「ん・・・リ・・・ンか!?」
トスンと小さな足に蹴られ目覚めたテギョンは、背中を向けたミニョとの間で斜めにひっくり返っている小さな足を掴んでいた。
「ったく、どういう寝方をしたらそうなる!?」
上半身を起こしながら、ベッドに逆向き大の字にお腹を出して寝ているリンの腕をそっと引き寄せている。
「・・・いつ寝た!?んだ」
リンの体を隣に寝かせ、顔を覆った。
「チッ・・・想像以上に疲れてるな・・・」
お腹を抑えて深呼吸をしているテギョンの向こうで寝返りを打ったミニョが、コツンと額をぶつけ小さく呻っている。
「った・・・た、んんん・・・リ・・・ン!?」
寝ぼけ眼で、リンの後頭部を見たミニョは、布団を掛け直した。
「ふぁーぁゎあ、朝ですねー」
瞼を閉じたまま上半身をずるずる引きずって欠伸をしながら起きたミニョは、ベッドヘッドに背中をつけて大きく両腕をあげ伸びをしている。
「今日は、地下に行かなかったんですねー」
顔を両手で覆い、マッサージを始めたミニョは、何気なく横を見た。
「えっ!わっ、オッパ!!!!」
頬に両手を充て、顔を潰したミニョは、慌てて放している。
「え、わ、オッパ、じゃないっ!朝から何やってるんだ!?お前!?」
呆れ顔のテギョンが、ミニョの方を向いていた。
「え、ああ、マッサージです・・・浮腫(むく)んでいませんか!?」
「毎朝しているのか!?」
「オッパは、しないのですか!?」
また顔を擦り始めたミニョを見ているテギョンは、顔を俯かせている。
「肌を傷めない程度にしろ・・・で、お前は、真似か!?」
「へっ!?」
「アッパもしたら気持ち良いよー」
横を向いたまま下側の頬を擦っているリンに聞いたテギョンは、起き上がった小さな体を膝に抱えた。
「ステージに出るから、ちゃんと毎日ケアしないと駄目なんだってー」
「ステージ!?って事は、決まってから始めたのか!?」
ギロンと横目でミニョを見ているテギョンは、リンの両手を掴んで一緒に動かしている。
「ほうだよー」
「たかが、数か月じゃないか・・・」
「そっ」
「せんりの道は、靴を貰ってから頑張れば良いんだってー」
一通り顔を擦り終え満足したリンは、くるんとテギョンに向き直って胸に凭れた。
「は!?」
「ふぇ!?」
「ん・・・あ、洋服もって言った」
お腹を跨いで腕を伸ばしたリンは、腕を回され引き寄せたテギョンに満足そうに笑っている。
「は!?」
「ちっ、違っ、千里の道も一歩からでしょっ」
「あん!?また、訳の分からない事を・・・何をどう教えたんだ!?」
慌てて横を向いたミニョとリンの声が重なり、耳を塞いだテギョンは、ミニョを見てリンを見下ろした。
「オンマも僕も待ってるだけ」
「ど、どうって・・・せんりのみちもいっぽ・・・からを」
ベッドに正座したミニョは、パジャマの袖に腕を引っ込めリンを小突く真似をしている。
「積み重ねってのは、理解してやるが、ドレスと靴に何の関係があるんだよ!?」
二度も重なった声に瞳を閉じたテギョンは、一呼吸置いてからミニョを見た。
「きっ着れないと困るじゃないですかぁ」
「ちがうー」
テギョンをぎゅっと抱きしめたリンが、ミニョをむっと見ている。
「ちょっと待て、着れないのか!?」
「きっ、着れますよー、頑張って引き締めましたっっ」
丸い目をして腰に手を当てたミニョは、首を傾げながら片頬を引き攣らせた。
「着れなかったのか!?」
「はゎぅ、だ、だってー、オッパがもう少し・・・って言ったから」
テギョンの伸びた手が、ミニョのお腹を摘んでいる。
「ああ、その辺抱き心地が悪かった・・・けどな」
「うっ、リンにも言われたのです」
「ぽよんってなった」
「なってませんっ」
伸びたリンの腕を握ったミニョは、口元だけにっこり微笑みテギョンが鼻で笑った。
「リン・・・女心だ、黙っててやれ」
「オッパ!」
リンを抱いたままベッドを抜け出したテギョンは、立ち上がってミニョを見下ろしている。
「アッパ、おんなごころってなぁにぃ」
「ミニョには、綺麗だ、大好きだと言えって事だ」
「オッパ!!!」
正座のままにじり寄ったミニョは、顔をあげ、唇を突き出した。
「どんなんでも大好きだけどな」
「ぁ・・・え」
「アッパ、ずるーい、僕もするー」
音を立てて唇に触れたテギョンの胸の中からリンが不自然に腕を伸ばしミニョの頬を包んでいる。
「ああ、ところで、違うってのは!?」
リンを抱き直したテギョンは、ドアへ向かった。
「遠くまで歩くと疲れちゃうから、靴は絶対いるんだ、でもね、オンマと買い物に行っても僕のは、買うけど、オンマのは買わないんだもん!どうしてって聞いたら、せんりのみちはアッパが、袋持って歩いて来るんだって言ってたの」
「言ってませっんてばっ」
床に脚を下ろしたミニョは、スリッパを捜して反対側に回り、テギョンは、廊下で立ち止まっている。
「・・・戦利品への道はって言ったんだろう!?」
「い、言ってなっ」
向かいのクローゼットを見ているテギョンは、廊下に出て来たミニョを見た。
「戦利品ばかりのクローゼットだよな」
「そ、それはー・・・」
「コ・ミニョ・・・」
暫くミニョを見つめたテギョンは、顔を近づけている。
「必死だ」
「へ!?」
「男心ってやつはな、必死なんだよっ」
「は!?」
「おとこごころ!?」
首を傾げきょとんとしているミニョを置いてリビングへ向かった。
「オンマが好きだろう!?でも俺は、コ・ミニョも好きなんだよなぁ」
「僕は、どっちも好きだよー」
リビングの扉を開けながら振り返ったテギョンは、ミニョを見て口角を目いっぱいあげている。
「ふ、今日のステージで、コ・ミニョを見せてやるからな」
「わーい、リハーサルー」
両手をあげたリンを抱いたテギョンは、さっさとリビングに消え、後を追ったミニョもゆっくりリビングに入った。
「さぁ、さっさと飯を食うぞ」
ファン家の長い一日の幕あけだった。
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