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「アッパの日~!?」
「ええ、そういうのがあるらしいですね」
洗濯籠を胸の前に抱えて廊下を歩くミニョの後ろをチョコチョコ付いて行くリンは、先端を細く削った鉛筆を右手に持ちノートを頭に乗せていた。
「オボイナルみたいなの~!?」
「ええ、多分、同じですよ!別々の日に祝うってだけじゃないですかね」
リビングのドアを開けて、庭に面した窓辺に歩いて行くミニョは、床に籠を置いて、庭に出る為の窓を開けて両腕を広げ深呼吸をしている。
「ふーん」
ピアノの前に置かれたソファの背凭れに顎を乗せミニョの背中を見て顔だけ覗かせているリンは、鉛筆を鼻の下に挟み大きく息を吸い込んだ。
しかし、長く息が続かないのか直にそれはポロッと床に落ちて、鉛筆の転がる音に振り向いたミニョがクスクス笑いながら鉛筆を拾ってリンの手に返している。
「イルボンのお祝いの仕方ですからね、韓国とはやっぱり違うんですね」
「ふぅん!じゃぁ、オンマの日もあったのかなぁ」
「ふふ、それはやっぱりあるでしょうね」
お昼の少し高くなった陽に額に手を当てて空を見たミニョは、良く乾きそうですねと言いながら籠を抱えて庭に出て行った。
「ねーオンマは~アッパに何して貰ったの~!?」
ソファに凭れたままミニョのいる庭に向って大きな声を出したリンは、何でしたかと考え込む様に応えたミニョの声に耳を傾ける様に前屈みになっている。
「オンマ~は~何をしたの~!?」
のんびり考え込んで答えが返って来ない事にソファの上で両手を前に出して伸びをしたリンは、更に質問を重ねた。
「オンマですか~」
洗濯物を干しながら布越しに会話する少しくぐもった声が響き、動き回っているミニョは、やはり、何でしたかね~と考え込む様に、声を発していてリンに明確な答えは返って来なくて、ミニョの答えに唇を尖らせていくリンは、上目遣いで瞳をくるっと回すと振り返ってソファを降りていく。
「オンマもオボイナルに何かしてあげたんでしょ~」
窓の桟に手を掛けて庭にいるミニョを見つめるリンは、テギョンに何をしたのかを聞いているが、大きなシーツを干しているミニョは、口元に手を当ててふふと笑っていて、シーツに見え隠れする影が可笑しそうに笑うシルエットを映した。
「教えてよ~」
床に座り込んで片膝を立てたリンは、その膝小僧を両腕で抱えて顎を乗せている。
「ハラボジ達には、お花を贈ってたでしょ~でもさぁ、アッパにお花は、贈れないよね~」
お花作ったしとぶつぶつ呟いているリンの傍らにミニョが、その場に放置しておいたらしい雑誌があって、何気無くそれをパラパラ捲り始めたリンは、首を傾げると床に肘をつき、寝転がってそれを眺め始めた。
「お花だって贈れない訳じゃないのですよ」
空になった籠を抱えたミニョが、リンの傍に戻ってくると真剣に本を見ているリンの前を通ってソファに籠を放置してキッチンに向かい冷蔵庫を開けている。
「でもオンマがお花貰ってるのもあげてるのも見たこと無いも~ん」
「貰った事は・・・ありますよ」
冷蔵庫から幾つかの果物を取り出したミニョは、小さく刻んでジューサーに次々と放り込んでいき、レモンを少し絞って蜂蜜と氷を入れてスイッチを押した。
攪拌される少し大きな音が辺りに響きミニョの手元を見つめたリンは、嬉しそうに口角をあげると立ち上がってダイニングの椅子を引いている。
「アッパが、お花買うの!?」
「ふふ、そう、ですね~誰かに頼んでるかも知れないですけど」
リンに向かって片目を閉じてみせるミニョは、出来上がったジュースをグラスに注いでリンの前に差し出した。
「それってアッパのプレゼントじゃないもん!」
「ふふ、ここの問題ですかね~」
ミニョは胸に両手を乗せて目を閉じ、グラスに口をつけて上目遣いで見ているリンは、嬉しそうに笑っているミニョに首を傾げている。
「リンだって、オボイナルにお花をたくさん作ってくれたでしょ!アッパに生花はあげられないって!一生懸命作ってたじゃないですか!それもここの問題です!オンマ達はリンからお花と一緒に沢山の気持ちを貰ったんですよ!」
リンの胸を指差してふふと笑うミニョは、ねと首を傾けた。
「じゃぁ、オンマもアッパに気持ちをあげたの!?」
おかわりとグラスを差し出したリンのグラスに二杯目を注ぎながらまた笑っているミニョは、特別な気持ちですかねと悪戯な表情でリンの顔を覗き込むとリンの唇が少し前に突き出されている。
「うー・・・アッパが特別なのは知ってるもん!僕は一番で良いもん!」
「あら、少し大人になっちゃったんですか」
残念そうな言葉を口にして、でもミニョの口元は嬉しそうに口角をあげてリンを眩しそうに見つめ、その髪に手を置いてくしゃと撫でた。
「アッパに感謝してますって伝わればそれで良いのですよ!」
ミニョがリンの額に自身のそれをぶつけ視線を併せて笑っているとリビングの扉が開いて帰宅を報せたテギョンが、ただいまと言いながらジャケットから腕を抜いている。
「アッパ~!!」
「早いですね」
駆け寄っていくリンの頭に手を乗せたテギョンは、ああと短く返事をするとリビングのソファに腰を下ろしてタイを外している。
「打ち合わせを兼ねた朝食会だけだからな」
テギョンは、ソファに沈み込み瞳を閉じて天井に顔を向け、その傍らに座りこんだリンは、ジッーとテギョンを見つめていて、それに気がついたテギョンは、瞳だけ動かすと何だと聞いた。
「あのね!今日ってアッパの日なんだって~」
「ああ、日本の慣習だろ!オボイナルみたいな」
「うん!それでね!僕!考えたの~!」
何をと目を細めたテギョンの耳元でリンが何事かを囁くと目を閉じ鼻で笑ったテギョンが、良いぞと言って、両手を上げたリンは、本当と嬉しそうにソファから飛び降りている。
「ああ、それなら!鍵を出してやるからスタジオでやれ!」
「やったー!オンマ~鍵、頂戴~」
「鍵ってスタジオですか?」
フルーツジュースと水のペットボトルをお盆に乗せたミニョが、リビングに歩いてくるとお盆をテーブルに置いて飾り棚に向かいながら聞いた。
「スタジオのピアノの鍵も渡してくれ」
「えっ!?」
リンが、勝手に入れる為、テギョンの抱えていた重要な仕事が終る迄と少し高い位置に変えられた鍵の束を取り出したミニョは、その中からスタジオとピアノの鍵を選んでリンに渡している。
「宜しいのですか!?」
「ああ、仕事も今朝渡してきたし、もう、触っても良いぞ」
「ピアノも・・・」
「スタジオの調整されてる方が良いんだろ」
リンを見つめて聞いたテギョンに驚いた顔を向けたミニョは、鍵を嬉しそうに両手で受け取って頷いたリンに邪魔は駄目ですよと向き直って付け足した。
「邪魔しな~い!だって、アッパの日だも~ん」
そう言いながらテーブルに放置していたノートと鉛筆を持ったリンは、スタジオに走って行ってしまい、不思議な顔をしているミニョは、テギョンに何ですかと聞いている。
「アッパの日なんだろ」
「!?それは、イルボンの・・・」
「オボイナルとは別に俺にプレゼントをくれるってさ!!」
「ヘ!?」
テギョンの口角が片側だけ上がると人差し指を曲げてミニョを呼び、近寄ったミニョの腕を少し強引に引いたテギョンは、よろめく体に腕を回して膝に乗せた。
「あっ、ぶないですね!!」
テギョンの膝の上で乱れた髪を掻き揚げたミニョは、頬を膨らませている。
「プレゼントって何ですか!?」
「鈍い奴だなぁ」
ミニョの額にかかる髪を横に除けて額にキスをしたテギョンは、首が曲がって考え込んでいるミニョを嬉しそうに見つめた。
「俺が無条件で喜ぶモノだろ」
「そんなの、ありましたっけ!?」
「ふっ、恍けてるお前も愛している」
「はっ、えっ、ちょ、アッパ!」
ミニョの体を抱きしめて胸に顔を埋めるテギョンは、こういうのも悪くないなと呟いていて、テギョンの行動に動揺するミニョは、不満そうに頬を膨らませてその肩を叩き何が何だか解らないと溜息を零しているのだった。
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そして、スタジオの扉を開けたリンは、ピアノの蓋も開けると後ろに置いてあるオーディオセットで時間を確認している。
「えっと、ごはんの時間がぁ・・・」
指を折り曲げて数を数えるリンは、口元を両手で覆うとふふっと嬉しそうに笑った。
「オンマのアルバム全部写せるかも~!」
そう言って早速ピアノの横に置いてある机からテギョンの譜面を引っ張り出している。
「ふふ、特別なお仕事じゃないもん!僕、知ってるもん!」
取り出した五線紙の上にコ・ミニョと名前の書かれた譜面を見つけたリンは、それを床に広げると音符を追いかけながら口ずさみ、また嬉しそうに笑ってうつ伏せに寝そべっている。
「全部写したら、また僕が先に歌ってもらうもんね~」
ニマニマ笑いながら譜面を自分のノートに書き写し始めていた。
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まだ陽も高く夕ご飯までは間がある明るい時間。
仕事を終えた疲れをリンに邪魔される事無くミニョを独占できるテギョンとテギョンの新曲を写す為の秘密の時間をたっぷり持つ事のできるリンのそんなある日の出来事でした。
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いつもありがとうございます(*^▽^*)rこの場でお礼_(._.)_ぺこり
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byアメーバ |
今日は特に両親に感謝を届けたい日✌
最後まで読んで頂いてありがとうございました(*^▽^*)