「・・・・・・」
「言葉を失くしたお姫様は、どうなったっけ!?」
ふるふる振られる首をそっと抱き寄せるテギョンに促されるまま、肩に頭を寄せたミニョは、テギョンの手に指を絡ませている。
「復帰、チュカハンダ(おめでとう)」
「わ、たし・・・祝、福・・・し、てく、れるのですね」
「ああ、俺が、誰よりも待ってた」
「え・・・!?」
絡んだ指先を持ち上げたテギョンは、ミニョの人差し指に唇を押し当てた。
「俺が、お前の歌を誰よりも聞きたかった」
「い、つも聞いているじゃありませんか」
持ち上げられた手にバランスを崩したミニョは、テギョンの腰に回している手でジャケットを強く握り、皺をつけて慌てちらりと後ろを見たテギョンは、ミニョの腕を引いて背中から抱きしめ直している。
「ああ、いつも聞いてる、俺の作った歌を誰よりも心を籠めて歌ってくれるひと」
見下ろすホテルに映し出された映像が切り変わり、ミニョは頬を染めた。
「チャペルの音が聞こえて、俺だけの声になったんだと、これからは思う存分俺の隣で俺の歌を俺だけの為に歌って貰おうと・・・そう思ってた」
「オ、ッパ!?」
ぎゅっと絞めつける腕に少し苦しそうな表情をしたミニョは、テギョンの手に手を重ねている。
「俺の歌・・・好きか!?」
「・・・好きに決まっています」
ゆるりとお腹に回された腕に軽く胸を撫で下ろしたテギョンの質問に応えていた。
「リンの歌は!?」
「え、ああ、あの子の歌は詩というより・・・」
「ああ、そうだな、まだ、メロディだけが、先行してるな」
ガラスの向こうを見つめているミニョを見るテギョンの口元があがっている。
「いつかは、オッパみたいになります」
「欲張りだな」
「母親なんてそんなも・・・わぁぁ・・・・・・」
遠くに見える映像の変化にテギョンを背中にしたままガラスに両手をつけてへばりついたミニョは、瞳を輝かせ満面の笑みを零した。
「オッパ達も素敵です!」
「あいつらも・・・見ているかな・・・・・・・・・」
★★★★★☆☆☆★★★★★★★★★★☆☆☆★★★★★★★★★★☆☆☆★★★★★
「何が始まるんだ!?」
「お前への誕生日プレゼント!?A.N.entertainmentからだけど」
ククッと笑いを殺して答えたシヌにユンギは、きょとんとした顔を向けている。
「!?どういうことだよ」
「まぁ、見てろよ」
促されるまま向かいのホテルを見たユンギは、壁面に映し出されるカウントダウンの文字に首を傾げていた。
「A.N.Jellプレゼンツ!?」
「ああ、コンサートの宣伝だから」
「は!?それと俺の誕生日と何の関係があるんだ!?」
ユンギにシャンパングラスを渡したシヌは、笑みを浮かべて顔を見合わせたヒジュンとギョンセのグラスに酒を注ぐために腰を上げている。
「わっ、オンマだー」
「羽が付いてるー」
「ミナムssiもだー」
子供たちのはしゃぐ声にジェルミとユンギだけが真剣な顔で向かいを見つめ、シヌの注ぐ酒にグラスを合わせたヒジュンとギョンセは、顔を見合わせた。
「流石、アンだな」
「お前がやらせたんだろう」
「子供を預かってるから、親の頼みは拒めないと笑っていましたよ」
シャンパンボトルについた水滴を乾いたタオルで拭ったシヌは、笑いながら氷入りのクーラーに戻して外を眺めている。
「脅したみたいじゃないか・・・娘と孫は見たい・・・とは言ったかな!?」
「ふふ、テギョンは、見たくないですか」
移り変わる映像は、A.N.Jellの面々が映し出され、ギターを膝にしたテギョン、ドラムを打ち鳴らして汗を飛ばすジェルミ、涼しい顔でベースを弾くシヌ、マイクを手にしてリズムの調整を繰り返しているミナムと次々変わっていた。
「あいつは、ずっと表舞台にいるだろう!でもコ・ミニョの活躍は久しぶりだ!何しろテギョンの奴、今までもこっそり撮影をしていた癖に教えてくれなかったからね」
「・・・もしかして・・・リンもですか!?」
外壁の映像は、スペシャルゲストの文字と共にミニョの名前と映像、ヒジュンの映像が流れている。
「そうなんだ、可哀想だと思わないかい!?私にはたった一人の可愛い娘と孫なのに出来上がったものをどうぞとくれたんだよ!わたしはオフのサヂンが欲しいのに」
ギョンセが拗ねた口調で、口を尖らせ、きょとんとしたシヌは、顔を逸らした。
「あれだって出来上がったものじゃないか」
シヌの忍び笑いにヒジュンが呆れた声を出して外を指さし、向きを変えたギョンセは、ひとさし指を立てて左右に振った。
「何が違うんだ!?」
「いや、違わない、が、テギョンがくれない撮影の裏サヂンをたくさんもらった」
満足そうな顔で笑うギョンセに呆れた表情のヒジュンも笑っている。
「親馬鹿だなぁ」
「そう言うな、お前だって家族の写真を大事にしているだろう」
左胸を抑えたヒジュンは目を細め、シヌに向かってウィンクをしたギョンセの前で、立ち上がったユンギが、ぐるんと勢いよく振り返った。
「ぅっ、なっ、な、な、なんだーーーーーーーあれーーーーー」
「うわぁ・・・すっごっ・・・ソンベもいつの間に・・・・・・」
ユンギの立ち姿に遮られた視界を脇に避けて外を見続けるジェルミは、ヒジュンのスタジオ風景に楽しそうに笑い、子供たちも手を叩いた。
「シシシシシシ、っカン・シィヌーーーー!!!!」
涼しい顔で運ばれてきたお茶を受け取ったシヌは、声に目を見張ったスタッフに軽く手をあげ会釈をしている。
「俺は、知らない」
ユンギも軽い会釈をして、頭を下げて去っていくスタッフの後ろ姿に罰の悪い顔をした。
「嘘をつくな!お前が見てろと言ったんだぞ!」
「アン社長と契約をしたのはお前」
「あんな契約はしてないっ筈だ!」
外に大きく指を向けたユンギの立ち姿を皆が見上げ、直にまた外を見ている。
「書かれていただろ・・・テギョンも知ってた、お前のギターが良いらしい」
「いっ、そ、それは嬉しい!が、だからといってあれは無いだろうー」
相変わらずユンギの脚に視界を遮られているジェルミが、椅子に両足を乗せ、座席の上を動いて、ユンギもシヌの隣に移動して腰を下ろした。
「は、もう、無理だな・・・俺達以外にも大勢の人が見ている」
映像は、A.N.Jellとコ・ミニョのアルバム発売の告知をしている。
「どんなプレゼントだよー」
頭を抱えてテーブルに肘をついたユンギにシヌもギョンセもヒジュンも忍び笑いを浮かべ、湯気の立つティーカップを持ち上げたシヌは、脚を組んでユンギの背中を叩いた。
「ソンベのサプライズよりもビッグなプレゼントだな」
「プレッシャーだろう!歌は書いたけど出演なんて了承していないぞ!録音でも良いってテギョンが言うからぁ・・・・・・」
「今更だな、テギョンに選ばれた時からお前のギターが良いと言われていただろう」
「もしかして!テギョンの仕返しかー!?」
テーブルに突っ伏したまま、顔だけ横に向けたユンギにシヌが口を開きかけたが、子供達の声が遮っている。
「わっ、僕たちだよー」
「わぁ、本当!いつ撮ったんだろう」
膝立ちで窓ガラスに手を付いた子供達は、窓に額を付けてへばりつき、ジェルミもすぐ後ろに近づいた。
「影だけだね・・・来てくれるファンへのサプライズだからね」
終盤に向かう映像のコンサートの日程が映し出される画に天使の姿をした子供の影が三つ写っている。
「お前達にも十分大きなプレゼントだろう、本番も直だ!頑張れよ」
「「「はーい」」」
ヒジュンの声に映像の終わりを見届けた子供達が振り返り、突っ伏したままのユンギは、ぶつぶつ文句を並び立ててシヌの膝を殴り、ジェルミに向かって腕を伸ばしたリンは、抱えられて、ユンギの背中を押しつぶしながらシヌの腕を介して、ギョンセの膝に座り、食事の続きを楽しんでいたのだった。
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