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ハンドルを握っているテギョンは、アクセルを緩めながら、チラチラ横を見ていた。
「ふ、ふふ・・・ふふふふ・・・へへ・・・っ、くっ・・・ふっふふ、ふふふ」
口元を両手で隠して緩んだ頬を手のひらで持ち上げ、下を見ているミニョは、狭い助手席で小さく足踏みをして、ずっと笑い続けている。
「・・・っ・・・不気味だぞっ・・・・・・」
呟きを吐き捨てたテギョンに慌てて顔をあげたミニョは、溜飲を下げ頭も下げたが、緩みきった頬はあげられず、身体を折った。
「っす、すみません・・・嬉しくってっ!つい・・ふっへ・・・はっはは・・・・」
「・・・・・・礼なら他に仕様があるだろうに・・・・・・」
ぼそぼそと呟きながら、アクセルを踏んだテギョンは、それでも楽しそうな顔で、ミニョからは見えない口角をあげている。
「ふふ、オッパありがとうございました」
ひとしきり、笑いを堪えたミニョは、深呼吸をしながらテギョンを見つめ、再び緩んだアクセルにブレーキを踏んで横を向いたテギョンが腕を伸ばした。
「小さな礼なら今受け取ってやるぞ!右か!?左か!?」
「へ!?」
「ほら!早くしないと信号が変わるだろっ!」
信号とミニョと行ったり来たりする瞳に人差し指で頬を指したテギョンだったが、相変わらず恍けたミニョの表情に舌打ちをして前を向きアクセルを踏んでいる。
「鈍感なのか・・・演技なのか・・・俺がまだ甘いのか・・・」
呟かれる独り言の言葉数が増え、きょとんとしているミニョは、首を傾げて瞳をくるくる回した。
「オッパ!?まだ、怒っているのですか!?内緒にしていたのは、悪かったですけど・・・」
ラジオの話を始めたミニョを横目でチラリと見たテギョンは、小さく長い溜息を吐いている。
「別に・・・怒ってない・・・」
不機嫌丸出しの尖った唇に顔を顰めたミニョは、暫くしてクスリと笑いテギョンを見た。
「じゃぁ、何ですかぁ」
「チッ!良いか!コ・ミニョ!あ・・・ああ・・・っと、そのだな」
「何ですぅ!?」
現金な甘えた口調と下から覗き込むミニョの顔に僅かにハンドルをぶれさせたテギョンは、ヒクリと喉を動かし、慌てて咳払いをしている。
「あっ、危ないから・・・ちっ、近づくなっ!」
「ん!?どこか変ですか!?」
必要のないシフトレバーに手を置いてミニョを牽制したテギョンにミニョは、自身の胸に手を置いて、きょろきょろ左右を見回した。
「そっ、そうじゃない・・・・・・・・・・・・・・・綺麗だ・・・」
「・・・・・・え・・・・・・・・・あ、ありがとうございます・・・」
溜息交じりのはっきりした一言が、ミニョの頬を染めている。
「いや、ああー、だからっ!チッ!俺が言いたいのはなぁ!」
「はい・・・」
自身の顔を手で扇ぎ始めたミニョは、エアコンの吹き出し口を弄っている。
「コ・ミニョ!お前、今日のラジオの冒頭で何の話をしたっ」
「冒頭!?」
流れる車窓に首を傾げたミニョの後頭部をチラリと見たテギョンは、髪に揺れている飾りに軽く触れた。
「そうだ!コ・ミナムのメッセージを読んだんだろう!」
「へ!?あ、ああ、なーんかヒョンニムが、ミナムオッパの格好をさせてレッスン受けさせた・・・って、アレですか!?」
「・・・っそうだ!」
「この前のトレーニングウェアの件ですよねぇ・・・」
シャラリと音をたてた髪飾りに笑顔を零したミニョも髪に触れながら、テギョンを見ている。
「そうだ!」
「それが・・・何か・・・」
「何かじゃない!お前、ジェルミの質問に何て答えた!」
「・・・・・・・・・何でオッパが知っているのですかぁ!?ラジオは聞いていないって・・・」
むむむと唇を突き出したミニョのふくれっ面を横目で睨んだテギョンは、丁度ハンドルを大きく切り替えした。
「聞いていなかったさ、お前が出演していると知ったのは、30分も後だからな」
「えっ!?じゃぁ・・・何で!?」
「ふ、ん、お前、俺には言わなくても何時のラジオだと言って出て行っただろう!」
ホテルの駐車場へ滑り込んでいく車に首を傾げたミニョを尻目にテギョンはニヤリと口角をあげている。
「へ!?・・・あ、ああ・・・そか、リ・・・ン・・・ですねぇ」
「・・・・・・そうだ!あいつは、最初から全部を録音してた」
「あ・・・・・・ええーと・・・と・・・いうことは・・・」
「ああ、お前の目下の楽しみは、妻よりも・・・」
エンジンの止まった車に助手席のドアに手を伸ばしたミニョの膝に手を置いたテギョンが首を振り、運転席のドアを開けた。
「ちっ・・・」
「違わないだろう!・・・はっきりさせろ」
後部シートに放り投げてあったジャケットに腕を伸ばしたテギョンは、先に車を降りて、助手席に回り込み、ドアを開けている。
「なっ、何も!はっきりさせることなどないです!事実です!」
「ほぉぉ・・・俺は、いつから二番目になった」
開けたドアからミニョに手のひらを差し出し、降りる様に促して顔を近づけたテギョンをミニョは、駐車場へ下ろした足元を見つめてからゆっくり見上げた。
「なって・・・ないですっ」
「二番目って言ったんだろうが!」
こつんと少し強めにぶつかった額にミニョは片目を閉じて、瞳を潤ませている。
「言って無いでっすっ!」
「ふ・・・ん・・・リンの機嫌はな!ものすごく良かったぞ!!」
頭を押さえて車を降りたミニョを連れて車の後部に回ったテギョンはトランクを開けた。
「オッパの機嫌は悪いのですかぁ!?」
「良かったんだけどな!思い出したら腹がたってきた」
旅行用の大きなスーツケースをトランクから取り出したテギョンは、額を押さえたミニョの手を掴んで歩き始め、きょとんとした顔で、テギョンの手を掴んで引きずられる様に歩き出したミニョは、傾けた顔でスーツケースを見ている。
「どうしたら、機嫌を直してくれますかぁ」
「何も!?」
「へ!?」
「何もしなくて良いぞ・・・」
駐車場から続く関係者用と書かれたエレベーターの前で立ち止まり、ボタンを押したテギョンにミニョは不思議な顔を向けた。
「ね、オッパ・・・それ・・・何ですかぁ!?」
「着替え」
「はっ!?」
「リンの奴があまりに機嫌が良いから、説得するのに苦労したんだ」
開いたエレベーターに乗り込み、最上階を押すテギョンにまたまた不思議な表情のミニョは、首を傾げて、瞳をくるくる回している。
「!?何の説得!?」
「ああ、正確には、取引だったな」
「とっり・・・ちょ、オッパ!」
あっという間に辿りついた最上階で開くエレベーターにポケットからカードキーを取り出したテギョンは、ミニョの肩を抱いて、スイートルームに消えたのだった。
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