「オッパは、今、どちらに!?」
残ったケーキの箱を持って、冷蔵庫に向ったミニョは、それをしまいながらシヌに訊ねると、食べ終えたお皿を持ってキッチンにやってきたリンからお皿を受け取ってシンクに入れた。
「ああ、局だよ」
「テレビ局!?」
リンの肩に手を乗せシヌの前に戻ってくるミニョに押される肩を預ける様に小走りでキャーと笑いながら両手を拡げるリンは、まるで電車ごっこをしているようで、テーブルの前でピタッと止まると振り返ってミニョの腰に腕を回し、笑いあって、一緒に腰を下ろしている。
「何してるの~」
シヌが、淹れてくれたお茶を受け取ったリンが、両手でカップを持ちふーふーと息を吹きかけ、ミニョもカップを持ち上げるとリンの仕種に笑みを零した。
「何してると思う!?」
シヌが、微笑みながら前屈みにリンに訊ねると解らないという答えが返り、ミニョもリンを見て頬に手を当てている。
「わたしにも全く・・・」
「デートだって言ったろ」
「デートですか・・・」
「そう、その箱の中」
「箱!?」
シヌが指差したミニョの隣に置いてある袋の中には、大小様々な箱が入っていて、その袋を引き寄せたミニョは、何ですかと聞きながら中身を取り出した。
「そっちの袋は、ソリの為、で、こっちは、ミニョとリンの為」
「僕のー」
「リンのは、音楽関係の本とかCDとかそんなのばかりだったけどね」
「アッパにお願いしてたやつかなー」
ミニョが引き寄せた袋を覗き込みごそごそと取り出していくリンが、やっぱりーと言ってリボンの付いたCDケースを取り出すと、聞いてくるーと言ってリビングを出て行き、その素早い行動を見ていたシヌとミニョが、クスクス笑っている。
「もう、アッパは、リンに甘すぎます!」
「CDくらいいいじゃないか!それに甘いのはミニョにもだろ」
「そっ、そんなことっ!!」
「あるだろ」
袋の一番下に入っている正方形の箱を取り出したミニョにシヌが開けてと言うと大きな白いリボンの掛かった黒い箱をテーブルに置いたミニョは、訳知り顔のシヌをちらちら見ながらリボンを解いていき、蓋を開けると中から、薄い紙が出てきた。
「紙・・・ですか」
持ち上げた紙は十重二十重になっている薄い薄い紙で、包まれたその中になにやら小さく光るものが見え隠れしている。
「なんですか!?」
紙を両手で退かし覗き込むようにしたミニョは、ゴクッと息を呑むのと同時に口元に手を当てた。
「えっ、これ・・・」
「覚えてる!?」
「えっ、えっと、はい・・・」
少しだけ震えた手を箱の中に伸ばしたミニョは、傷つけないように中に入れられたスポンジの隙間に手を要れそれを持ち上げて胸の前にあげるとポトンと落ちた雫にあれっと目を擦っている。
「テギョンからだけど、俺達からでもあるからね」
「あ、りがとうございます」
胸の前に翳す、小さな帽子は、いつか見たウェディングベールがカジュアルなカンカン帽の周りを彩るレースのリボンに変わり、ティアラの装飾が、一部分だけ切り取られ、天使の羽の様に作り直されていた。
「これって・・・」
「被ってみせて」
シヌに言われるまま頭に帽子を乗せたミニョは、自然と口角があがり、笑顔を作っていて、シヌが、ミニョの前で携帯を翳すと、写真を撮って、早速どこかに送っている。
「さて、俺の仕事も終わりかな」
「えっ!?仕事中ですか!?」
「いや、撮影は終ったよ」
ウインクしてみせるシヌは、ミニョの不思議そうな表情を見つめ、クスクス笑うとカップを手に持って、時計を見ながら、お茶を飲んだ。
「そろそろかな」
そう言ったシヌが、リビングの入り口を見つめ、釣られる様にそちらを見たミニョは、恐ろしく乱暴に開いたであろう玄関の音に両耳を塞いだのだった。
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