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「どうだ!?」
「行ったな・・・けど、隠れる必要なんてあるのか!?」
ホテルの大広間へ続くエレベーター横のスペースで、ジャケットを肩に掛け、テギョンとミニョの背中を見送ったヒジュンは、ガラス窓から街並みを見下ろし、苦笑を漏らしているギョンセを振り返った。
「お前には解らない親子関係があるのさ、それに週末に帰国すると思っているんだろう」
「ああ、この前、コ・ミニョが、仕事のついでに挨拶に来たが、あれは、ファン・テギョンに何かを頼まれたんだろうな・・・落ち着きがなくて、お前のスケジュールを見つけて食い入るように見てた・・・解りやすい娘だ」
「そうか・・・リンにアレンジをさせろと譜面を送ったからな・・・テギョンが、何か気づいてるかもしれないな・・・」
並んで歩き出したふたりは、広間ではなく、従業員専用扉へ向かっている。
「ところで、コンサートの方はどうなんだ!?」
「ああ、コ・ミニョのソロはレコーディングも終わりだ・・・俺の方は、ジェルミとのデュオを少し手直してアルバムに入れさせてもらう、A.N.Jellもアルバムを先行させるそうだ」
「そうか、忙しそうだな・・・ステージもテギョンが作っているだろう」
「ああ、そうだな、タイムスケジュールを決めたりと、お前の息子には本当に頭が下がるぞ!俺なんて、スタッフに任せっきりだった」
「何でも自分でやらないと気が済まないのさ・・・昔からそういう子だったよ」
「孫の方はそうでもないだろう・・・どちらかというともっと要領が良いぞ」
「ああ、そこはあまり似てないか・・・まぁ、まだ子供だからな」
努力する天才と奇才の違いを話しながら、ふたりは笑って扉に消えていった。
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「じゃぁ、次、ですね・・・」
パーティを楽しみ、歓談をしている招待客の前で、ユンギ宛のプレゼントを紹介しては、マイクパフォーマンスを繰り拡げ、客を沸かせているヒジュンの元へ支配人が耳打ちをしたのは、2時間程後の事だった。
「用意が、整った様です」
「そうですか、ありがとうございます」
小さな壇上の真ん中にいるユンギに向かって、指先で合図を送ったヒジュンは、頷いた顔を確認して、深呼吸をしている。
「では、最後になりますが、皆様にも馴染みのありますソンベから、本当は、サプライズプレゼントだったそうですが、ユンギssiは、既に中身を知ってしまい、サプライズでも何でもないのがとても残念だとお話をいただいていますが・・・」
ヒジュンの傍に立ったユンギが、マイクを受け取った。
「ええ、たまたま遊びに行って見つけてしまったんです!俺へのプレゼントですが、皆様も楽しんでください!」
会場に笑顔を向けたユンギは、そのまま壇上を下り、広間の三分の一ほどのスペースに設けられたカーテンを潜っている。
「ね、オッパ!何が、始まるのですか」
「さぁな、俺が知るか」
テギョンの腕に腕を回しているミニョは、シャンパンの入ったグラスの何杯目かを空け、素っ気ないテギョンの不機嫌さに何度目かの溜息を吐いた。
「もー、オッパ、機嫌を直してくださいっ」
「ふ、ん、そう簡単に直るものか」
「う、んー、もう!皆さん私の復帰を喜んでくれただけですよー」
上目遣いの瞳で、笑顔を向けたミニョは、回したままの腕を引き寄せて指先を絡めている。
「皆さん!?皆さんね・・・お前の知り合いは、男ばかりだな!」
「そんな事ないですっ!オンニだって一杯いますっ!」
突き出した唇に僅かに光る水滴を舐めとったテギョンは、ほんのり赤い顔で、首を傾げて黙ったミニョの空になったグラスに水を注いだ。
「ああ、確かに・・・居たには居たが、俺の知らない奴等ばかりだったな」
「あれはぁ、ヘイオンニとかミナムオッパのお友達ですものー、お食事に誘ってくれたり、引退前は、凄く良くしていただいたのですよー」
「俺の知らないところで、随分、楽しそうだ」
また新しいグラスに手を伸ばしているテギョンにミニョの手が重なっている。
「オッパが居ない時に遊んでいただいたんですってばー」
「それが気に入らないって言ってるんだ」
「そんな事を言われたって・・・」
重なったミニョの手を見つめたテギョンは、外された腕からミニョの顔に視線を移し、ふわりと伸びて頬に触れた白い手に小さく首を傾げた。
「痴話喧嘩なら帰ってからにしてよー」
「あ、ジェルミ!あれ、シヌオッパは!?」
「ふふ、子供たちとあっちに借り出されたわ」
ユナが指差した方向を見たミニョは、触れたままのテギョンの頬の上で掌を動かし、背中を向けたまま、ゆっくり首筋を滑った手にテギョンはぎょっとしている。
「えっ!?」
「なっ・・・」
「まぁ、可愛いらしい」
「素敵ー」
「ほぉー、弾けるのか!?」
「あら、ファン・ギョンセssiですわね」
「シンフォニー」
会場のあちこちから溜息と拍手が聞こえ、カーテンの向こう側から現れたギョンセにテギョンの眼は増々見開かれた。
「あれー、アボニム(お父様)がいます」
「・・・・・・・・・」
「オッパ!ご存知でした!?」
流れ始めたオーケストラの交響曲にギョンセを見たまま黙り込んだテギョンは、掴んでいたミニョの手を首から剥がし、腕を引いて顔を覗いている。
「知る訳ないだろう・・・お前・・・確か帰国は、週末って言わなかったか」
「はい・・・週末って書いてありました」
テギョンの片腕の中に収まったミニョは、背伸びをした。
「やられたな・・・年寄り共・・・やっぱりコンサートで何かやるつもりだ」
「コンサートに出られるのですか!?」
腕の中で左右に動いて、背伸びをしてと忙しく動くミニョの腰を引き寄せたテギョンは、つま先立ちのミニョを支えて、居並ぶオーケストラの端を見ている。
「あ、ああ、いや、ソンベは、出てもらう事が決まっているんだが、曲目が決まらなくて・・・何か考えがあると言ってたから・・・・・」
唇を突き出して数度動かしたテギョンは、ミニョの耳にぴったり顔をくっつけた。
「アボジが、リンに妙な物を送ってきただろう・・・嫌な予感はしなかったか!?」
「ああ、リンが、弾いてたやつですかぁ!?」
オーケストラの端に置かれたピアノの前で、ギョンセの指揮に合わせて見よう見真似で腕を振っているリンに手を振られたミニョも振り返し、その手を掴んだテギョンは、増々ミニョをきつく抱いている。
「何かしていたのか!?」
「うん、家で、ピアノを弾いて、直して・・・書いて・・・弾いて・・・いつも思いますが、やっぱり、オッパみたいですよね」
テギョンに掴まれた腕と反対の腕をあげたミニョは、まだ手を振っているリンに手を振り返し、譜面台の紙を捲ったギョンセも指揮をしながら僅かに振り返った。
「オッパに一番に聞いて欲しいからですよね」
「あん!?」
「完成されたものをオッパに一番に聞いてほしいのですよ!リンは!直されても良いから自分で納得したものをオッパに聞かせたいみたいです」
「そうなのか!?」
ギョンセにも手を振ったミニョの両腕を掴みあげたテギョンは、ミニョをくるんとひっくり返し、振り返ったミニョは、両腕を上げたままテギョンを見ている。
「良い子でしょう」
「俺の子だからな」
「むー、私の子供です!リンは、あげませんっ!」
万歳の姿でテギョンのニヤリと片頬だけをあげた顔にふくれっ面のミニョは、半円を描きながら下ろされた手に抱きしめられた。
「親ばかも帰ってからやって!」
呆れた顔で抗議したジェルミが、ユナを伴って二人から離れている。
「アボジがいるとなると・・・」
「なっ、何ですか!?」
「いや、楽しい夜になりそうだな!コ・ミニョ」
ミニョを抱きしめたまま楽しそうなテギョンは、音に身を任せて揺れていたのだった。
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