「どういうことだ!?」
渡されたファイルを捲るテギョンの尖って左右に動く唇と、いったりきたりしては、ピタッと止まって眦を細め左に寄せられる瞳に引いた腰で立っているマ・室長は、どう逃げるかを算段している様で踵を僅かずつ下げながら両手を前に出している。
「いや、だから・・・さ、その・・・」
「あんたがついてて、どうしてこういう事になるんだっ!!!」
ファイルに描かれた絵コンテの上で、トントントンと紙に指がめり込むのではないかという程に強く指先を動かすテギョンは、その仕種さえも苛立ちを表していて、ゆっくりあげた顎に手を添えると上から見下(くだ)す様にマ・室長を見下(お)ろし、指先で唇に触れた。
「いや、その、どう、と言われてもなぁ・・・」
テギョンの苛立ちに踵を僅かずつ引いているマ・室長は、顔を横に向けながらやっぱりなぁと小さく小さく呟いていて、それさえも聞き漏らさないテギョンは、ギロッと一際強く睨んでいる。
「こんなの納得出来る訳が無いだろっ!!!」
左手に持っていたファイルをパタンと閉じるとぎゅっと握り締めて、マ・室長を睨み続け、握ったファイルを鼻先に突きつけた。
「い、う、あー俺もそう言ったけど・・・シス、ターが・・・」
テギョンの怒りにシスターと溜息をつきながら、抑えて抑えてという雰囲気で手を動かすマ・室長は、まだジリジリ下がっている。
「ミニョ!?」
顎を擦りながら、面白く無さそうに頭を動かしていたテギョンは、ミニョの名前に反応すると爪先の向きを変え、ファイルも右手に持ち替えた。
「ミニョが、何だ!!」
「いや、ファン・テギョンなら大丈夫ですっ!!・・・って・・・」
ツッとテギョンの足が一歩前に出たと同時にマ・室長の背筋が伸びている。
「チッ!!あいつ、何を考えてる」
テギョンの尖る唇が更に不満そうに前に突き出され、右手に持ったファイルの形が既に変わり始めていて、マ・室長が慌てて手を伸ばしているが、握りこむ手の力は更に強くなる一方で、唇を左右に動かしながら何かを考えているテギョンは、拳にしている右手を左手で叩きながらぶつぶつ呟いていて、テギョンの手から何とかファイルを取り戻そうとしている、マ・室長の手が宙を何度か空振り止まったテギョンの手の動きに素早くファイルを抜き取った。
「いやーだからさ、その、お前が契約済だからっ・・・」
取り返したファイルの折り目のついた箇所を何とか腹で直しているマ・室長は、中を覗き込んで社長にも見せてないのにと片目を閉じていてその言葉も面白くないテギョンは、ますます目を細めている。
「睨むな、睨むな」
テギョンの目は鋭くマ・室長を執拗に睨みつけ、また、顎をあげると腕を組んで正面に立ち直した。
「そんなの契約のうちに入ってなかっただろっ!!」
怒声を浴びせるテギョンは、まぁまぁと言うマ・室長を睨むのを止め、視線を上にあげると大きな溜息をついて、ミニョは、何処だと聞いている。
「ああ、シスターならシャワールームに・・・」
「シャワールーム!?」
眉間に皺をよせ、不思議な顔をして首を傾げるテギョンは、チッと大きな舌打ちをするとくるっと踵を返した。
「ったく、どんな事故を起こしたんだっ!!!!」
「あっ、おいっ!テギョン!!まだっ・・・」
呼び止めるマ・室長の声も虚しく、廊下に出て行ったテギョンは、怒りを露にしながらミニョの元に向かって行き、そんな様子を遠巻きに見ていたミナムとジェルミが、マ・室長に近づいてくるのだった。
★★★★★☆☆☆★★★★★
「俺が契約したから!?だからなんだというんだ!!」
ぶつぶつ文句を言いながら、階段を駆け上がっていくテギョンは、ああああーと大きな声を出して、ミニョのやつ~と吐き出し、ツカツカと廊下を早足で歩いて、シャワールームのドアを開け、ロッカーの立ち並ぶ間を抜けて、ブースの手前まで歩いて行くと水音と供に笑いあう声が、聞こえる事に怪訝な顔をしたが、それでも息を吸い込むとコ・ミニョと大きな声を出し暫くすると、なんですか~とのんびりした返事が返ってくる。
「聞きたいことがある!!!」
すぐに出て来いっと言ったテギョンの目の前で、扉が開くとドーンと言いながら、裸で走りよってきたリンが、濡れたままテギョンの足に抱きついた。
「・・・・・・っま・・・」
抱きつかれ固まったテギョンは、視線だけでゆーっくり下に下げ、リンと目が合うと引き攣った口角をあげた。
「あははは~アッパも水浸し~」
「何でお前がここに居るっ!!!」
「オンマとシャワー浴びてた~」
くっ付いたまま答えるリンに熱でも出た様に額に手を当てたテギョンは、毒気を抜かれた様に溜息をつくと、ミニョはと聞いている。
「すぐ来るよー」
ロッカールームのベンチに置かれた籠の中のタオルを取りに走ったリンの背中を視線で追いかけるテギョンは、タオルを持って戻って来たリンからそれを取上げ、頭に被せると、そうかと言いながらリンの濡れた髪をゴシゴシ拭き、ふんと鼻で軽く笑っているのだった。
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