時間は、少し前に遡る。
A.N.entertainmentの前は、応援を続けるファンの群衆が今日も時間を惜しまずに集まっている。
A.N.Jellに限らず、新人グループのファン等が入り混じり、大所帯になった以外は、相変わらずで、一目だけでも、サヂンだけでもとそんな思いを抱えた女の子達に埋め尽くされ、思い思いの行動で、音楽を聴いたり、情報交換に余念が無かったりと、いつもとなんら変わらりのない風景が拡がっていた。
「ねぇねぇ、それ素敵!どこで買ったの~」
「これ!これはぁ・・・」
「ね!受けとってくれるかなぁ」
「うーん今日も皇帝に睨まれちゃったぁ~・・・」
蕩けるような表情の女の子達は、それぞれ目当てのアイドルの話に夢中で、その群集の中を掻き分ける様に前に出てきた女性が、事務所の入り口近くに居る女の子に声をかけ質問をしていた。
「ごめんなさい、コ・ミニョssiって、ここに来るかしら!?見た事ある!?」
およそこの群集には似つかわしくない、モデルの様に長身だが、アイドル等には、全く興味が無さそうに眼鏡をかけ、ビジネスバッグを片手にスーツのジャケットを腕にした堅い雰囲気のその女性を見つめた女の子は、見ない顔ねと不躾に相手の全身を眺めて、女の子の視線に晒される女性は、美しく口角をあげ、微笑を浮かべた。
「あるに決まってるわ!皇帝の奥様よ!」
「そうよ!知らなかったらおかしいわ!」
「わたし達にもしっかり挨拶してくれるし、とても素敵な人よ!」
「そうよ!流石、皇帝が選んだ方って感じがするわよね!」
「綺麗だし!可愛いし!」
「あんな美しい人なら許せる~」
「お子様も可愛いしね~」
訊ねた女の子の周りから一つの質問に数え切れない返答が返ってきて、黙って聞いていた女性は、少しだけ戸惑った様に表情を引き攣らせるとそっ、そうなのと言い、きょ、今日は会えるかしらと質問とも独り言とも捉えられる様に呟いている。
「あら、あなた、会いたいの!?」
「えっ、ええ、そんな素敵な方なら是非」
「そうね・・・」
「来るんじゃない!ほら、今朝!」
そう言って隣の女の子に指を向けた子にああ、そういえばと返した別な女の子が、ほら、あれと言って、キャーと指を絡めて思い出した事に共感し合っていて、答えが返って来ない事に、遠慮がちに訊ねた女性が、教えてくれると言った。
「あっ、ええ、ゴメンナサイ!」
「あはっ、今朝ね!」
そう言って話を始めた女の子達は、自分の世界に入り込む様に女性そっちのけで、話を弾ませ、ミニョについて話を聞いた女性は、満足そうに微笑んでいる。
「ということは、待ってれば来るって事ね」
「ええ、きっと来るわ」
「そう、ありがとう」
微笑を浮かべる女性は、丁寧に礼を言って、少し離れた駐車場に向うと腰を降ろしてタンブラーを傾けていた。
★★★★★☆☆☆★★★★★
「今日も凄い数ですねぇ」
事務所の敷地に入った車から降りたマ・室長とミニョは、気付かれないうちにと急ぎ足で駐車場を裏口に向っていたが、そうですねーとのーんびり振り返ったミニョの視線の先にああああっーと指を指す女の子がいて、あっと口を開けた時には、既に見つかった後だった。
「コ・ミニョssi~~~~!!復帰おめでとー」
「おおおー復活待ってました~~~」
「また歌って~」
「きゃー奥様~」
駆け寄ってくるミニョのファンと明らかにA.N.Jellのファンであろう人々の間で、もみくちゃにされそうになるミニョの前にマ・室長が立ちはだかり、警備員も駆けつけて、ミニョをガードしながら裏口に向っていたが、伸ばされる腕と、こんな中でも丁寧に握手をしたり挨拶をしているミニョにマ・室長が引き攣った笑顔を浮かべて、相変わらずだと呟いている。
「ありがとうございます」
「応援してますっ!!」
「握手!握手して~」
「サイン!サイン~」
黄色い歓声の中を通り抜け、あと少しで入り口に辿り着けるとマ・室長が胸を撫で下ろしたその瞬間、きゃっという小さな悲鳴と供にわーという声が聞こえ、振り返ったマ・室長は、下を見つめてボーっとしているミニョを見た。
「わわわわっ!シスター!!」
「キャー!!!ごめんなさいっ!!!」
「ちょっと、押したの誰ー」
ミニョのスカートに零れたコーヒーが、みるみる染みを拡げて、手に持ったタンブラーとミニョの染みとを交互に見た女性は、ハンカチを取り出してミニョのスカートをすかさず叩きだしたが、少し後ずさって遠巻きにしているファンを前にマ・室長が、ミニョの腕を掴むとささっと、扉を開けて中に連れ込んでいる。
「シッ、シスター大丈夫ですか」
「あっ、大丈夫です!」
ミニョを見たマ・室長は、あれっと首を傾げると顔をあげて、徐々に目を見開き、なっ、なっ、と口をパクパクさせた。
「あ、ごめんさい!でも、これ・・・」
女性が差した腕は、ミニョがしっかり掴んでいて、あれっと言って女性の腕を見たミニョは、慌てて離すと正面に立って深々と頭を下げている。
「ミッ、ミアネヨ~」
「シスター・・・・・・」
「わっ、すっ、すみませんマ・室長~」
「ああ、良いです・・・それよりあなた申し訳ない関係者以外は・・・」
マ・室長がそう言うのを遮る様に、にこっと笑った女性は、カバンから紙を取り出して、マ・室長に渡すとミニョの手を引いて廊下に置かれたベンチに腰を降ろさせ、カバンから袋を取り出した。
「丁度良かったわ!これ使って」
そう言って、ミニョに大きな袋を渡したのだった。
★★★★★☆☆☆★★★★★★★★★★☆☆☆★★★★★★★★★★☆☆☆★★★★★
新キャラの片鱗でした(^^)/ごちそうさま❦
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byアメーバピグ |
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