昼食も終わりかけた頃、スタッフと食事をしていたジェルミも合流して輪の中に入っていた。
「ところで、さっきのアレンジの話だけど」
デザートがケータリングされている一角に走って行った子供達を見送ったユンギは、先頭のジュンシンが、群がっている女性スタッフを掻き分けている姿を見つめ、リンと手を繋いだユソンが頭を下げているのを笑っている。
「ああ、テギョンも散々やられてるんだよ!A.N.Jellの曲を片っ端からメロディ変えて、中には、オリジナルより印象に残るものもあったのさ、俺もだけど伴奏くらいならそんなに違うと思わないんだけど・・・でも、メロディを変えられると違和感っていうかな『あれ!?俺の・・・だったよな』って思う時があるだろう!自分には無い『気づき』ってやつさ!リンは勿論、何も考えてないだろうけどそれが何で俺に来なかったんだと落ち込む時があってな」
向きを変えたシヌも女性に囲まれる子供達を見ながらティーポッドを傾けた。
「そんなのリンの感性だろう!?その当時自分で良いと思っていたならそれで良いじゃないか」
「まぁ、それはそうなんだが・・・」
苦笑いのシヌにギターを抱えたジェルミが、弦をかき鳴らしている。
「お前もさっき言ってただろう!メロディを変えられなくて良かったって」
「ん、あ、ああ、まぁね、だって俺にも書いたプライドってものがあるから・・・」
「10年前に持ってて欲しかったプライドだな」
「煩いなぁ、10年前は、別なプライドを持ってたんだよ」
舌打ちをしながら指先を見つめるジェルミにアドバイスをしたユンギは、心地よい音を出したジェルミに微笑んだ。
「怒るなよ、俺は、お前が戻って来て良かったって言ってるだろう」
「ふん、まぁ許してやるよ!それで変奏ってのは、要は、メロディも拍子も変えるって事!?」
「ああ、リズムもな」
「それをリンがやってるのか!?」
「ああ、ピアノでしか聞いた事無いけど・・・」
ユンギにソーサーを差し出したシヌは、ジェルミの前にも置いている。
「テギョンが見せてくれたのは、ギター譜だったぞ」
「へぇー・・・」
半立ちのシヌに見下ろされるユンギは、意味深な笑いに背中を引いた。
「なんだよ」
「お前さぁ、それが原因じゃないか・・・出演をテギョンに嵌めれられたの」
「何!?」
「リンのギター練習さ!結構ハードな教え方してるんだろう!?」
「してないよーそんな事・・・っていうか練習熱心なだけだろう」
「子供だから好きな事をやれて楽しいとは思ってるだろうけど・・・なぁ、知ってるか!?」
意味深に笑って座り直したシヌは、お茶を飲みながら箱を抱えて戻ってくる子供達を見ている。
「何を!?」
「ファン・ギョンセもリンを狙ってる」
「はぁ!?何!?突然何の話だよ」
「お前の婚約者ってさ」
女性との会話の様に話題を変えるシヌを怪訝に見つめるユンギは、大きな溜息を吐いた。
「まだ婚約してないっ」
「ああ、まだ恋人だったな」
「恋人でもなっ」
「だぁれー!?」
テーブルを叩いて立ち上がろうとしたユンギの前にケーキの入った箱が置かれ、慌てたユンギは、揺れるテーブルを抑えている。
「リンも知ってる人だよ・・・といっても会ったのは、まだ、赤ん坊の頃か・・・」
シヌが、リンの体を持ち上げて膝に乗せた。
「ちょ、ちょっと、待てカン・シヌ!お前っ何でソレを知っている」
ユンギの隣に座ったジュンシンが、じっとり横を眺め、ジェルミの隣に座ったユソンが、ふたりで箱から取り出したケーキをお皿に並べている。
「テギョンに聞いた」
「はっ!?」
「コンサートに来るらしいって聞いたから、俺達も数年振りだし会うのを楽しみにしているんだ」
「へっ!?」
「決まり!?」
生クリームのくっついた手を舐めたジェルミが、ジュンシンのケーキもお皿に分け、シヌは、リンの口にフォークを入れた。
「ああ、明日帰国するそうだ」
「ちょぉ、ちょぉっと待て!何でお前達そんな親しそう・・・ていうか何で皆あいつを知っているっ」
「親しいって程じゃないけどな・・・ああ、そうか、お前聞いてないのか・・・・・・昔、ちょっとな」
ジェルミと視線を交えて笑っているシヌは、とても楽しそうで、話の見えない子供達とあたふたしているユンギとテギョンのいないリハーサル途中の休憩は、こうして幕を下ろしていったのだった。
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