リンの手を引いてクローゼットに入ったテギョンに目を閉じて引かれるままについて来たリンが、いつ帰ってきたのーと聞いて朝方だと言ったテギョンは、着換えて来いと手を離して顎を軽くあげた。
「オンマが、何か忘れてるのー!?」
先程のテギョンとの会話に疑問を口にするリンは、奥に入って行きながら、パジャマを脱いで、扉に斜めに寄りかかったテギョンは、腕を組んで肩越しにリビングの方に顔だけ向け、考え込む様に見ていたが、ああと返事をしながらリンの着替えを見ている。
「アッパも忘れてる事あるよねー」
テギョンに背中を向けて、シャツから一生懸命首を出しているリンは、スポッと音が聞こえそうなほど勢い良く首を抜いて笑顔で振り返った。
「忘れてるって何だ!?」
リンが、パンツを履く為にしゃがみ込んだ姿を見ているテギョンは、顎に右手を当てて、上を向き考え込む様に目を細めているが、思い当たる事は無い様で、なんだと呟いているとトコトコと着換え終わったリンが、前を通り、先に廊下に出て、下からテギョンを見上げている。
「アッパも忘れてるー」
そう言いながら、リビングに小走りで走って行ってしまったリンにゆったりと背中を扉から離したテギョンが、唇に触れながら後を追いかけた。
「オンマー!アレちょうだーい!」
リビングを通り抜けダイニングで朝食の準備をしているミニョの腰にくっ付いたリンが、上を見上げながら、オンマは何を忘れてるのと聞いて、さぁと首を傾げているミニョは、アレならと庭に面した窓を指差している。
「持って行く分と、そこの籠に入ってますよ」
「ありがとー」
窓辺に走っていくリンとまた入れ替わる様にテギョンがダイニングのカウンターに座ると、何かあったかとミニョに聞いた。
「何かって、何ですか!?」
「いや、リンが・・・」
テギョンが口を開きかけた時、窓辺から何やら赤いものを持って戻って来たリンが、はいとテギョンにそれを差し出して、オンマもーとカウンターの下からミニョに手に持ったピンを差し出すと受け取ったミニョがありがとうと言ってそれを髪に留めている。
「なんだ!?」
テギョンの手の中には、布と針金で作られた花が渡され、それをしげしげと眺めているテギョンは、首を傾げながらカーネーションと半信半疑に口にするとミニョの頭を見つめ、テギョンの隣の椅子に座ったリンが、そうだよと言った。
「・・・8日か」
「ええ、そうです!オボイナル(両親の日)ですよ!」
「お前が作ったのか!?」
「うん!オンマにも手伝って貰った!」
「そうか、だから遅くまで起きてたのか」
テギョンの帰宅時間は、早朝の早い時間だったが、シャワーを浴びて、寛いでいたリビングにミニョが、リンより先に起きてきた事を驚いた表情で迎えたテギョンは、リンは、まだ寝てますと欠伸をしたミニョとCM撮影とレコーディングの話をしていて、ミニョの一言にニヤついたテギョンがリビングで歌の練習をさせていたのだ。
「そうですよ!アッパは生のお花がダメだから作ると言って」
他の方のは、生花ですけどねとミニョが窓を指差すと小さな花籠に活けられたカーネーションが、幾つも置かれている。
「オボイナルだろ!?」
不思議な顔をするテギョンにそうですけどと言ったミニョは、感謝の日ですからねと言って、テギョンの前に朝食のおかずを並べ、リンの前にスープを置いて、スプーンを渡すとカウンターを回ってテギョンとリンの向こう側に座った。
「感謝は、父母だけではないでしょ」
「いつもお世話になってる人にもあげるんだって~」
そう言って、いただきますと朝食を食べ始めたリンを見て、自身も箸を持ち上げたテギョンが、世話になってる奴と呟きながら瞳をあげると、今年はたくさんいるでしょと言ったミニョに笑顔を向けたリンが、大きく頷いている。
「A.N.Jellの皆でしょー、ヘイおばちゃんでしょ~、ユンギヒョン!」
それから~とスープの入ったカップ状の取っ手のついた器を抱える様に食事をしているリンが、指を折っていくと、テギョンも同じ様に指を折っていて、大変だなと零した。
「アッパの分は、オンマが送ってたもん」
既にギョンセ夫婦とファランの元へはミニョが、カーネーションとプレゼントを手配していて、それは、毎年の事で、辞めろとは言わなくなったが、もう要らないんじゃないかと言い続けるテギョンに院長様にも贈るからと相談ではなく報告をしている。
「そうか、今年も贈ったのか」
ええ、とテギョンに笑顔を向けたミニョは、今年もお花をたくさんと笑って後で見に行きましょうねとリンと顔を見合わせた。
「教会の花が増えて困るんじゃないか」
「院長様は、そんなことおっしゃいません!」
アッパじゃないのですからと膨れてみせるミニョに俺も行くかと言ったテギョンは、次の休みにでも出かけようとリンの頭に手を乗せている。
「ドライブ~」
「休みって・・・」
嬉しそうに顔をあげたリンと憂えた顔を向けたミニョと両方を見たテギョンは、大丈夫だとミニョに言い、遠くないだろと笑っている。
「一日掛かるような田舎じゃあるまいし、中山聖堂ならすぐだろ!」
「それはそうですけど、アッパ、お仕事詰まってますよね」
夏のコンサートに向けて、多方面で人が動く為、A.N.Jellのリーダーを務めているテギョンには、観客に最高のパフォーマンスを見せるという以外にもたくさんの仕事があって、一緒に仕事をしていた頃は、そんな事さえも仕事なのかと驚くと供にファン・テギョンという人間が如何に努力をしていて、自分の為だけでなく、そこに関わる人々や、ファンの為に如何に自分を磨いているのかという事を思い知り、天才や皇帝と呼ばれている事にも意味があるのだとミニョは知っていた。
「リンの事もありますし・・・」
ミニョの心配は、A.N.Jellの仕事ばかりではなく、子供バンドとミニョの他にもタレントを抱えているテギョンの事で、ミニョ自身の仕事の管理もテギョンがしている為、それについても早朝にふたりで話をしていたが、お前がしっかり俺を管理しろと抱きしめられキスをされ終ってしまった事を言っている。
「ふん、だからこそ家族で息抜きくらいさせろ!本当ならお前とふたりだけで行きたいくらいなんだ」
ミニョの心配に怒っている訳でも呆れている訳でもないテギョンの少し強調された言葉が、ミニョをシュンとさせ、蒸し返した話にすみませんと謝るミニョは、最後の言葉とテギョンの笑みを浮かべた表情に赤くなり、頬を押さえたが、すかさずリンが両手を上げて大きなバツを作った。
「そんなのダメー!!!!」
「・・・ダメだそうです・・・」
「ふん!そんなの解りきってる!」
次は、内緒にするから問題ないと言ったテギョンに尖った唇でアッパ嫌いと言って顔を背けたリンに
ニヤニヤ笑っているテギョンは、そうかと素っ気無く答え、食事を続けるのだった。
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5月第二日曜日!『母の日』ですね!韓国は父、母と分かれていないそうで両親を一遍に祝うそうです!それに5月8日と日にちも決まっていて、5月15日は『先生の日』というのがあるらしい(・ω・)/儒教の国ならではかな・・・縦を大事にする社会・・・キリストのイースター(復活際)にも通ずるものがあって、感謝を奉げるのは両親に限らないとうろ覚えだったけど・・・教会もカトリックも多い国だったなぁと思いながらお話に組み込み組み込み(σ・∀・)σ
『母の日』=カーネーションに限らないだろうけど、オヌルン、子供をお持ちのオンマの皆様が家族に感謝される日であるといいなぁ(*^▽^*)
最後まで読んで頂いてありがとうございました\(^o^)
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