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「・・・こんな時間、から・・・か」
トンと前に置かれたボトルを見つめ呆れた表情のテギョンは、U字に上がる口角を見て、首を振りながら溜息を吐いている。
「いいだろぅ!大体さぁ、素面(しらふ)でテギョンに対抗する勇気を生憎、繊細な俺は、持ち合わせていないんだよね!」
それにテギョンが舌打をして、うわばみがと呟いたが、綺麗に無視したユンギは、足の付いたグラスをふたつ、指の間に挟んで、一つをテギョンの前に置き、もう一つを自分の前に置いて、オープナーを持って待っていたウェイトレスにこちらでやると手を差し出し、料理やデザート、飲み物を運んでいた他のスタッフ達も一通り並べ終えて、ごゆっくりと告げて部屋を出て行った。
「なぁ、ヒョン達・・・他の部屋じゃなくて良いのか!?」
ミナムが、まあるく白いケーキを目の前にそれをスプーンで掬い、自分の口とリンの口に交互に運んでいて、ミナムの方を向いて、差し出されたスプーンをパクンと咥えたリンが、ちらりと上を見上げ、横目でテギョンを確認し、リンの口からスプーンを抜こうとしたミナムが、抜けない事に横を向いている。
「ああ・・・別に・・・」
「何してんだ・・・お前」
テギョンが、返事を返そうとしたが、ミナムは、リンの歯でスプーンを抑えた少しの悪戯にその額を軽く小突き、痛いと大袈裟に言って膨れたリンに気付いたミニョが、横を向いている。
「もっ!オッパ何をしてるのですか!」
リンを背中から抱きしめミナムから庇ったミニョが、頬を膨らませてミナムを見ると、ミニョを軽く睨んだミナムが、お前にそっくりだと言いながら、自分の口にケーキを入れた。
「もう自分で食え!それにお前の目的は、そっちだろう」
リンとミニョの目の前に置かれた、丸く深いお皿に盛り付けられたフルーツの上に生クリームとその周りを囲う様に置かれているアイスクリームの山を指差したミナムにテーブルの方を見たリンは、ミニョの腕を掴んだまま、くるりと向きを変えて、前に向き直ると、ミニョの顔を見上げている。
「オンマー!!一緒に食べよー」
テーブルに置かれたふたつのスプーンに手を伸ばして、一つを握り締め、もう一つをミニョに渡したリンは、にっこり笑って返事を待っている。
「ふふ、そうですね!とっても美味しそう!リンのおかげですね!」
「だって食べたかったんだもん!ミナムとジェルミのCMね、とっても美味しそうだったのー!」
早くぅとミニョに催促をして、スプーンを同時に入れるタイミングを計りながら、瞳をきらきらさせているリンは、ミニョを見つめながら、スプーンを揺らして見せた。
「じゃぁ、折角なので頂きましょう!ね!せーの」
まるで、結婚式のケーキカットの様にスプーンを同じ器に入れ、相手の口に運び、ファーストバイトの様に食べさせあうミニョとリンに同じテーブルに座る面々が、小さく歓声をあげ、美味しいねと笑ったリンに良かったなとミナムが、横から頭に手を乗せると、話の腰を折られた形になったテギョンも皆の笑顔につられる様に楽しそうに笑って向きを変え、しかし、前でポカンと口を開けているユンギにどうしたと尋ねている。
「いや・・・うん、あっちが、夫婦みたい・・・だね・・・」
「はぁ!?何を言ってるんだお前、ふざけるなよ!相手は子供だ!ミニョは俺(オ・レ)が、一番だ」
テギョンの怪訝な表情とけれど自慢げな発言に首を傾げたユンギは、やがて、ああと口角をあげるとニヤッと笑った。
「・・・な、んだよ」
「いや、今の言い方・・・嫉妬してる風に聞こえるなぁって!?」
「はぁ!?なんで俺が、だいたい、俺の子だ」
「えーっ!だってさぁ・・・子供に嫉妬するくらいだから・・・他人が近づくのは、もっと、面白くない!・・・よね」
だから怒ってるんでしょと笑うユンギにテギョンの瞳が左右に振られ、細められ、眉間に皺が寄っている。
「だから!違う!と言っているだろう」
「うん・・・なんか解った気がする」
独り言の様に納得顔のユンギを前に不満そうに睨みつけるテギョンは、唇を歪ませ、テーブルに肘を乗せて軽く開いた手を拳に握り直した。
「判らなくて良い!大体、あいつ!キム・ソンジュン!ミニョのペンかも知れないが、それだけじゃないだろう!俺に対して・・・何か・・・他に思惑がある!そうだろう!?」
ユンギの態度に不機嫌を募らせるテギョンは、一息に本題を切り出し、持ち上げたグラスをユンギの眼前に差し出して、更に唇を尖らせ、前を見つめたままそれを煽って、その行為に驚いた表情を浮かべたユンギもゆっくり頷くとグラスに口をつけた。
「あいつの態度が判りやすかった訳ね・・・だから、俺か・・・」
グラスをテーブルに置いたユンギは、包み込むように握って、大きな溜息を吐いている。
「そうだ!お前が仲介した話だろ!事件の事も当然、聞きだしてるよな」
決め付けたテギョンの言葉に黙りこんだユンギが、やがて、大仰に笑いだし、トーンを落とした。
「俺、そんな奴に見える!?」
「見えるんじゃなくて、そういう奴だろ」
褒めているんだと面白くなさそうに続けたテギョンは、ワインの入ったグラスに触れた手を止めて、水の入ったグラスを持ち直し、口に当てながらユンギを見ている。
「ふ、そう、だね、納得出来ないものには、動かないね」
「ふん!経営者らしいものの考え方だ!だから、アン社長も承知したんだろう」
「そうだよ、最初、この話を持って行った時に、アン社長からテギョンは、断わると言われたよ」
ユンギの首が曲げられ、少しだけ不満そうな表情を見せた。
「まぁ・・・な」
「ミニョssiにとって復帰作としては、化粧品だし、歌もコラボ出来るし、申し分ないと言われたけど、事件の事があるから、内々に処理したとはいえ、良いイメージは、ないだろう、と・・・ね」
アン社長との会話を思い出してなのか、ユンギは、険しい表情で、時折、溜息を交えながら、テギョンを見ている。
「ふん・・・けど、昔と今は、違うんだろ」
「ああ、違うね・・・あいつの思惑・・・ね、確かにそれは、テギョン個人に対してのものだよそこにミニョssiに決めた要因が、あるかな」
「それを教えろ!っとに、ミニョの事を持ち出せば、俺が、怒る事を承知でやってやがる事が、気に入らない!」
ソンジュン達と別れてからまだ小一時間程も経過しない時間は、テギョンの中の怒りを収める為には、まだまだ足りない様で、舌打ちと苦い顔と、繰り返すテギョンのまるで百面相の様な表情にリンが、ミニョの袖を引っ張ってなにやら耳打ちをしたが、ミニョも耳打ちをして、ふたりでこっそり笑いあっていた。
「へー・・・あいつのやってる事もあながち間違ってる訳じゃないんだね」
「なんだよ!」
「俺はさぁ、とりあえず、テギョンを怒らせれば、次の仕事のオファーも難しくなるだろうし、話を聞く耳も持たないんじゃないかと心配してた訳・・・けどさ、俺からソンジュンの話を聞きたいって事は、少なくともあいつを知った上で、仕事の話をしたいって事だろう!?」
「何で!そうなる!」
「事件のせいだろ!事件を起したのは、あいつじゃない!けど、あいつは、事件の発端を作った会社の、まして、ごく近い身内で、断わろうと思えば断われた話を引き受けて、そして、今、次の仕事の為にあいつを知ろうとしてる・・・つまり、テギョンにとっては、少なくとも憎むべき相手では、無いって事だよね」
「チッ!お前のそういう所が、俺は嫌いだ」
「俺は好きだよ!テギョンのそういうところ」
「それで・・・事件の経緯(いきさつ)も知ってるだろ」
話せと顎をしゃくるテギョンは、唇を尖らせ、面白くないと言いながら動かしていて、その表情にテギョンを見ていたミナムが、クスクス笑って、ちらりと視線を送っただけのシヌと真後ろを振り返ってテギョンを見たジェルミは、どちらも睨まれている。
「ソンジュンヌナの元恋人ね・・・そもそも・・・」
ユンギの話に真顔で耳を傾け始めたテギョンの前に立ち上がったミニョが、取り分けた料理の皿を運び、少し食べてくださいと促して、また席に戻って行った。
「あるELの役員が不祥事で解雇されたのが始まりで、それが、A.N.JEllにオファーを出した直後」
ポツポツと語り始めたユンギの前にもミニョが、運んできたお皿が置かれて、それを摘みながら、テギョンの顔を見たユンギは、料理の感想を漏らしている。
「解雇されたのは、事件を起した男の父親で、ヌナを利用して、EL内部で水増し行為をしてた、その水増し分の流出先は、ヌナの所属事務所・・・つまり、恋人の所・・・でも、これをELが突き止めたのは、事件の後だったというのは、聞いているだろう」
「ああ、事件当時は、原因が、判らなくて、俺が狙われたとすれば、モデルを外した事への逆恨みだと思ってた。あの会社との関わりは、その契約だけだったからな」
「まぁ、だから、A.N.Jellへの契約金が水増しされて、また流れる予定だったけど、親父は解雇・・・息子は、資金繰りが出来なくなったらしいね・・・事件の前日にね、ヌナとそいつが、別れ話をしたらしいんだ・・・テギョンの条件もあったけど、自分の限界も感じていたらしくて、親に従うと決めて、シヌとの仕事は、前から決まってたから、それを最後にすると言って、帰ったそうだよ・・・」
「それで・・・自暴自棄になったそいつが、現場に現れた・・・か」
「そうだね・・・ね、シヌの怪我、結構、酷かったって聞いてるけど」
頷いたユンギは、テギョンを招く様に頭を近づけ、耳打ちする様に手のひらを立てるとトーン落としてテギョンに尋ね、ちらりとシヌの背中を見つめたテギョンも、頷いて、囁き返した。
「ああ、けど、元の様に音は、出せる様になったからな・・・・・・あいつには、本当に頭が下がる」
「そうなんだね」
ふーんと頷きながら椅子を引いたユンギは、姿勢を正すとまたワインを注ぎ直し、食事を続けたが、その様子にテギョンの眉間に皺が寄っている。
「というか、お前!話を逸らそうとしていないか!俺が聞きたいのは!」
「判ってるよ!ソンジュンが、何でテギョンを目の敵にするかだろ」
テギョンの問いを中断させる様に、口に入れたステーキを噛みながら返事をしたユンギは、持っていたフォークをテギョンに向けていて、ギョッとしているテギョンは、大きな溜息を付きながら、そうだと首を振った。
「事件の翌日にさ・・・弁護士と前社長と謝罪に行ったの覚えてる!?そこにソンジュンも居たのは!?知らないでしょ」
先程とは打って変わって、まるで一仕事終えた様に食事を始めたユンギの言葉に一斉に振り返ったシヌとジェルミと口に野菜を入れたまま顔をあげたミナムとテギョンが、皆を順番に見つめると、居たかと首を傾げながら尋ねたのだった。
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お久しぶり!事件は解決出来たかなぁ、と、あとひとつ・・・
ソンジュンのテギョンへの思惑が解決できれば、通常に戻れるかと(^^;
あはは、最後まで読んで頂いてありがとうございます(*^▽^*)
暫く更新止まってる間にも読み返して頂いたり、色んな感想を頂きまして♪
特に『美男ですね』を見て、ご自分が思われていたテギョミニョに近かったというご意見がとても多くて、二次の書き手としてもとても嬉しい限りです!ドラマ版大好きなので、キャラを壊さない様にと思って書いていますけど、ここの主役は『リンssi』なので、こちらへの愛も沢山ありがとう(笑)
(*^▽^*)また、次の更新でお会い出来ますように!
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