
ぐるぐる振り回されたジュンシンは、地面に下ろされてふら付き、ユンギにしがみ付いた。
『っつ、いたいけな子供を一人で飛行機に乗せやがってー』
『はは、初めてじゃぁあるまいし、お前は慣れたものだろう』
目を回しているジュンシンは、頭を振っている。
『慣れるかよっ!本場のオペラ見せてくれるっていうから来ただけだっ!約束は守れよっ!』
『ハロウィンが終わったらな!それより!さっさとミニョssiの手伝いに行けっ!』
ユンギに促されたリンとユソンが立ち上がった。
『ステージを作るのかよ!?』
『ああ、夕方からチャリティコンサートだ・・・お前達も参加してくれるんだろう!?』
『へへ、ミニョssiを引っ張り出せば良いんだろっ』
『踊ってくれなきゃいたずらするぞって言えば良いよ』
『『『アラッソー』』』
くり抜かれたかぼちゃのランタンを持ってミニョの手伝いに漸く駆けだした子供達だった。