ステージで、客席を見下ろしている子供達は、止めろと手で合図して歩いて行く背中を見つめながら顔を見合わせユソンの周りに駆け寄っていた。
「なぁ、俺、間違えたか!?」
「そんなこと無いと思うけどなぁ」
「アッパよりもたいへーん」
「ソンセンニムの言ってた事ってこれだよなぁ!?」
「そうかもしれません」
リンの弾くギターに合わせたユソンの叩くドラムが小刻みに震え、客席のセンター、一番奥を見上げたジュンシンは、ユンギが丸を作る姿に手を振り返している。
「あーあーあ、知らないって厳しいんだねぇ」
「知ってっても厳しいだろう!?」
「そうかなぁ俺達ちゃんと逃げてるじゃん」
ニヤリと笑って頭を倒すミナムを股の間で見下ろしたジェルミは、ジュースを煽っていた。
「ヒョンと違ってシヌヒョンは、結構あちこち動き回るからなぁ・・・狭い所を見てるテギョンヒョンとは違って・・・何も言わないだけで、しっかり見てるって点では、ヒョンより怖いんだよなぁ、それにスタンドマイクは、パフォーマンスに邪魔だよね・・・リンも辞めれば良いのに・・・」
「あれってヒョンがそうだからそうしてるだけだよ・・・ぶつけそうなのを綺麗に避けてたけど・・・ギターが重そうなのは、あいつが小さいからだよなぁ」
「そういえばさ!あのギター、わざわざ本番用に作ったんだろ、練習に使っていたので十分だってミニョが吠えてたっ」
「えっ、ヒョンのギターコレクションから一つくれって言ったら断られたって聞いたよ」
上下で顔を見合わせたミナムとジェルミは首を傾げている。
「どっちもハズレだ!リンがデカくなって体に合わなくなったんで作った!コレクションをくれと言ったのはユンギ!貸せと言ったのが、俺!」
通り抜け様にミナムの手からペットボトルを抜き取ったシヌは、振り返って片目を瞑りステージに向かっている。
「えー、ヒョンのコレクションってあのガラスケースに入ってるやつー!?」
「車買える程高いのもあるんでしょう!?」
「ユンギの家にはもっと凄いのがあるんだけどなぁ」
大声で会話をした3人は、鳴り始めた客席の声援に後ろを向いた。
「わっ、うるせー」
両耳を塞ぐジェルミに片耳を塞いだミナムと振り返ったままOK丸を作るシヌは、ステージに向かっている。
「毎度凄いね・・・こんなにうるさかったっけ!?」
ミナムとジェルミは、スタッフがこちらを向いて笑っている顔にしかめっ面をした。
「お前達ー!並べ!」
シヌの声に振り返った子供達は、一番前まで出てきたリンが、マイクを引っ張るシヌを不思議な顔で見つめている。
「ヒョンどうするの!?」
「リン!お前、マイク無しで歌え!」
「良いよー、おっきな声出すの!?」
「いや、普通に歌って良い、別のマイクで声を拾うから・・・ユンギのリクエストだ」
「ユンギヒョンの!?」
正面を見たリンは、遠くに見えるユンギに手を振った。
「小さいイベントで歌ったんだってな、迷子になったって!?」
クスクス笑ったシヌにぎょっとしたリンがすかさず否定した。
「僕じゃないもーん」
「何だよリン!迷子になった事があるのかぁ!?」
「無いもん」
茶化すジュンシンに膨れたリンがシヌを睨んでいる。
「ああ、ジュノは、舞台の逆方向から出て来たんだってな」
「そっ、あれはぁファジャンシル行ってたからだっ!迷子じゃないっ」
ユンギを一睨みしたジュンシンは、すっかりマイクを下ろしてしまったシヌを見下ろして笑っているリンに恥ずかしそうに膨れた。
「リハーサルはなぁ、トラブルを避ける為の確認だ・・・いつどこで何が起こるなんて予測できる人間は、いないんだ・・・俺達だって本番で間違える事もある・・・ファン・テギョンって男は、完璧を求めてるけど、一番大事なのは、お前達が楽しめているかどうかだぞ!緊張を覚らせない為にテギョンを追い出したんだろうけど失敗だったな」
「「えっ!?」」
リンとジュンシンが顔を見合わせている。
「誰が考えたんだ!?」
「ヒョン、何で判ったのー!?」
「リン・・・お前の声、震えてるだろう・・・俺達だってテギョン程じゃなくてもこの業界長いんだ!ユンギもだぞ、見てない様でしっかり見えてる!ジュノ!指が動かないならちゃんと俺達に伝えろ!これだけのステージに初めて立つんだから緊張するなって方が難しい!でもな、お前は、この半分くらいのステージなら何度も立ってるだろう!それを頭に描け・・・同じだと思え!弾いてる楽器は、同じなんだから!って、ユンギから伝言だ」
「なっ・・・」
黙って聞いていたジュンシンは、シヌを見つめた後、ユンギの方を見て何度もジャンプし、笑っているシヌは、リンを手招いた。
「リン、声に納得がいかないんだろう!?」
「う・・・シヌヒョンが知ってるって事は、アッパも知ってるよね・・・」
「ああ、気付いてたから大人しくミニョとデートに行ったんだ」
「うー、アッパのパーボー」
「ビブラートを何度も修正していただろう!?お前の今の楽器は、ギターと声だ!どっちもおろそかになるならどっちか捨てろ・・・良いか!ひとりで弾いてるんじゃない!こういうステージだから、音が聞こえなくなることもある・・・練習で弾いてる環境とは違うし、今、納得がいっても明日は違うかもしれない・・・だから、今は、ただ、ここに慣れればそれで良い・・・ジュノもメロディ採ってるし、スタッフもいるんだからお前が演奏を辞めてもどうとでもしてやるから、声に集中したいならその場の演奏を止めて歌ってみろ」
「わかったー」
シヌに諭され、にっこり笑ったリンは、ユソンの元に駆けて行き、振り返ったシヌは、ユンギとスタッフに合図を送っていた午後の出来事だった。
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