大きな声を出したテギョンに耳を塞いだリンは、下を見て煩ーいとこちらも大きな声を出した。
見上げた先に明るい茶系の天井を目に入れ、リンの両腕を掴んで呆け、何度も瞬きをしているテギョンの顔の前で手を振っているリンが、ミニョを呼んでいる。
「オンマー、アッパね、ま~だ、変だよ~」
首を傾げては、テギョンの顔に手を振り、上に覆い被さる様にテギョンの胸の上に両手を重ね、寝転がったリンは、にっこり微笑んでいて、天井から視線を移したテギョンと目が合うとおもしろい顔ーと言った。
「アッパのお顔は綺麗でしょー」
少し離れた処から他に集中している様なミニョの返事が返り、リンの右腕を掴んで左手を額に当てたテギョンがゆっくり起き上がっている。
「おはよう!アッパ!」
元気に声を掛けるリンの声に煩そうに瞳を細めたテギョンは、腹の上に乗っているリンを見止めて、暫く眺めていたが、不機嫌にどこに乗ってるんだと声をかけ、テギョンの顔を見て、跨っている自身とテギョンの腹の隙間を眺めてから顔に視線を戻したリンは、アッパのお腹ーと嬉しそうにその首に両腕を伸ばした。
その勢いにまた寝転がりそうになったテギョンだが、リンの背中に片腕を回すとソファの背凭れに手を乗せて体を支えている。
「こ・・こは・・・」
周りを見回しぼーっとしている頭を軽く振ったテギョンの顔に翳が落ちるとそちらを見上げたテギョンにミニョが顔を近づけた。
「寝ぼけてますか!?」
「そうみたーい」
「・・・ミ、ニョ」
「おはようございます!よく眠ってましたね」
こんな処でと口元に手を当てクスクス笑うミニョに返事を返そうと口を開き、見上げたテギョンだったが、次の瞬間、目を大きく見開いて指を指して固まっている。
「そっ、それ・・・って」
それと指差したミニョの胸の前には、一冊の革張りの厚い本が抱えられていたが、見覚えがあるらしいテギョンは、震える声で確認をした。
「ああ、お借りしたんです!とっても楽しかったですよ!」
「借りたっ・・・て」
「それより、アッパ!よく眠ってましたね」
テギョンの質問に答えるよりもミニョは、問いを優先している。
「全然起きなかったね」
「ええ、珍しいですね」
ミニョとリンが顔を見合わせクスクス笑いあうと、ふたりの表情に唇を尖らせ始めたテギョンが、何の事だと聞き、リンですとミニョが答えるとテギョンの首に回っているリンの腕が緩み、片手だけ首に残してテギョンの腹を指差している。
「僕、ずっとここに居たんだよ」
「俺に乗ってたのか!?」
驚いた顔で指摘された腹を見たテギョンが、以前よりも大分重くなっているリンの顔を見て、腰を引き、まだ片腕で何とか持ち上がるリンの体を持ち上げて座り直した。
「うん!アッパが先に引いたんだよ」
「なっ・・・」
座り直したテギョンの上でこちらも座り直したリンが、また首に両腕を回している。
「ふふ、大事にされて嬉しいわね」
くっ付いている二人を見下ろして微笑んでいたミニョが、そう言った時、書斎のドアが開くとミニョの持っている本と同じ装飾の本を数冊抱えたギョンセが、部屋に入ってきた。
「リン!これがそうみたいだよ」
リンを呼びながら書斎のテーブルに本を降ろしたギョンセは、テギョンの姿を見ると起きたのかと微笑んでいる。
「よく眠ってました」
ミニョが、部屋の中央に置かれたソファに戻り、そこに腰を降ろすとギョンセもすぐ隣に腰を降ろし、ほんとだねと言って、二人を見つめ、きょとんとしているテギョンは、リンにあっちと指を指された事で、ゆっくり立ち上がるとミニョ達のいるソファに歩いてきた。
テーブルに置かれた何冊もの革張りの本を目にしたテギョンは、それらを見て片目を閉じている。
「座ったらどうだ」
「どこからこれを・・・」
リンを抱いたまま下座の一人掛けのソファに腰を降ろしたテギョンは、お茶を飲み始めたギョンセを軽く睨みつけながら聞き、腕の中にいたリンは、ミニョに指を指して、その一冊を受け取ると開いて中を確認し始めた。
「お前の部屋に置いてあっただろ」
「そうですけど・・・ミニョが持ってるのも同じ物ですよね」
「そっちは、わたしのアルバムだ」
写真しかないぞと笑っているギョンセにチッと小さく舌打ちをしたテギョンは、リンの開いている本を覗き見て、取り上げる事はしなかったが、片手で顔を覆い、気まずそうに顰めている。
「もっと悪いでしょ!何でこれの在り処を知ってるんです」
戸惑いながら、少しだけ憤りを露にしたテギョンにギョンセは、何ごとも無い態度で笑い続け、ミニョとリンも微笑んでいて、肩越しに覗くリンの開いた本は、テギョンの子供の頃のコンクールや、自宅でピアノを練習している時の写真で、その横に古びた譜面が丁寧に挟み込まれ、写真と一緒に収められていて、几帳面なテギョンらしいのかアルバムには日付や場所、曲目、間違えた箇所迄もが、書き込まれていた。
「わたしの家だからな!知っていても良いだろ」
「なっ・・・」
「お前が置いていった物だ・・・つまり、あの部屋の一切の権利は、わたしにあると思うがね」
ギョンセの指摘する事に一言も返せず、絶句をしてしまったテギョンは、腕を持ち上げて何か言おうと開き掛けた口を閉じ、首を振って額を押さえている。
「ふふ、アッパの負けです」
ミニョも他の本を開いていて、それは同じ様な写真だが、ギョンセとふたりでクスクス笑いあい説明を受け、楽しそうに見入っていて、そっくりですねとか、可愛いですとか指を指しながら嬉しそうに笑っている事に大きな溜息を零したテギョンは、諦めた様に目を閉じるとソファに沈み込み、ふと、聞こえたBGMに耳を澄ませると『月光』かと呟き舌打をした。
夢の中で、リンに聞かせた『月光』が部屋の中に響いていて、夢の中でミニョが見ていたアルバムが、今、目の前にある。
この状況に頭を抱えているテギョンは、深い深い溜息を零すと何なんだと眠ってしまった経緯を思い出すようにぶつぶつと呟き始めたのだった。
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