「オンマー」
テギョンに肩を抱かれて戻って来たミニョを誰より先に見つけたリンは、けれど、腕を伸ばしたミニョより先にテギョンに抱え上げられていた。
「アッパ!」
不満そうな声を出し、それでも頬に擦り寄るリンは、キスを贈って笑っている。
「リハーサルは!?」
「かんぺきー」
手を上げたリンの髪を撫で、ステージに立っているシヌとユンギのセッションを見つめ、近づいていた。
「戻って来たのか」
「ああ、調子は!?」
「直すところもあるけど、ほぼ大丈夫だな」
「そうか・・・後は、こいつか」
ミニョの手を引くテギョンは、ニヤリと笑っている。
「明日、ギョンセssiが来るんだろう!?ソンベも」
「ああ、ソンベは、音響確認だけ出来れば良いって言ってたな・・・アボジは、どんな舞台でも奏者が主役だから俺達が頑張れって訳の解んない事を言ってたけど・・・どっちもあまりリハは好きじゃないみたいだ」
「ふ、らしいな」
「爺の我儘だよな!俺はいつでもどこでも即興で弾いてやるとか言ってさ」
「ソンベなら問題ないだろう・・・口パクされなきゃなんでも良いさ」
「声だけは、大事に整えるってさ」
ユンギの軽口にシヌもテギョンも笑っていた。
「ミニョは、どうする!?もう一回確認していくか!?」
「いや、歌はいい・・・帰って確認する」
「そうか・・・なら、リンも一緒に確認してやってくれ」
シヌを見ていたリンが、ビクンと体を震わせている。
「ビブラートか!?」
「ああ、ギターを下ろして歌わせた・・・お前と同じになんてやっぱり無理があるからな」
「解った・・・ゆっくり聞かせてもらおう」
「聞かせないもーん」
「聞かせなきゃ出さない!」
「ぐっ・・・う、アッパきーっぐ」
両手をあげようとしたリンに素早く腕をあげたテギョンが、口を押さえつけた。
「チッ!やめろっ!今日は、それを何度も聞いてイラツいてるっんだ」
きょとんとするリンと顔を見合わせたユンギとシヌも顔を大きく逸らしたミニョを見ている。
「ったく、緊張感が無いのは、こいつが一番だからな」
「なっ、緊張してますよー、でも、本番は、明後っ」
「何も考えてないお頭(つむ)だからだっ」
コツンとミニョの額をテギョンが小突いた。
「オッパきらーい」
上目でテギョンを見たミニョにテギョンの目が見開かれ、またきょとんとしたリンが大きく笑っている。
「口を開くなと言っただろうっ!」
「ぐ・・・」
「チャックだチャック!お前、今日一日で罰の回数増やすだけ増やしているんだからな!覚悟しておけよ」
テギョンの肩越しに覗き込んだリンは、目の下を引っ張っているミニョと顔を見合わせた。
「ったく、俺の胃痛の原因は、間違いなくコ・ミニョだ」
「リンとギョンセssiもだろう」
「俺もジュンシンのお蔭で胃が痛い」
お腹を抑えるテギョンにユンギも腹を摩っている。
「何かあったか!?」
ミニョに向かって手を伸ばすリンに促され振り返ったテギョンが、舌を出していたミニョと目を合わせた。
「なっ、おいっ!コ・ミニョ!」
「わっ、オッパ、きゅに振り向くなんてっ」
「俺の後ろでそんなことしてるお前が悪いだろうっ!」
「違っ!リンに面白い顔をみせてただけですっ!」
苦笑いを浮かべたミニョは、リンに手を伸ばし、明後日の方を見ているリンを見たテギョンは、ミニョの腕にリンを渡している。
「ったく、ちょっと待ってろ!打ち合わせをしたらすぐ帰るから」
「「はーい」」
仲良く返事をして離れて行くリンとミニョに目を細めたテギョンは、舌打ちをしてステージに上がった。
「ったく、あんなんで大丈夫なのかと心底そう思う・・・」
「ふたりで合わせたんだろう!?」
「ああ、それなりのステップは、体が覚えてて助かったけどな」
「歌よりもそっちが心配だったんだ」
「まぁな・・・歌は、ずっと歌わせてたし、録音もさせてたから・・・」
「専業主婦だったからな・・・でも、ミニョの大胆さは天性のものだろう」
シヌの一言に眉を寄せたテギョンは、ギロリと横を睨んでいる。
「へー、ミニョssiってそうなのー!?」
「無鉄砲というか恐い物知らずというか結構大胆だぞ・・・そういうところは、リンも良く似てるだろう」
「あ、ああー、そういえば、俺、初めて会った時、そうだったかも・・・・・・って、なんだよテギョン・・・」
シヌを見ていたテギョンの視線がユンギに向かい、睨まれているユンギは、体を逸らした。
「いや、今、お前、何を考えた!?」
「はっ!?」
「ミニョに何を想像したのかって聞いているんだよっ!」
「へっ!?」
クスリと笑うシヌが、きょとんとするユンギとテギョンの前に出ている。
「男なら、好きな女を前にしたら一度くらい想像することがあることだろう!?」
ユンギに向かってウィンクするシヌは、ステージ前に置かれていたギターをテギョンに渡した。
「お前が戻ってくると思って待ってたんだ!3人で合わせるぞ」
「なっ、ちょ、ちょっとまてカン・シヌっ」
ギュイーンと弦を弾(はじ)いたシヌは、ユンギの肩を押している。
「お前が嫌がる想像なら、俺達だって一回くらいはしてるから安心しろ」
「なっ、どういう意味だっ」
帯を肩に掛けたテギョンは、シヌの背中を見つめ、ステージの真ん中に立った。
「お前にとって良い女は、俺達にとっても良い女だった時期があっただけだよ」
クスクス笑っているシヌに苦い顔をしたテギョンは、ジェルミに向かって合図を送っている。
「チッ!お前達のその感情が、俺にとってはめちゃくちゃ邪魔なんだ!ファンの心配もしなくちゃならないってのに・・・あー、あー、あー、あー、俺の胃痛は間違いなくコ・ミニョ!お前が原因だっ!」
マイクに向かって声を確認し、広い会場に響き渡ったテギョンの声は、手を合わせて見つめていたミニョとリンの首を傾げさせ、ジェルミのスティックと共に始まった曲に音を乗せたテギョンが、ニヤリと頬を緩めながら歌いだしていたリハーサルの終盤であった。
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