さて、再び、ギョンセのコンサート会場から(笑)
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「父親の曲でアルバムか・・・それで、どうしたいんだ」
外の灯りを見つめながら、コーヒーを飲んでいるユンギの後ろで、自動販売機から取り出したカップに蓋を乗せたテギョンは、ゆっくり口を付けた。
「どうってさぁ、年寄りに乗せられるのは、癪だけど・・・会長だしね」
ポケットに片手を突っ込んで、外と映り込む自分とを見つめているユンギは、目元にかかる髪を払っている。
「頭があがらないって事か」
向きを変えて窓の桟に腰を落ち着けたユンギは、隣に立ったテギョンを見上げた。
「俺が家に戻って最初にやった事ってさ、オモニを会長に推して伯父貴を追い出す事さ」
「問題でもあったのか!?」
瞳だけを動かして隣を見下ろしたテギョンは、窓の外を見ている。
「ありまくりだよ・・・会社の金を使いまわして、ありもしない水増しをして、アボジに知っているのかと聞いたら、子供が口を出すなと言われたんだ」
「まぁ、ガキだよな・・・中学だっけ」
「そうさ、卒業間近の親の庇護下・・・尤も結局は庇護下でもがいてたんだろうなぁ」
「中学か・・・お前、随分早熟だったんだな」
カップを口から離したテギョンは、ポケットからチーフを取り出した。
「一生モノの恋さ」
「どこがそんなに良かったんだ!?」
胸ポケットにチーフを押し込めたテギョンは、窓で自分を確認している。
「お前は!?説明できるのかよ」
窓に向かってポーズを付けているテギョンを見上げたユンギは、鼻で笑った。
「ふ、目が離せない奴だったんだ、近ければ鬱陶しい、気になって、そわそわする」
笑われて目を細めたテギョンも笑い返し、桟を指で一撫でしている。
「恋の始まりなんて、解らないものだよな・・・俺は、初め手が触れた瞬間に目の前が真っ暗になった・・・目を開けた時、その手を離さない俺に彼女は、怪我をさせたかと聞いてきたんだ」
「どこで知り合ったんだ!?」
足を延ばし股を大きく開いたユンギは、両手でカップを握って前に屈み、隣に座ったテギョンは、腕を組んで脚を交差させた。
「ライブハウスに向かう交差点・・・彼女は、同じ店に仕事を捜しに来ていて、その帰り道、俺は、マスターに頼まれて買い物に出た帰りだった」
「子供がいたんだろう!?」
「いたよ・・・まだ、三歳にもなっていなかった・・・子供の手を引いて・・・オンマって呼ばれてた、その時、俺よりかなり年上なんだと思ったね」
ユンギの背中を見つめているテギョンは、カップに口を付けている。
「幾つ上だったんだ」
「九つ」
「っこ・・・ここのつぅ・・・おっ前・・・年増が好きだったのか!?」
口に入れた僅かなコーヒーを吹き出し、舌打ちをしたテギョンは、舌を出し指先で触っている。
「失礼だなっファン・テギョン!可愛い人だったんだ!」
「九つか・・・俺だったら・・・おばさんだと思うな」
ポケットチーフの先で指を拭き、唇の水滴を拭った。
「俺だって、他の人をそう思ってたさ、でも、彼女は、違ったんだ」
「いつ気が付いた」
笑っているユンギに唇を尖らせたテギョンは、膝を手で払い脚を組直している。
「気づきなんて無かった・・・ただ、店に戻って彼女の声を聞いた・・・マスターが、録音してた声を聞かせてくれて履歴書を見せてくれて・・・俺、ギター弾かせて貰って住み込み同然でバイトをしてたんだけど、その前から、音楽関係者に声は掛けられていたんだ・・・ただ、歌わせたい人はいないって断ってたのさ」
「自慢か・・・」
体を起こしたユンギに僅かに横にずれたテギョンは、片頬をあげた。
「はは、お前達が通ってたスクールには、バイトでも良いから来ないかって言われてさ・・・・・・俺、芸能人になりたい訳じゃ無かったけど・・・ただ、ギターを弾いてると音楽やってるのとかデビューしないのかとかうるさいからテキトーに返事をしてたんだ」
「ったく、真剣にやってる俺達からしたら、迷惑な奴だ」
「悪かったって、真剣にやっていなかったけど、俺のテクニックは、認めてくれてたんだろう」
「俺よりシヌが、認めていたんだろ・・・俺は、あそこにいた連中は、ライバルとも思っていなかったからな・・・ただ、シヌが凄いのは知っていた・・・仲間になるって聞いた時は、俺の足を引っ張る奴ならいらないと思ったけどな」
「自信家だな」
「お前に言われたく無い、お前だって自信家だから、ガキの癖にそんな事をしたんだろう」
「ガキの俺相手に本気で恋をしてくれたんだ・・・忘れられない人で当然」
「はじめてのひと・・・ね」
「初めてで最愛の人」
「俺の恋もそうだからな・・・だから、お前に出て弾いて欲しいと思ってる」
横を見たユンギは、開きかけた口を閉じている。
「年寄りの考えなんて俺には、どうでも良い、お前が書いた曲をミニョに歌わせてみたいと思ったのが俺の真実だ・・・お前みたいな恋をしてる奴が一人とは限らないだろう・・・お前の中で何かにケリがついた様に一人でも共感出来る奴がいればそれで良いじゃないか」
手を傾けたテギョンは、空になったカップを軽く潰した。
「俺もリンが何をしたいのか良く解っていないのさ・・・でも、リンは、俺に幸せをくれる・・・アッパって呼ばれて、俺に張り合ってる姿は愛しい、ミニョが俺にくれた天使は、突拍子もない事もしでかすけど、それが俺をまた次のステージに連れて行く・・・・・・ガキ相手に何を張り合ってるんだと思う事もあるけどな、そのガキが、俺を成長させるんだ・・・今回の仕事な、俺もファン・ギョンセと共演出来る事はありがたい・・・親父の背中を見て来た訳じゃないけれど、少なくとも俺に影響を与えた人の一人だ・・・俺だって、アボジがいなければ・・・オモニがいなければ、ミニョと出会う事も無く、リンをこの手に抱く事も無かった・・・」
立ち上がったテギョンは、自販機の脇にカップを捨て、大きく伸びをして振り返っている。
「昔の約束だか何だか知らないがな、俺は、俺のA.N.Jellが大事だ・・・シヌもジェルミもミナムもミニョも俺にとっては、替えの出来ない仲間だ・・・誰かに乗せられたとしてもA.N.Jellが次のステージを昇る為なら利用できるものを利用する、ソンベとアボジの参加は、俺達に新しいファンを獲得させるチャンスでもある・・・お前もスペードを大事に思うなら親父や俺達を利用したらいい」
「アッパー」
廊下の端で、顔を覗かせたリンが、大声を出し、振り返ったテギョンは、頬を緩ませた。
「ミナssiは、お前にとって娘みたいな存在なんだろう・・・一度だけの約束も結局は、お前が再始動した事で、レコーディングをさせたんだから、アルバムを録音するくらいどうって事無いだろう・・・もし仮にコンサートをするなんて話になるなら、それは、お前とソンベが決める事だ・・・俺に心臓の痛い思いをさせているんだから、お前も味わえ!」
「アッパ!」
「ああ、帰ろう」
駆けて来たリンを両腕で受け止めたテギョンは、抱き上げてユンギを見下ろしている。
「お前達の一日限定ライブにあれだけの人を集めたんだからな・・・怖いと思うのも解らないではないさ、まして、子供の背中を見ながら、自分の演奏をミスしたんじゃ、トラウマだろう!俺も気を付けないとな、毎日こいつのせいで胸が痛いんだ」
「オッパ」
首に腕を回して首を傾げたリンにニヤリと笑いかけ背中を叩かれたテギョンは、振り返った。
「挨拶は、終わったのか!?」
「はい!アボニムもホテルに戻られました」
「そうか、じゃぁ、俺達も行こう」
腕を組む様に促したテギョンに手を伸ばしたミニョは、ユンギに頭を下げている。
「ああ、そうだ・・・イ・ユンギ!」
ミニョを伴って歩き始めたテギョンは、立ち止まった。
「躊躇うくらいなら、A.N.entertainmentに全部売るのも考えたらどうだ!アン社長なら有効に使うぞ」
「お前が使うって事かよ」
「ああ、アボジが使ってた時から欲しいと思っていたんだ!」
ミニョの不思議そうな顔を一瞥し、笑っているテギョンは、組んだ腕を外して肩を抱き、再び歩き出したのだった。
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