「ったく!こんなにしやがって」
リンの髪を拭き終えたタオルで、濡れたスラックスを拭いて、どうするかなと難しい顔をしているテギョンに背中を向けて、籠を引っ張ってきたリンが、ガサゴソ洋服を手にとって着換え始めた。
「着換えればいいよー!」
「そういう問題じゃないだろ!大体、お前、何でシャワーなんか浴びてるんだ!」
「ヒョン達と一緒にダンスしてたの~」
テギョンの隣に腰を降ろして、半ズボンを履いているリンが、ぴょんと前に跳ぶと腰まで引き上げている。
「ダンス!?練習生とか!?」
「うん!」
「ったく、ギターだけじゃなくて、あそこでも遊んでるのか」
何になりたいんだと呟きながらもリンに嬉しそうな笑みを零しているテギョンは、トコトコッと正前にきたリンからシャツを差し出されるとチッと腕を伸ばし、頭からそれを被せ首を通して髪をクシャクシャ撫でた。
「うーん・・・とりあえず、アッパ達とおんなじとこで歌いたい!!」
袖を通しながら、できたーと言ったリンは、笑顔を向けテギョンの膝に手をついた。
「そうか・・・」
「うーん・・・これでいいのでしょうか・・・」
満面の笑みで微笑んでいるテギョンは、頭にタオルを乗せ、シャワーブースから出てきたミニョののんびりした一声に一瞬でまた不機嫌な顔つきに変わり、ギロッと瞳を向けるとオイッと呼んで指を動かしている。
「なんです!?」
ドライヤーを片手に肩にタオルを掛け、リンを手招きしたミニョだが、テギョンの指を見て、トコトコ近づいてきた。
「なんですか!じゃないだろ!!どういうつもりだ!!」
「どうって・・・」
テギョンの隣に座って、リンの肩を掴んで後ろを向かせたミニョが、カチッという音と共にブォーという強い風の音をさせてリンの頭にドライヤーを当て始め、キャーと言って嬉しそうな声を出して、クシャクシャと髪に通るミニョの指先にふふと笑っているリンは、何かあったのーと音に負けない大きな声を出し、ドライヤーの音に目を細めるテギョンは、チッと舌打をするとミニョからドライヤーを取上げ、お前も早く乾かせと言って、ミニョの代わりにリンの髪を梳き始めた。
「何かあったんだよ!!俺の許可もなく勝手に決めやがって!!」
リンの髪を少し乱暴に梳きながら、痛いと言われたテギョンは、唇を尖らせて無言で瞳を回し、少し力を加減した様で、リンが、またふふと笑っている。
「オッパの許可は、ありましたよ」
テギョンに言われるまま、背中を向けて自身の髪を乾かしているミニョは、鏡越しにテギョンに答を返した。
「コンセプトは、ああじゃなかっただろ!」
マ・室長に見せられた絵コンテについて話すテギョンは、ミニョを横目で睨んでいるが、ガシガシ通る指先にリンも上目遣いでテギョンを睨んでいる。
「別に、服は着てるし、良いじゃないですか」
「それだけじゃないだろ!!」
ガシッと両手で掴まれた手に下を向いたテギョンは、リンの頭から手を離すとくるっと振り返ったリンが、唇を尖らせて、無言で抗議をしている事にすまないと謝ったが、髪に触れるともう良いなとドライヤーを止め、隣に置いて立ち上がった。
「相手役!!」
ミニョの後ろに立って、鏡越しに視線を併せている。
「ああ、それ!オッパにお願いしようかと」
「は!?」
「あれ、こちらで選んでも良いとおっしゃって頂いたので」
聞いてませんかと言いながら、ミニョが、後頭部を乾かす為なのか奇妙に腕を曲げた事に目を細めたテギョンは、貸せと言って、ミニョからドライヤーを取上げた。
「聞いてない・・・お前が、選ぶのか」
マ・室長にお願いしましたけどと呟くミニョに面白く無さそうに鏡越しに見つめれる視線を避けたテギョンは、一方的にイラついて怒鳴りつけた事を思い返す顔を歪め、そういうことかとニヤッと笑った。
「はい!やっぱり他の方では、その・・・お願い、できますか」
ミニョは、頭を下に向けさせられ、長い髪が、バサッと前に落ちて、鏡越しにテギョンが見えなくなり、くぐもった声で小さく訊ねるが、ワシャワシャとミニョの髪を梳き続けるテギョンは、唇を動かしながら無言で作業していて、ミニョが、少しシュンとなりながら、慌てた様に続けている。
「あっ、それにモデル料は、出ないのです・・・それでも・・・」
「ダメな訳っ!!無いだろ!そうか!そういうことか」
ミニョの髪を一纏めにして背中に流し、少し肩を引いて上を向かせたテギョンは、手のひらを前に出して櫛を寄越せと要求し、ミニョが渡すと、髪を梳き始めた。
「引き受けて下さいますか」
鏡に映るテギョンに笑顔を向けるミニョは、髪を通りぬける櫛とテギョンの指先にリンの様にふふと笑っている。
「ふん!お前がどうしてもと言うなら許可してやる!」
ミニョの髪を整えたテギョンは、そのまま後ろからミニョを抱きしめると鏡越しにミニョを見つめ、なんですと聞いたミニョの頬にキスをすると好い女だなと呟き、瞬間、赤くなったミニョが、振り返ってテギョンの胸を押しやった。
「おおおおオッパ!!!」
「ふん!俺をよく理解してる!感心だな」
「そっ、それは、だって、絶対・・・反対する・・・でしょ」
テギョンを見た迄は、良かったが、ニヤニヤしながら嬉しそうに笑う顔にますます赤くなるミニョは、戸惑った指先をあわせて動かしている。
「当然だ!!」
「うーん、仕事なので、仕方がないとは、思ってるのですが・・・」
ミニョの言葉に目を細めるテギョンは、はぁと眉間を寄せると額に手を置いて大きく左手を振った。
「ダメだダメだ!!!他の奴とやらせてたまるか!!!」
「ミナムオッパとか!」
「却下!!」
「シヌオッパ!!」
「もっと却下だろ!!」
「ジェルミ!!」
「あいつは問題外だ!」
「アッパなら良いの~」
ミニョの前に立ってテギョンとの間に立ち、話に割り込んできたリンが、上を見上げながらテギョンに聞いている。
「俺以外適任なんかいるか!!」
事故多発地帯の管理があいつらに出来るわけないと言ったテギョンを上目遣いで見つめたミニョは、ぷーと頬を膨らませた。
「事故事故っていつも事故起こしてるみたいじゃないですか!」
「起こしてるだろ!突発的に俺に迷惑を掛けるのは、お前の得意技だろ!」
「迷惑・・・なのですか!?」
「ああ、お前が外に出るのは、はっきり言って迷惑だ!」
イラついたテギョンは、ツカツカとベンチに座って腰の横に手を置くとふんぞり返って足を組んでいる。
「そんな・・・」
「ふん!人気が衰えてないって事がどれだけ俺を苦しめるか解ってるか」
テギョンは、ミニョのシュンとした態度にそっぽを向くと唇を尖らせたが、右側の口角が、僅かに緩み頬が言葉を裏切っていた。
「そんな事を言われても・・・」
「お前のファンが、あんなに残ってたなんて・・・」
クソッと面白く無さそうに吐き捨てるテギョンは、ミニョとリンが顔を見合わせたのを見つめククッと笑っている。
「人のものなんだから、少しは、遠慮すれば良いんだ」
笑っているテギョンにあっと口を開けたミニョは、戸惑っていた顔をまた、膨らませた。
「・・・横暴・・・」
「どくさいしゃって言うんだって」
ミニョの言葉にリンが、後ろを振り返って、抱きついている。
「どっ・・・なんだと」
「ミナムが言ってた~アッパは、オンマのどくさいしゃなんだって」
立ち上がりそうな勢いで腰を浮かせたテギョンだが、前屈みになるとリンを睨みつけている。
「そんな訳あるか!」
睨むテギョンを見たリンは、ふふと怒られている事さえも喜んでいて、ミニョの腰に回した腕でギュッと抱きつき、上を見た。
「それで、良いんだって!オンマは、そういうアッパが好きだから!って言ってたよ~」
「なっ、・・・」
「もうオッパってば何を・・・」
リンの笑顔にリンの髪に触れたミニョは、スッと膝を折っている。
「好きでしょ~」
ミニョの視線が僅かにリンより下がった事で、ミニョを見下ろしているリンは首を傾げて聞いた。
「好きですよ!リンと同じだけ」
そう言ったミニョがリンに腕を回して抱きしめるとコ・ミニョssiと呼ぶ声が、廊下から聞こえたのだった。
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