「どうですか!?」
「はい!とっても動きやすいです!」
「そうですかー、良かったー」
カーテンで仕切られた向こう側に声をかけたジョンアは、組んだ両手を外して机に突っ伏していた。
「でも、脚、見えちゃいますねー」
にこにこ笑いカーテンから顔だけを出したミニョは、片足を前に出し、斜に構え、隙間から覗かせた裾を捲っている。
「あ、それ、ファン・テギョンssiのリクエストです」
「え、オッパの!?」
「ええ、はじめ、ミニ丈を数枚持っていったんですけど、却下されまして・・・」
苦笑いで机にところ狭しと拡げられた書類と服の山を手探り始めたジョンアは、デザイン画を数枚、見える位置に置き直した。
「曲のコンセプトと合わないと仰られて、その場でデザインを」
「え・・・オッパが描いたのですか!?」
一枚を指差し、見る様に促したジョンアにミニョが駆け寄っている。
「はい!」
「わ、こ、これっ、欲し・・・」
きらきらした目で、ジョンアを見上げ、腕を掴んだミニョに僅かに気圧されたジョンアは、きょとんとして見下ろした。
「え、こ、れ・・・ですか!?」
「はいっ!」
「ただのラフ画ですよ」
「で、でも、オッパが描いたのですよね」
絵を持ち、見つめているミニョは、満面の笑みを浮かべている。
「ええ、あ、ああ、そっか・・・」
「何ですか!?」
「いえ、大好きですものね、それに、ここにちゃんと星と月が描かれてる」
小首を傾げたミニョの横から紙を指差したジョンアは、裾のデザインをなぞった。
「う・・・意地悪、そんなんじゃな・・・」
「あはは、すみません、ファン・テギョンssiが羨ましくてつい・・・」
頬を膨らまして紙で顔を隠したミニョにニヤニヤ笑っているジョンアは、声を大きくして笑っている。
「ジョ、ジョンアssiの絵は、無いのですか!?」
「わたしは、仕事ですから、沢山ありますよぉ」
黒いファイルを取り出したジョンアは、パラパラページを捲り、収められた紙を抜き出した。
「それも、わたしの仕事としては、必要なものですので、コピーでも良いですか!?」
「あ、はいっ!勿論ですっ!」
ミニョが嬉々として持っている紙と同じ絵が描かれたものを差し出し、交換をしたのだった。
★★★★★☆☆☆★★★★★★★★★★☆☆☆★★★★★★★★★★☆☆☆★★★★★
「それでは、次に・・・」
ノートに書かれた質問であろう文字に次々×を記している記者を前に顔を逸らしたテギョンは、溜息を吐いていた。
「良い天気ですね」
「そうですね」
時折、カメラのシャッター音が、長く短く、不規則なリズムを拡げ、指先で膝頭を叩いているテギョンを見た記者が、横目で首を振っている。
「ソンベ達の出演は、俺にとって、いえ、俺達にとって意義があります・・・新境地といいますか・・・」
ソファに沈めていた腰を少し前に出し、次の質問を投げかけた記者を下から一睨みした。
「一曲出来た時、この曲を聞く人は、どんな思いをそこに詰めてくれるだろうと考える事が、ありますね・・・俺の思いを詰め込んで作った曲も、外に出てしまえば、それぞれ歩いたり、走ったり、子供と一緒ですよ」
「そういえば、お子様・・・あ、いえ、子供のバンドが、ご出演をされるそうですね」
俯いて質問を選んだ記者の手元を見つめたテギョンは、あがった顔に口角をあげている。
「ええ、音楽好きな子供達を集めまして・・・実験的ですけどね」
絡み合った視線に記者が肩を震わせ、天井を軽く見上げたテギョンは、髪を掻き上げた。
「実力もそれなりと伺っています」
「そうですね・・・コンサートに出ますから、仕上げています」
「奥様との共演も久しぶりですが、あ、CMも拝見いたしました」
「ありがとうございます・・・彼女も・・・プロですから・・・ブランクがあっても流石と思わせて貰いました」
「続いて、イ・ユンギssiのご出演ですが・・・」
質問を終えた記者がノートを閉じている。
「では、これで・・・ありがとうございました」
「ありがとうございます」
立ち上がったテギョンが手を差し出し、握手を交わした記者は、緊張感を漂わせながら、頭を下げ、カメラマンに歩み寄った。
「おいっ、写真を全部チェックさせろ!」
記者に礼を言いながらテギョンの傍に近づいたマ・室長は、目を丸くしている。
「え、何で、別に変なところは・・・」
「いいからっ!」
「わっ、わかった・・・編集も立ちあうのか」
「ああ、あ、まて・・・・・・いや、立ち会う」
お腹を抑え、舌打ちをしているテギョンだった。
★★★★★☆☆☆★★★★★★★★★★☆☆☆★★★★★★★★★★☆☆☆★★★★★
「カン・シヌ」
「よぉ、今からか」
「ああ、お前も!?」
事務所の駐車場で、車から降りてきたユンギに手を振ったシヌは、キーをポケットに仕舞いながら立ち止まっていた。
「設営の手伝いさ」
「いよいよだな」
「ああ、お前もデビューだな」
並んで歩き始めたふたりは、裏口に向かっている。
「止めてくれ、デビューなんて考えていない、あくまで手伝いだ」
「知らぬは、亭主ばかりなりってな」
「シィーヌゥー」
「はは、でも、配信してるんだからデビューなんて関係ないだろう」
「まぁな、けどソンベとアルバムを出すことになりそうだ・・・決まったら参加してくれよ」
肩に手を乗せたユンギの前で扉を開けたシヌは、顎をあげ、笑っている。
「有難いね、仕事の依頼か」
「客演してくれるだろ」
「アン社長がOKならな」
「許可が必要な立場じゃないだろう」
警備員に頭を下げ、ふくれっ面のユンギと可笑しそうに笑うシヌは、事務所の廊下を歩き始めた。
「はは、テギョンとセットか」
「勿論だ!あいつには、借りを何倍にもして返してもらうぞ」
「お前の望み通りの結果だろうに」
「俺の出演は、望んでいなかった」
「テギョンの胃痛作ったのお前だろう」
「カン・シヌッ!!!」
おかしな掛け合いをしながら練習室に向かったユンギとシヌであった。
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