(何でだと思う!?)
「何でって・・・お前が選ばれたって事だろう」
(いや、だからさ、何で、俺!?)
「さぁな・・・俺は、てっきり、ミナムだと思ってたけど」
(俺は、テギョンかシヌだとばかり・・・)
「ソンベの考えてる事だからな・・・テギョンを納得させる為に作った曲なんだろう」
(そう、だけど・・・これ、デュエットだぞ)
「それだけなのか!?」
(いや、もう一曲入ってた・・・けど、ああ、そういえば、お前も作ったんだろう)
「ん・・・ああ、俺のは・・・」
(それ聞かせろよ)
「ふ、そうだな・・・明日でも良いか」
(ああ、楽しみにしてる)
★★★★★☆☆☆★★★★★
「オッパ!ここ!どうしたら良いですかぁ」
「ん・・・ど、こだ!?」
地下スタジオに篭りっきりのテギョンにミニョと一緒にボイストレーニングを受けていたリンは、ピアノの音を子守唄にミニョの膝で早々に眠りについてしまい、今は、対角線に設置されたソファでスヤスヤと寝息を立てていて、ミニョは、立ち上がってうろうろしているテギョンを見上げていた。
「煩く、ないのですかねー!?」
テギョンに譜面を見せながら、少し離れているとはいえ、同じ空間にいる事を気にしたミニョが、リンを振り返り、近づこうとしたが、テギョンの手がそれを止め、緩やかに首を振っている。
「放っておけ、ここに居たいと言ったんだ」
「そうですけど・・・」
ミニョの譜面を覗き込んだテギョンは、持っていたペンでミニョの指差した箇所に印をつけ、遠慮がちに歌ったミニョを睨みつけた。
「昼間の練習でも疲れてるだろうし、第一あいつは、これ位の音じゃピクリともしないさ・・・むしろ、丁度良い子守唄だろう」
喉を指差して、声を張るようにミニョを促したテギョンは、高い声を出したミニョを満足そうに見つめ、ピアノを正面にして立ったまま鍵盤を抑えている。
「ふふ、嬉しそうな顔をしてますよね」
テギョンの流すピアノの旋律にリンを見たミニョは、嬉しそうに口元を緩めて眠っているリンに目元を緩めて笑った。
「お前も嬉しいだろう・・・俺にありがとうは!?」
向こうを向いているミニョの顔を覗き込み、ペダルから下ろした足で、椅子の脚を引っ掛けて器用に前に引っ張るテギョンの行動にカーペットを擦る小さな音が、向きを変えたミニョの頭を床に釘付けにしている。
「リンのお願いを叶えてくださって、感謝してます」
俯いたまま、動いていく椅子に視線を向けているミニョは、淡々と答え、徐々に傾げられた首が、ツと動いて顎を捉えた指先に振り上げられ、トスンと座ったテギョンと視線を併せた。
「お前に感謝されるなら、こっちが、良いな」
「ヘ!?」
見合わせた顔で、顎を持ち上げられて、肌を滑った親指が、ミニョの唇の上を左右に動き、ピタリと止まると少し押し込むような仕種をしている。
「いっ・・・」
「何だよ・・・好きだろう!?」
「えっ、あ・・・ああ・・・えと・・・きです・・・よ」
動き続ける指先に視線を上下させて、テギョンの顔を見るミニョは、その身を小さくしながら、座っている椅子の両端を掴んだ。
「愛してる、は!?」
「あっ、愛してます」
「俺だけ」
「オッパだけ!?」
「俺以外いらないだろ」
「オッパ以外・・・・・・!?・・・オッパ!!!ふざけていますか!リンは、別です!」
反復する答えに嬉しそうに傾いた顔が、ミニョの頬に口付を落とし、ふわりと触れた唇が、ニヤリと歪んで、動いた視線の先にククッと笑を零すとミニョの視線が同じ方向を確認してテギョンの体を押し退けている。
「チッ!もう少しだったのに」
「も、オッパ!意地悪するなら、歌いません!」
ククククと笑い続けるテギョンにキュッと抱きしめられ、腕を回して抱きしめ返したミニョは、けれど壁を見つめながらぷっくり膨れて首を振った。
「ぅん、ちょっと待て、これは、お前の為のレッスンで、俺が、特別講師をしているのになんだその態度・・・」
ミニョの肩を掴んで引き離した腕が、真っ直ぐ伸びて腕の長さ分だけ距離を作るとミニョの僅かに届かない手が、テギョンの手首を掴んでいる。
「オッパの特別講師は嬉しいです・・・でも、これ、オッパの曲じゃないですよね」
「ん・・・ああ、何だ・・・解ったのか」
譜面台に置かれた紙に視線を送りながら、テギョンに促されるまま、体の向きを変えたミニョは、左手だけ鍵盤に置いたテギョンの指先から紡がれ始めた音に耳を澄ました。
「何となく違うかなぁって・・・」
「ふん・・・シヌが作った曲だ」
「シヌオッパの!?」
ミニョの肩に回されていた右手が、頭を越え、越える仕種に頭を下げたミニョが、後ろに身を引きながら、テギョンの腕越しに譜面を見続けている。
「ああ、A.N.Jellのアルバム用に何曲か持ってきた内の一つだ」
「シヌオッパの・・・ああ、だから、なんか元気を出しなさいって感じがしますね」
「あ!?」
嬉しそうに笑って鼻歌を口ずさんだミニョにテギョンの指先が、濁った音を奏で、ぎょっとしたテギョンは、横を向いて、テギョンの指先を見たミニョは、テギョンに舌を出して笑った。
「うーん、何ていうかぁ・・・オッパのとは、やっぱり違いますねー」
「ほー、面白い・・・批評をしてくれるんですねコ・ミニョssi・・・では・・・ファン・テギョンの曲は!?」
「オッパの曲は・・・・・・・・・なんですか・・・」
ピタリと止んだピアノの音に上を見ていたミニョの瞳が、そろーり横に動かされると、ピアノの蓋に軽く肘を乗せたテギョンが、ミニョに向きを変え、真顔でじーと見つめている。
「何だよ・・・続きは!?」
「つっ・・・続き・・・」
「そう、俺の曲は!?コ・ミニョssi・・・どう聞こえるんですかね」
ジトリとミニョを見つめる目にピタリと止まったミニョは、少しずつテギョンの動きに併せてジリジリ後ろに下がり、お尻が半分落ちかけて、手を掛ける隙間が無くなった手が、宙を彷徨い後ろに傾い体をテギョンが、腕を伸ばして支えながら、更に間合いを詰めた。
「どっ!?・・・ちっ、近っ・・・」
「どう聞こえるんだ・・・ミニョ・・・」
ふたりの距離は更に近く、テギョンがミニョを引き寄せて、ミニョの後頭部に回ったテギョンの手のひらが、顔を引き寄せながらニヤニヤ笑うとミニョが首を振りながら、驚愕の表情を浮かべている。
「オッパ・・・離っ・・・」
「オンマー・・・ぁーにしてるのー!?」
今、正にテギョンが再びミニョに唇を合わせようとしたその時、眠そうな声が、対角線からかかり、椅子の上でしなやかに背中を逸らしていたミニョの顔が、リンの居るソファを見た。
「リリリリリリンっ!!!」
「オンマー、熱っいのー、お風呂入りたーい」
目を擦りながら、掛けられていたタオルを剥ぎ取り、床に脚を下ろしたリンは、俯いているが、慌てたミニョが、テギョンの体を押しやって立ち上がり、パタパタと駈け寄っている。
「ん、ああ、そっ、そうですね、おっ、お風呂、お風呂入って寝ましょうねー」
リンの背中に手を添え、テギョンを一睨みしたミニョは、きょとんとしたテギョンの顔に頬を引き攣らせながら扉に向かった。
「ふぁーい、アッパ・・・バイバーイ」
「・・・・・・・・・バイ、バイ・・・・・・熱い!?・・・・エアコン十分効いてるぞ・・・・・・」
振り返る事無くミニョに促されるまま、リンは、テギョンに手を振り、苦笑いを浮かべたミニョは、リンを連れ出している。
「チッ!いっつも、良い処で邪魔をする・・・」
テギョンの呟きだけが夜のスタジオに虚しく響いていたのだった。
★★★★★☆☆☆★★★★★★★★★★☆☆☆★★★★★★★★★★☆☆☆★★★★★
やっぱり、ふたりの邪魔をするリンチョアね( *´艸`)
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