「おい!どういうつもりだ」
「どういうことさ!ヒョン!」
車から降りたユンギに重なるつもり等毛頭ない声が重なって、奏でたハーモニーに渋い顔をして互いを見たテギョンとソンジュンは、チッと舌打をしたテギョンが、大きく顔を逸らし、ソンジュンもまた、ぶすくれて顔を逸らしていた。
「聞いてないのは、俺も、だけどな・・・」
シヌは、不満そうにボンネット越しにユンギに声を掛けたが、既に察しが付いているのかその声は、笑いを含んでいる。
「良いだろ!飯を食うだけだよ」
それだけで終ると思っていないテギョンとソンジュンが、また顔を見合わせ、それでも黙ってユンギの後をついて行った。
★★★★★☆☆☆★★★★★
「ランチコースで良いよね、テギョンは、食べれないものがあるから・・・」
ウェイターにメニューを返し、皆の顔を見合わせたユンギは、向かいに座っているシヌに笑顔を向けている。
「ああ、そうだな、軽い食事のつもりだったし、それで」
快晴の拡がる空の下、三階のテラスに通された4人は、丸いテーブルを囲んでいた。
「で、ユンギは、何の相談をされたんだ」
顔は正面に向けたまま、ソンジュンをちらりと見て、ユンギを見据えているシヌは、唇を尖らせて、椅子にどっかり座っているテギョンをもまた横目で見て、ぶすくれた表情のふたりに苦笑を零しながら、ユンギに会話を持ちかけている。
「ああ、契約をするのはね、吝(やぶさ)かでは無いけど、自分が使いたいのは、別な人だから、どうしたら良いだろうって啼いてたんだよ」
ユンギもまた、シヌを正面で捉えたまま話に乗り、遣って来たウェイターが、注いだグラスの水へ可笑しそうに視線を移した。
「へぇー、啼いたのか、その人の代役は!?いないの!?」
揺れる水面を両脇から睨みつけているテギョンとソンジュンの顔が映り、順番に注がれた水にシヌが、真っ先にグラスを持ち上げている。
「いや、見つかってはいるらしいよ、それも、結構似ているから遠目なら全く区別はつかないらしい」
「遠目だけ!?」
「いや、近くてもさ・・・」
「どういうつもりだよ!」
緩めた頬で水を煽り、向かい合って、ククと喉の奥で笑っているシヌとユンギに黙って聞いていたテギョンが、グラスの脚を掴んで、ギロッ、ギロッと左右に視線を向けた。
「ミナムssiをこいつに進めに行ったんだろう」
ソンジュンを指差し、事情をさらけるユンギに正面に瞳を向けたテギョンが、大きな溜息を吐いてグラスを煽っている。
「ふ・・・ん、受けるかどうかは、また、ご・じ・つと言ってたぞ」
目の前にいるのにいない風を装って、あさっての方向を見ているテギョンにユンギが、クスクス笑い、ソンジュンは、テギョンを睨み返した。
「うん、それでさ、先に俺に泣きついてきた訳よ、ミニョssiは、諦めるにしてもシヌには、降りて欲しくないってさ、それで、お前達が話した件で、ユナssiの事務所から連絡を貰ったんだ・・・だから、シヌにも来て貰ったのさ」
「ユ、ナ!?」
唐突な名前にシヌが怪訝な顔をして、グラスで音を立て、水で咽(むせ)ている。
「うん、シヌとの共演なら受けても良いって、丁度、映画の撮影が終る頃で、PRにもなるから、歓迎するそうだよ」
「ヒョン、聞いてないっ!!」
驚いた表情で、腰を半分浮かせたソンジュンが、テーブルで軽く音を立てたが、鋭い一瞥を与えたユンギの前に慌てて腰を降ろした。
「お前は、黙って聞いてろ!そもそも、ミニョssiを使いたかったら、テギョンに礼を欠いたお前の負けだ!過去の事を引き摺らないと約束したから、俺も話に乗ったんだ!そうでなければ、俺も考え直す!」
普段より低いユンギの荒げた声にシヌとテギョンの背中が僅かに動き、息を呑んだソンジュンも胸に手を当てて唇を噛んでいる。
「ミナムじゃなくて、キム・ユナを使うというのか!?」
「そう!だって、この話、元々テギョンの希望でしょ」
くるりとテギョンに顔を向ける間に表情を変えたユンギにシヌが微かに苦笑を漏らし、テギョンはユンギを凝視した。
「なんでお前がそれを知っている!?」
眉間に皺の寄るテギョンに料理を運んできたウェイターが、運悪くその表情の前に立ち、ぎょっとして置いた皿で音をたて、響いた音にテギョンの視線が上下している。
「ミニョssiから聞いた」
「は、ぁぁ!?いつだよっ!」
テギョンの大きな声に固まってしまったウェイターの腰に軽く手を添えたユンギが、穏やかな表情で頷くと、恐々とした表情で頭を下げ足早に後ずさった。
「この前、ジュノを送って行った時にねー、シヌが付き合ってるなら、話もしやすいんじゃないかって言ってたよ、それに、イメージも自分よりシヌには、ピッタリ合うだろうって、さ」
「あ、いつぅー反対してたくせに何を勝手に!!」
去っていったウェイターに苦虫を噛み潰した表情のテギョンは、テーブルの上で拳を握り、この場にいないミニョへの怒りを顕にしたが、ちらりと視線を落としたユンギは、シヌを見た。
「シヌは、どう!?恋人だと請け辛い!?なら、もう一度考え直すけど・・・」
「お前にそんな情け深さがあるのか!?」
運ばれた料理に既にナイフを充てていたシヌは、涼しい顔で口に運んでいる。
「えっ、やだなぁー、俺は、いつでも謙虚だろう」
テギョンとソンジュンもそれぞれに食事を始め、フォークを手にしたユンギは、皿とシヌの顔を交互に見つめ、シヌが僅かに視線をあげた。
「さっきのは、前振りね・・・・・・」
溜息と共に噛み砕く料理の隙間でぼそりと呟いたシヌに口に入れた料理の感想を漏らしているユンギは、にこにこ笑っている。
「で、どう!?」
「ああ、ユナが良いと言ってるなら、俺も構わないけど」
「テギョンもそれで良い!?」
頷いたユンギは、皿から視線をあげる事無くテギョンに訊ね、テギョンは、シヌを横目で見ながら、ナプキンを手にして低い声を出した。
「お前・・・どんな手を使ったんだ!?」
「何もしてないよ、あー、でも、ちょっと、俺が、テレビに出るかなぁ」
「「!!!!!!!!!」」
フォークを口に運び、唇の前で止めたシヌとうっかり口に入れてしまったテギョンは、喉に料理を詰らせて咽び、慌ててグラスを手にしている。
「ヒョ、ン!?」
「ちょっとねー、ソンベに嵌められてさぁ・・・来週のトークショーに出る事になっちゃったかなぁ」
咳き込むテギョンにクスクス笑ったユンギは、視線が合うとにっこりした。
「か、なぁって、お前・・・スペードとし・・・てか!?」
「違う・・・・・・ん、けど、音楽家・・・としてなのかなぁ」
「はぁぁ!?何で、お前が」
ナプキンで口を覆ったテギョンは、恍けた顔で上を向いたユンギを胸を擦って凝視していて、シヌが、食事を中断している。
「アルバムの関係か!?」
「ううん違う、けど、こいつソンジュンのCMのメッセージソングを引き受けちゃったから、そのせいで、嵌められたんだけどね」
「今、流れてるやつ!?」
「そう、あれ、俺が作ったんだ」
ソンジュンを見たユンギにシヌもそちらに顔を向け、まだ、僅かに咽ているテギョンに心配そうな顔を向けた。
「お前の曲だったのか・・・」
「そう良い曲だろう」
「ああ、かなり、ポップで良い曲調だったな」
「うん、ミニョssiの曲を作ってる時にボツにしたやつなんだけど、こいつに聞かせたら、お気に召してさ、こっちに渡した」
ユンギもテギョンに顔を向けシヌとユンギの視線に顔を上げたテギョンは、大丈夫だと頷いている。
「ミニョに作ってた曲は!?出来たのか!?」
「うん!出来てるよ!後は、そっちの意見を聞くだけかなぁ」
ナプキンを口に当てたまま、大きな溜息を吐いたテギョンに身体を向けたユンギは、にこにこ笑って、その顔をまじまじと見たテギョンは、また溜息を吐いてナプキンをテーブルに置いて立ち上がった。
「おっ、前らなー!!!本当にどいつもこいつもっ!!!!」
「テギョン」
知れっとした顔で立ち上がったテギョンを見上げたユンギに顔を逸らしたシヌが、薄く笑っている。
「なんだよっ!!!」
「俺達、お前が好きなだけだから、気にするなよ!」
「!!!!!!ふっざっけるなぁーーー」
ぷるぷる震える拳を握って、叫んでいるテギョンであった。
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